ガートナー リサーチ バイスプレジデント アレクサンダー・リンデン氏は人工知能(AI)と機械学習における主要なトレンドを解説した。AIは企業活動を変える大きなイノベーションであり、それを取り込むための要件を企業は早々と満たす必要があると指摘した。
「ガートナー データ&アナリティクス サミット 2017」が23〜24日、東京都品川区で開催された。ガートナー リサーチ バイスプレジデント アレクサンダー・リンデン氏は人工知能(AI)と機械学習における主要なトレンドを解説した。AIは企業活動を変える大きなイノベーションであり、それを取り込むための要件を企業は早々と満たす必要があると指摘した。AIの発達はビジネスモデルそのものを変えてしまう可能性がある。
*機械学習をデジタル戦略の一部にする
*データサイエンス主導のチーム
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*これまで優れたソリュショーンを受け入れなかった古い問題について再考をする
*組織に必要なスキルが備わっている場合に限りディープラーニング(DL)に挑戦する
リンデン氏は時価総額で世界の上位に入るテクノロジー企業、たとえばGoogle、IBM、マイクロソフトが「AI企業」になっている、と指摘した。「AIの発達はパラダイムシフトだ。AIは、予測、故障、分類、マッチングなどにおいて私たちの課題を解決することについて極めて有意だ。農業などのいままでデータによるアプローチがなされていない分野で大きな効果を発揮する」とリンデン氏は語った。
狭いAI(弱いAI、特化型人工知能)はこの5年で飛躍的な進歩を遂げている。リンデン氏は「特に2016年はめざましく、AlphaGoが韓国プロ棋士イ・セドル氏に勝利した。マイクロソフトの画像認識が人間の精度を上回り、テスラの自律走行データは10億マイルを超えた」と話した。
ただし、AIの活用可能性に関する白熱した議論は、AIに関する誤った言説を生んでもいる。
「『AIが我々の仕事の85%を奪う』『AIに殺される』という言説は誤り。スカイネット(映画ターミネーターに登場する自我をもった邪悪なコンピューター)のようなイメージを抱く人もいるようだ。Baidu(バイドゥ)の人工知能研究所所長のアンドリュー・ング氏はこう語っている。『キラー・ロボットの台頭を恐れることは、 火星の人口過剰を心配するようなものだ』と」とリンデン氏は語った。
ニューラルネットワーク(NN)は人間の脳神経を模倣することで発達してきた。アラン・チューリングが1948年の論文で、アンオーガナイズド・マシン(Unorganized machine)という概念で、脳の機能を電気の働きで再現する可能性に触れていた。それから探求が進められたが、2000年代中頃にトロント大学教授(現Google)のジェフリー・ヒントン氏らが多層のNNによる学習(DL)を発展させてから現在のブームに至っている。
リンデン氏はこう指摘する。「人間の脳は極めて複雑で、そう簡単に理解できないものだ。広いAI(強いAI、汎用人工知能)は20年間、空想のままだった」。
「機械学習のコアは入力 / 出力のペアから得られる情報をマッピングしてパターンを作成することだ。需要予測だったら『市況』を入力したら『製品はいくつ購入されるか』が出力される。自動走行車もそうだ。自動車に取り付けられたセンサーから得られるデータを入力し、ブレーキ、アクセル、ハンドルの操作を出力する」。
需要・不正・故障を予測できる
「DLはアプリケーション領域でもっとも効果を発揮する。DLは需要・不正・故障を予測することに利用される」。リンデン氏はPayPalがDLを活用し、不正を50%削減したことを例に挙げた。PayPalは16年間に渡って蓄積した詐欺に関するデータを学習させ、詐欺の傾向が顕著なトランザクションを瞬時に検出する方法を導入したという。
DLにおいて「データフュージョン」が大きな役割を果たす、とリンデン氏は指摘。データフュージョンとは異なる複数のデータを連結し、個別のデータからでは得られない、複合的な知見を得る技法だ。これを可能にするには企業は多様なデータソースを確保する必要がある。
「データアナリティクスで一番大変なデータの前処理も自動化されることになる」。
とっつきづらいDLだが、NNを視覚的に試せるウェブサイトもあり、これを触るだけでニュース記事が違う風に見えるはずだ(下図)。
人工知能の多様な活用可能性が拓けた。リンデン氏はGEや独金融大手ドレスナー銀行のデータサイエンティストの経歴を持つが、「昔ながらのデータアナリティクス」やビジネスアナリティクスが左下奥の「表形式」「構造化」に判別されるが、それとは異なる広大な分野がいま、DLの開発により拡大している(下図)。
入力された画像からスタイル画像に基づいて新しい画像を生成するDCGAN(参考記事)に、深層畳み込みNNによる二次元画像のための超解像システムとNNはコンテンツ合成を始めており、自ずからコンテンツ生成をする例も見られている。
コンテンツ画像である猫の画像と、スタイル画像のゴッホの画や彫刻を合成。Via Preffered Research ブログ
人工知能導入のリスク
「人工知能関連プロジェクトは初期段階でコストがかかりすぎる面がある。データが不足していたり、スキルのある人材が欠けていたりする。世界が変化することで、それまで課していたトレーニングが役に立たなくなり、プロジェクトが非常に高額になる可能性がある」とリンデン氏は語った。
このためデータサイエンスの知見があるチームを整備し、組織に必要なスキルが備わっている場合に限りDLに挑戦するというアプローチが必要だという。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photograph by GettyImage