レトロなイメージのあるビーズバッグが、ここに来て注目を浴びている。

きっかけは、2017年5月28日、ツイッターに投稿された、「昭和に流行ったビーズバッグ。持っている人は捨てちゃダメだよ。いらないと思ったら誰かに譲って。(中略)作る人がもういない。最早消えるのみだから」というつぶやきだ。今となってはタンスの奥に眠っていそうなビーズバッグは、そんなに貴重なものなのか。J-CASTニュースは専門家に話を聞いてみた。

「危うく捨てるところだった」

このツイートは、30日13時段階で6万1000件以上リツイートされ、別のユーザーが投稿した、「国立民族学博物館の池谷和信先生が『捨てるなら、みんぱくに送ってください! 僕らが保管します。もはや貴重な文化財なんです』とおっしゃっていました」といった趣旨のツイートも拡散。

ツイッター上では、

「このビーズバッグは祖母から母に、母から私にと受け継ぎました。ツイートを拝見し、これまで以上に大事にしていこうと思いました。ありがとうございました」
「押入れを探せばビーズバッグがいくつもあるはずです。当時、そこのおばちゃんからよくもらってたので。ありふれたものでありがたみを全く感じていませんでしたが、今となっては大変貴重なものですね。大切にします」
「親から押しつけられたビーズバッグ危うく捨てるところだった」
「最高に可愛いビーズバッグ持ってるから自慢させて」

など、写真付きでマイ・ビーズバッグを紹介するツイートも多く、熱はさらに加速している。

調べてみると、現在、日本製のビーズバッグを製造できるのは、平田袋物工芸(東京都台東区)などごくわずかのようだ。この状況を見ると「消えゆくのみ」というつぶやきも「おどし」ではないことがわかる。

一時はトレンドワード入りまでした「ビーズバッグ」は、どれほど貴重なのか――。2017年6月6日まで、「開館40周年記念特別展『ビーズ―つなぐ・かざる・みせる』」で、ビーズバッグを展示中の「国立民族学博物館」(大阪府吹田市)、人類文明誌研究部、池谷和信教授に話を聞いた。

和製ビーズバッグの文化的な価値

「作る職人が減っているのももちろん大切な問題ですが、私が伝えたいのは、和製ビーズバッグの文化的な価値です。実は日本の本州以南では古墳時代の後にビーズ文化はいったん終わっているんです。戦後〜高度経済成長期に流行ったビーズバッグや小物は、日本では久しぶりの『ビーズブーム』だったわけです。日本のビーズ史としては大変なインパクトでした」

池谷氏によれば、ビーズの定義は、玉と玉をつなげたものだ。古墳時代は、翡翠や玉と呼ばれる「数珠つなぎ」のビーズ文化だった。言うなれば「線」のデザインだったが、昭和にはバッグに飾り付け彩るようになり「面」のデザインに変わった。

この「面」で日本独自の技術とデザインが花開いた。

「ビーズで画を作るというのは非常に技術がいります。しかも日本では『植物』や『蝶』など生き物を好んで取り入れてきました。高度なものになると、葉の葉脈ごとに色を変えたり、羽ばたく羽根の躍動感も、ひとつひとつビーズで表現したりしています。これは世界でも珍しいことです」

もともとビーズバッグはヨーロッパから入ってきた文化だが、ヨーロッパでは日本ほどデザインが多様化していないそうだ。

「ヨーロッパや中東でもビーズは装飾に使われていますが、布に縫い付けるというのがほとんどです。ですが日本は着物でビーズとの相性はよくなく、小物を通して『面』のビーズデザインが広がりました。着物と合わせて持つというのも特徴ですよね」

今回の「ビーズバッグ熱」で、博物館にもたくさん問い合わせが来ているという。その中で「引きとってくれるのか」という質問が多いようだが、これについては、

「当館では、資料を受け入れる際に、その資料の背景となる情報を資料と一緒に聞き取りして資料情報を作成しております。通常は、写真等ものの形がわかるものと情報をお送りいただき、受入の可否を判断しています。今回のビーズバッグについても、同様の手順を踏む必要があります」

と話す。「状態がよい場合には博物館で保管する」そうだ。