社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

NPO法人シェルパ

2018/03/22
 

障がいのある方が地域の中で
当たり前のように暮らし、役目を担ったり、
働くことができるまちづくりを目指しています


「NPO法人シェルパ※」は2015年9月、双葉郡楢葉町の避難指示解除に先駆け、同年2月に誕生した団体です。主に双葉郡の障がいのある方に対し帰還準備・帰還後の生活において、当事者と家族が安心して暮らせる仕組みを生み出して行こうと、楢葉町出身の古市貴之さん(41歳) が立ち上げました。その活動は、障がい児者の一時預かりや子どもからお年寄りまで利用できるホームヘルパーサービス、福祉サービス等よろず相談など、多岐にわたります。覚悟を決めて帰還された皆さんが、生きづらさを感じない地域を作ろうと奮闘する古市さんに、現在とこれからについて伺いました。

※「シェルパ」は、エベレストなどヒマラヤ登山で高所ポーターとして荷物運搬や案内などを務める人のこと。障がいのある方にとっては、もしかしたら寝返りを打つこともエベレストに登るようなチャレンジかもしれない。団体名には、そうした決断をサポートする存在でありたいという願いが込められている。


▲NPO法人シェルパ代表理事古市貴之さん(写真左)。現在、スタッフはパート、ボランティアを含めて10人。基幹相談支援センターふたばのセンター長も務めている


悩み抜いた末の決断を応援、サポートする「シェルパ」

震災前、「NPO法人シェルパ」(以下、「シェルパ」)の代表理事古市貴之さんは、楢葉町で高齢者介護や障がい者の地域生活相談員として働いていました。相談活動は、避難生活をする中でも続けられました。 その中でも多かったのが自閉症のお子さんを持つお母さんたちの相談でした。人目を気にすることなく、子どもが思いっきり駆け回れる自宅に帰りたいと思っても、福祉サービスなどの支援体制がない町に帰るのは…など、悩み続けておられたそうです。決心して帰ったとしても、「自分たちで決めたのだから後は自己責任」となってしまうのでは…という心配もありました。「それでいいのかってことですよね」 と古市さん。どんな決断をしたとしても、そばで応援し続けてくれる人、解決策を一緒に考えてくれる人がいるだけでも違うと「シェルパ」を立ち上げました。

初年度は、利用者とスタッフ1対1の寄り添い重視のホームヘルパーサービス「シェルパ」、自閉症や発達障がいのある子どもたちの放課後の一時預かり「ひろのハウス」、相談支援事業所「陽(はる)」を3本柱にスタートしました。現在、「ひろのハウス」は「ほーむ」に名称を変更し、場所も広野町から楢葉町の楢葉まなび館に引っ越して活動しています。相談支援事業も継続しています。ホームヘルパーサービスについては、人材確保が難しくなり半年前から休業していますが2018年4月から再開することになっています。また、昨年4月から「基幹相談支援センターふたば」の事業(詳しくは後述)も受託しています。

▲楢葉町と広野町に帰還した自閉症、発達障がい、知的障がいのある子どもたちとその兄弟20人が登録している「ほーむ」。子どもたちに「のんびりしてもらう」ことを一番に考えているという古市さんたちは、保護者の復職をサポートしようと「学校→ほーむ→自宅」までの送迎も手厚く行っています

▲ボランティアスタッフと一緒におやつの準備をする子どもたち

▲楽しいおやつタイム


仮設住宅・借り上げ住宅の供与が3月で終了。本当の勝負はこれから

3年間の手応えを伺うと古市さんは「本当の勝負はこれからです」と話します。というのも楢葉町は、この3月で仮設住宅・借り上げ住宅の供与が終了します。そうした背景もあり、町内に帰還される障がいのある方の相談が増えているそうです。「世帯全体で悩ましさを抱えていたり、いろんな事情が複雑に絡み合って新しいスタートがなかなか切れずにいた方など、課題はそれぞれです。蓋を開けてみないとはっきりとしたことは分かりませんが、新年度は双葉郡…特に楢葉町では福祉課題が明らかになっていくと思います。同時に具体的な検討が迫られる1年になると思います」と古市さん。全てをシェルパで担うことはできませんが、いち早く楢葉町で子どもたちの放課後の一時預かりや送迎サービス、ホームヘルパーサービスなど先を見越してスタートさせたことについては、間違いではなかったと実感しているそうです。

