終電近い電車を降り、改札を出ようと歩いていたら、前方の長身スレンダーな女性がSuicaを激しく叩きつけるようにタッチしていて、呆然と見とれたことがある。なんかちょっとカッコよかったけどあんな乱暴にタッチしていいのか……?

ICカードのタッチについては、JR東日本のウェブサイト上にこんな風に説明されている。「Suicaマークのついた読み取り部に、しっかりタッチしてください」、また、「確実に通信範囲内を通過するようしっかりタッチしてください」と。“通信範囲内”とはリーダー部から約10センチだという。詳しくはこちらを。

まあ、そりゃそうだという感じだ。とにかくピッと反応する近さまでカードを近づけて……あれ、普段どうやってタッチしてたっけ。

ICカードってどんな風にタッチしてる? と唐突に友人に聞いてみた。すると驚いたことにこんな返答があった。「カード入れに指を回して握る。そうしたら(ICカードリーダー部に)当たるのは指だから」

お分かりだろうか、いわば指を“台座”のようにしてカードそのものをリーダー部から少し浮かせているわけだ。

え、なんで? と聞くと「カード入れを汚したくないんだよね」という。別の友人も「結構気に入ってるパスケースだから、俺も少し浮かせてる。直には当ててない」というのだ。なんかちょっと神経質というか、なんか「もっと肩の力抜いて行こうぜ!」と声をかけたくなる。

しかし驚きはこれだけで終わらなかった。翌日、自分のICカードタッチのスタイルを確かめて見たところ、ちょっと浮かせているのである! 俺もかよ!

それからというもの、みんなICカードをどんな風にタッチしているのか、そんなことが気になり始めたが、会う人にそんな質問を切り出せる機会もそうそうなく、時だけが流れて行った。そしてこの度、私は決めた。「改札に立って、みんなのタッチを見る!」

と、いった経緯でやってきたのが東京・JR新宿駅の中央東口改札。時刻は朝の9:30、平日である。JR新宿駅は一日平均で75万人以上が利用するという、世界一の乗車人員を誇る駅。改札に立ち、人々のカードタッチの仕方を眺めてカウントして行こうと思う。言うまでもないが、交通の妨げにならぬよう、改札脇の誰も通らない暗い隅っこに静かに佇んだ。

・浮かせる派
・しっかりタッチ派
・バシッと叩く

などいくつかのスタイルに分類し、男女別に数えてみることに。

さあスタート! と、始めてみてすぐわかったが、複数の改札を眺めようとするととてもじゃないが速過ぎて追いきれない。2台の改札に絞ってカウントしていくことにした。それでもなかなか追いきれない感じだったので、気持ちをドンマイモードに切り替え、確認できたところだけを計上。自分の動体視力の低さが悔しい。

タッチの仕方にはいろいろなスタイルがあるのでは、というこちらの予想に反し、みなさん大抵はカードやカード入れの全面をしっかり押し当てて通過していく。淀みのない動きで改札を出て大都会・新宿に颯爽と飛び出していく。自分はこんなところに立って何をしているのだろう。実家帰りたい……。そんな気持ちが押し寄せてきたのはさておき、一切スピードを落とさずにスイスイと通り抜けていく人々の動きに不思議と胸を打たれる。みんな、なんかすごい上手だ……。かなり幼い子供も器用にタッチして出て行った。

中途半端なタッチで読み取りエラーが起きれば、その分後ろからくる人の邪魔になる。それを避けるべく完ぺきなタッチスタイルを自然に体得した、そんな印象である。

1時間ほどねばって637タッチをカウント。結果、以下のような割合になった。

【東京・JR新宿駅】
<男性>
・しっかりタッチ …84%
・一部だけタッチ … 9%
・浮かせる派   … 4%
・バシッとやる派 … 2%
・その他     … 1%

<女性>
・しっかりタッチ …82%
・一部だけタッチ …10%
・浮かせる派   … 5%
・バシッとやる派 … 2%
・その他     … 1%

圧倒的に「しっかりタッチ」が多数だった。「一部だけタッチ」は、カードの先の方だけ、とか左右の片側だけ、といったライトなタッチをまとめたもの。筆者やその友人が属する「浮かせる派」は予想以上に少数派であることがわかった。ただ、前述の通りかなり遠い位置からの判断なので、5ミリ浮かせてる、みたいな絶妙なテクニックは見分けられていない恐れはあるが……。また、全体的に男女の区別はあまり関係ないように見える。

ちなみに「その他」の中身は、
・タッチした上にグルンと半回転させる
・ポンっと投げてサッと取る
・両手でタッチ

などであったが、どれもごくごく少数。

私事で恐縮だが、筆者は最近東京と大阪を頻繁に行き来する生活を送っている。そこで、このICカードのタッチスタイルについて、東京と大阪で比べてみたら違いがあるのでは、と思った。新宿駅での検証と同じく、平日の9:30から検証することに。

やってきたのはJR大阪駅中央口改札。JR大阪駅は一日平均で42万人以上が利用する西日本最大の駅。こちらでも交通の妨げにならぬよう、人通りのない壁際からカウント開始。

なんとなくだが、「浮かせる派」や「先だけちょこっとタッチ」みたいなタイプの方が多く見受けられる気がする。一時間ほどで、444タッチをカウント。さあ、どのような結果になるのか!

【大阪・JR大阪駅】
<男性>
・しっかりタッチ …73%
・一部だけタッチ …15%
・浮かせる派   … 9%
・バシッとやる派 … 3%
・その他     … 0%

<女性>
・しっかりタッチ …72%
・一部だけタッチ …14%
・浮かせる派   … 8%
・バシッとやる派 … 2%
・その他     … 4%

圧倒的多数は「しっかりタッチ」派だが、若干「一部だけタッチ」「浮かせる派」の勢力が強いという結果に。

大阪の人々の方がパスケースを大事にする傾向があるのかもしれない。もしくはICカードリーダーを大事に扱おうという気持ちが強いのか。それにしても、人々が一切無駄のないスムーズな動きで改札を通過していく様子にはぼーっと見入ってしまう。

「その他」の中身は、東京でも見受けられた
・タッチした上にグルンと半回転させる
・ポンっと投げてサッと取る
のほか、
リュックやバックごとズンッとタッチする人が何人かいた。

とまあ、新宿駅も大阪駅も交通量の多い駅だけに、様々な地域から訪れる方がおり、一概に東京と大阪の比較とは言い切れないが、なんとなく差が出た……でしょうか。

改めてJR東日本にICカードの正しいタッチについて問い合わせてみたところ、「しっかりとカードの全面を読み取り部と平行に当ててください。強く当てる必要はありませんので、読み取り音がするまでゆっくりしっかり当てていただければ」との返答。今回の検証では。みなさんほとんどこの通りに利用されているように見えました。

ここまで書いてきて、検証の時間帯によって結果に差があるのではないかと思い始めた。お勤めしている人の帰宅時間帯とか、終電に近い時間帯などではもしかしたらもっとラフなタッチが見られるかもしれない。ぜひまた確かめてみたいと思う。
(スズキナオ)