世間ではアベノミクスによる景気拡大が叫ばれ、いざなぎ景気を上回り、戦後2番目の長さを記録している。企業業績も好調で、2018年3月期上期の経常利益は過去最高を更新。安倍首相は今回の春闘で「3%の賃上げが実現するよう期待したい」と発言していたが…。

【こちらも】ボーナスの使い道「貯金」が79.5%、使い方に「不満」約4割 クラウドポート調査

 さて、企業の儲けは働く人に届いたのか?東京商工リサーチが2018年度の賃上げに関するアンケート調査を実施し、7,408社から回答があった。

 まず最初に賃上げの定義だが、「定期昇給」「ベースアップ」「賞与(一時金)」「新卒者の初任給の増額」「再雇用者の賃金の増額」をまとめて賃上げとしている。会社規模だが、資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義している。

 最初の質問は今年度、賃上げを実施したか?実際に「賃上げを実施した」は6,086社で、全体の8割(構成比82.2%)を占めた。規模別では、大企業では「賃上げを実施した」が880社(構成比84.6%)、「実施していない」が160社(同15.4%)だった。一方、中小企業は「賃上げを実施した」が5,206社(同81.8%)、「実施していない」が1,162社(同18.2%)だった。

 賃上げ内容を質問すると、最多は「定期昇給」の4,403社(構成比78.7%)だった。次いで、「ベースアップ」が2,451社(同43.8%)、「賞与(一時金)の増額」が2,095社(同37.4%)と続く。構成比では「定期昇給」(大企業82.8%、中小企業78.0%)と「ベースアップ」(大企業44.1%、中小企業43.7%)は、大企業と中小企業に大きな差はなかった。

 定期昇給を実施した企業に定期昇給の上げ幅(月額)を聞くと、最多は「5,000円以上1万円未満」の935社(構成比21.3%)。次いで「2,000円以上3,000円未満」927社(同21.2%)、「3,000円以上4,000円未満」753社(同17.2%)だった。

 構成比では、「5,000円以上」は大企業(22.3%)、中小企業(28.2%)と、中小企業が5.9ポイント上回った。「5,000円以上」の回答で、最も多かった業種は「情報通信業」の118社(同44.0%)だった。

 企業に賃上げした理由を聞くと、大企業の多くは「今後戦力になる新卒者のモチベーション向上」、中小企業は半数以上が「離職防止」と回答。企業規模によって賃上げ姿勢の違いが明らかになった。

 また、景気の先行き不透明感を背景として、賃上げを実施しなかった企業は全体の約2割(構成比17.8%)あった。賃上げ未実施企業の割合は、中小企業が大企業を2.8ポイント上回っている。賃上げができない企業は求人難に加え、退職が加速する可能性もあり、中長期的には業績への影響も危惧されるようだ。

 2018年賃上げ事情のひきこもごも。大きく賃上げした人もいたり、逆に残念ながら賃上げなしという人もいることが今回の調査で分かった。賃上げしない理由として、人手不足の解消などに設備投資を優先したいという企業も多い。そんな企業にあえて言いたい。働く人への分配に消極的であり続ければ、社内の大切な人材をきっと失うことになるだろう。