ネイマールには同情すべき点もあったと語るセルジオ越後

あっという間の1ヵ月だったね。ロシアW杯はフランスの20年ぶり2度目となる優勝で幕を閉じた。

フランスは19歳のFWエムバペばかり注目を集めていたけど、彼は試合によっては"消える"時間も長かった。それでもフランスが優勝できたのは各ポジションに実力者がそろい、総合力が高かったということ。

チームのベースは安定した守備。なかでもヴァラン、ウンティティは強くて速くて、今大会最高のCBのコンビだった。その彼らの前には守備のスペシャリストであるMFカンテがいて、後ろには百戦錬磨のGKロリスがどっしりと構えている。そしてボールを奪うとエムバペ、グリーズマン、ポグバら個で勝負できる選手が速い攻撃を仕掛ける。決勝のクロアチア戦も、前半は内容的には押されていた。それでも引いてしっかり守ってセットプレーをモノにし、後半に入るとカウンターから効果的に追加点を奪った。

25歳以下の若い選手がスタメンの半数以上を占めるものの、その大半がビッグクラブに所属。2年前のEURO(欧州選手権)でも準優勝するなど、若いなりに経験を積んでいる。

今大会は接戦続きの勝ち上がりで、決して"横綱相撲"ではなかった。チームの完成度はジダンを擁して初優勝した1998年大会のほうが高いと思う。ただ、若いチームだけにこれからどれだけ強くなるかという楽しみがあるね。

もう1チーム、僕の母国ブラジルについても触れておきたい。前評判は高かったのに、ベスト8であっさりと敗退。まったくの期待外れで、ブラジル国内では多くの批判を受けている。

敗れたベルギー戦は、ボランチのカゼミーロの出場停止がとにかく痛かった。ベルギーのカウンターは脅威だったけど、彼がいればあそこまでバタバタすることはなかった。守りのバランスが崩れたね。

"演技"が批判されたネイマールについては、彼は今までもそういうプレースタイルだったし、逆に言えばそれだけ削られているということ。所属クラブでも、優勝したリオ五輪でも彼がやっていることは変わらない。結果さえ出していればここまで叩かれることはなかったんじゃないかな。

また、ネイマールには同情すべき点もあった。今回はいつも以上に相手のマークが彼に集中していたからだ。その大きな理由は、ブラジルの武器である両SBに起きたアクシデント。右SBはダニエウ・アウベスがケガで代表落選。代役のダニーロも大会序盤に負傷し、3番手のファグネルを使わなければならなかった。左SBはマルセロがセルビア戦で背中を痛め、その後は低調なプレーに終始した。

いいときのブラジルの攻撃は両SBがウイングのように攻め上がり、相手の守備を広げてから中で勝負するというもの。でも、今回はその両サイドが機能しないから、中央にスペースが生まれず、相手の守備もネイマールに集中した。

また、コウチーニョをネイマールのいる左サイドで起用したことも裏目に出た。ふたりの位置取りが重なるなど機能していなかった。南米予選ではコウチーニョが右サイドにいてバランスが取れていたのに、チッチ監督はなぜ本番で変えたのかな。

ブラジルは2002年日韓大会以来、W杯の優勝から遠ざかっている。今回は前評判が高く、僕も期待していただけに残念だった。

構成/渡辺達也