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2017年のノーベル生理学・医学賞の受賞者が、体内の概日リズムを制御する分子メカニズムを発見した3人の米国人科学者に決まった。ジェフリー・ホール、マイケル・ロスバッシュ、マイケル・ヤングの3人は、生物の体内で時を刻む「体内時計」に指示を出す遺伝子を特定した功績が認められた。

彼らの功績は何十年も前のものである。だが、スマートフォンの画面から発せられる光がいかに体内時計の周期を狂わせ、人間の健康に影響を与えるかを理解するために重要な研究だ。

当初の受賞予想は、先進的かつ“派手”な科学技術で占められていた。例えば、遺伝子編集技術の「CRISPR」である。気候耐性の強い穀物や、より効率よく生み出されるバイオ燃料、そして最新的な治療法をもたらす技術だが、その受賞は先送りとなった。がん治療において化学療法や放射線療法に頼らずに、がんと闘う細胞システムを活性化させる先駆的な研究も同様である。

最終的に評価されたのは、ホール、ロスバッシュ、ヤングの3人による研究だった。これは「植物、動物、そして人間がどのように生物学的リズムを順応させ、地球の変化に同期しているのか」というテーマで、これは決して最新のトレンドにのった研究というわけではない。だが、いまの時代においては意義が高まっている。

体内時計をつかさどる遺伝子を特定

月の周期は占星術師や、水晶を巧みに使う霊能力者のためだけにあるわけではない。血圧や心拍、体温、ホルモンレヴェル、代謝、睡眠、そして行動といった重要な機能をつかさどる全ての臓器は、昼と夜の変化に合わせて24時間周期で働く。しかし1984年になって、3人の科学者が初めて、この概日リズムを制御すると思われる遺伝子を特定したのだ。

彼らはキイロショウジョウバエを用いて、この遺伝子を欠いているハエが、これらの生物学的機能を自己制御する能力も失っていることを発見。遺伝子の機能を元に戻すと、周期は元通りになった。

3人の科学者のさらなる調査によって判明したのは、あるタンパク質を遺伝子がつくり出し、それをハエが夜間に眠っている間に蓄積、日中は分解することである。このシステムの長年にわたる研究の結果、科学者たちは光の影響を受けるもの1つを含む、24時間のリズムを制御するために調和して働くタンパク質群をマッピングした。

こうして、睡眠と覚醒の背後にある分子メカニズムと、それらが日光にさらされることとの関係が、21世紀の睡眠科学の確立に寄与したのである。人々は海外旅行などで日光に触れるタイミングが変わったり、就寝前にスマートフォンの画面を見続けてブルーライトを浴びたりすることで、自分の体内時計が狂うことを知っている。結果、目覚めているべき時間にふらつくことになり、逆のことも起きる。

医薬品で体内時計を補正できるように

最近は、人々が日周期の調整不良を正すのを助ける健康ウェルネスアプリや装置も登場している。こうしたものには、就寝の数時間前には電話の電源を切るよう警告してくれるものもある。そのほかにも、ライトを使って起床を手助けするものもある。

こうした睡眠にまつわる遺伝子の基盤は、医薬品業界にとって魅力的なターゲットになっている。一般消費者向け遺伝子分析サーヴィスの23andMeは最近、体内時計に基づいた新しい睡眠薬を開発するため、製薬会社のReset Pharmaceuticalsと契約を結んだ。朝型の人は夜型の人より鬱病や肥満になりにくく、ほかの疾病にもかかりにくい傾向にある。体内時計を補正する医薬品は、夜に活動するフクロウが、昼間にヒバリのように鳴くのを助けてくれるかもしれない。

遺伝子は自分を形成するものである。だがノーベル賞の受賞者達(そして未来のバイオハッカーたち)のおかげで、それが必ずしも日々の生活リズムを規定するものではなくなるかもしれないのだ。