生活支援相談員(以下、相談員)との連携は、楢葉町立の幼保連携型認定こども園『あおぞらこども園』で実施している「サロンふらっと」などを介して行っています。「料理教室の日などに、障がいのある方も参加させてもらっています。気になったことを後でご連絡いただいたり、足繁く戸別訪問をされている相談員さんから課題を引き継ぎ福祉サービスにつなげるなど、しなやかな連携を心掛けています」と古市さん。


障がいのある方の帰還の希望となったホームヘルパーサービスの再開

20代後半から福祉畑一筋の古市さんは、当初「ないものは作ろう」とサービスを作ることにこだわっていましたが、どうしても福祉に偏った狭い考え方になりがちでした。しかし、2018年1月末現在で7,140人の人口のうち、帰還されている人は約3割の2,270人。マンパワーが足りていない地域でのこだわりは、足かせにしかならないことに気づきました。古市さんが気持ちを切り替えるきっかけになったのが、もともとあった「寄り合い」などの地域の力でした。「ご近所同士で障がいのある方や悩ましさを持っている方など、ちょっと気になる人を見守る活動の方が断然早い。理想は、地域の力と福祉を前面に出した配食サービスやサロン的な活動を両輪にした支え合いです。それ無くして双葉郡の支援体制は作れないんじゃないかと思っています」と古市さん。この4月、シェルパがホームヘルパーサービスを再開することを、相談員を通じて仮設住宅で暮らす障がいのある方に伝えると「だったら暮らしていけるかも」と、希望を持たれたそうです。

シェルパでは、相談の全てを受けるようにし、もし第一希望が難しかった場合は第二希望、第三希望を叶えるにはどうしたらいいか…。1つの事業所や個人が考えるのではなく地域全体で考え、積み上げていきたいと考えているそうです 。「改めて地域を知るというところから始めようと思っています。カギはあちらこちらで生まれている住民活動に、僕たちがいかにして『混ぜてください』と入っていけるか。そこです」と古市さん。


町外避難をしている方の支援と帰還した方の社会資源整備を両輪に

双葉郡8町村の障がい者の相談支援を担う「基幹相談支援センターふたば」については、町外避難をしている方の支援体制と、帰還された方の社会資源の整備を両輪として取り組んでいきたいと話してくださいました。「シェルパは、帰還を考えていたり、帰還された方を支えるために作った法人ですが、いろんな決断をした方に対して様々な応援のカタチがまだまだあるべきだと思っていますので」と古市さん。

迷い続けていたり、依存的でなかなか1歩を踏み出せないでいる方に対しては、当事者任せにせず一緒に考えることを大事にしていきたいとも。こうした対処は、引きこもりの方の支援にも共通することなのだそう。なぜそういう態度を取るのか、なぜドアを開けてくれないのかを想像しながら支援する。そして、「ダメだった」で終わらせない。振り返りながらチームで支援していくことが大切とのこと。また、背中を押すもう1つの手法として共同実践のお話もしてくださいました。「病院に行ってほしいと思っていても訪問を拒否しているような場合、『病院に行ってくださいね』だけでは足りない。『じゃあ、誰とだったら行けますか?』というような背中を押す働きかけが必要です。なかなか難しいですが、1人で行けないなら同行するような視点を持つと、可能性がちょっと上がるんじゃないかと思います」。

町に戻っても戻らなくても障がいのある方が、生きづらさを感じない地域を作ることが福祉の大事な役目だと思うと古市さん。まず1歩踏み出せば、周りの方々にも自分にできることが見えてくるはずだと、自らの活動で楢葉町を照らし続けてきたシェルパ。勝負の2018年度が始まります。

▲楢葉まなび館(元楢葉町南小学校)1階にあるシェルパの事務所


■連絡先■

NPO法人シェルパ
福島県双葉郡楢葉町大字下小塙字麦入31(楢葉まなび館内)
TEL0240-23-6389
FAX0240-23-6399
代表理事 古市貴之
E-mail s.futaba.28@circus.ocn.ne.jp


■取材を終えて■

地域で生きる人と共に考え、共に悩みながら支援し続けるNPO法人シェルパ。団体名にクライマーが目指す神々の山嶺エベレスト登山を、決死の覚悟でサポートし続ける尊い心と高い志を感じました。つらい時ほど焦らず、腐らず、諦めないシェルパの心で…ですね。ところで、古市さんたちの活動をお手伝いしたいという方のためにボランティア情報を1つ。放課後の一時預かり「ほーむ」では、子どもたちの宿題をみたり、イベントのお手伝いやお掃除などのボランティアを受け付けています。お問い合わせは、NPO法人シェルパまでお願いします。
(井来子)

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