前回の話のとおり、うつ病には意外と分かりやすい特徴があります。
大事なことなのでもう一度列挙します。

①原因が見当たらない。
②色んな状況に接しても状態が変わりにくい。
③病気であることを否定する。または強調しない。
④症状が強いと本人が言うとき、客観的にも症状が強く見える。
⑤週または月単位で続く。
⑥抗うつ薬の効果が非常に高い。
⑦自殺の成功率が高い。


逆にいえば、これに「ことごとく該当しない」のが擬態うつ病だということになります。「…ことになります」なんて素人が言っちゃマズイかもしれませんが、少なくとも擬態うつ病である可能性が高いということにはなるでしょう。

今日はこれらの特徴について、少し詳しく見ていきます。


①原因が見当たらない。
うつ病の、最大にして最も理解されにくい特徴かもしれません。うつ病とは突然、誰にでも訪れる可能性があります。普通の生活をしていたら誰でも風邪をひく可能性があるでしょう。うつ病は風邪よりも確率が低いとか、感染しないとかいうだけの話で、まぁこの意味においては似たようなものです。
最大の特徴ということは、逆に言えばこれに該当しない場合は「擬態」の可能性が非常に高いと言えます。(もちろん場合によるので、素人判断で「あいつは擬態うつ病だ」なんて言いふらすのは止めてくださいね。笑)

原因が無いということは、例えば上司に嫌がらせをされたとか、仕事がうまくいかないとか、家族の中で立場が無いとか、または大事にしていたペットが死んだとか、そういうことが原因でうつ病になることは無いということです。

私もうつ病の知識はほとんど無かったため、このことを知った時は少し驚きました。会社での人間関係がうまく行かず、段々引きこもるようになって、やがてはうつ病へ・・・というパターンは素人にとって想像しやすいものですが、こういうプロセスを経たうつ病というのは(基本的に)存在しません。

なぜかというと、まぁ聞いてみりゃ当たり前の話なのですが、人間関係がうまく行かずに落ち込み、気力を失うのは人間として当然の反応だからです。大事にしていた犬が死んでしまって落ち込むのも当然の反応でしょう。他にも、例えば自動車事故に会って新車を壊し、しかも相手が非常に面倒な輩で、気力を使い果たした上に多額の賠償金を取られたと。こんな場合でも気分が落ち込み、引きこもりたくなるのは理解しやすいでしょう。

このように、原因がハッキリしているものはうつ病の特徴ではありません。というかむしろ「擬態うつ病」の大きな特徴です。


②色んな状況に接しても状態が変わりにくい。
仕事がうまく行かなくて気分が滅入り、「うつ病」の診断書をもらって会社を休む。
そんなパターンは現代社会ではその辺にゴロゴロ転がっているわけですが、休んでいると元気になり外出するとか、自分の好きなことは「楽しむことが出来る」ような場合、擬態うつ病である可能性が非常に高いと言わざるを得ません。

うつ病は、そうした「状況による気分の高揚」というものがほとんど無く、いつでも気分が暗く滅入っており、マイナス志向になり、何をする気も起こらないという特徴があります。
実は私の近くにも「うつ病」の診断書をとって休職中の人がいますが、休日はパチンコをしたり運動をしたりしています。本物のうつ病の場合、そういうことをしようという気はまず起こりません。

従って、本人が「私はうつ病なのだから、気分が明るくなるようなことをするのが治療の一環なのだ。家に引きこもっていて精神的に良い影響が出るはずはない」と主張したとしても、まぁ家にこもることの影響がどうかはさておき、そもそも本当のうつ病患者なら、気分が明るくなるようなことを自ら率先してやる気になるはずがない、という話になります。
逆に、うつ病患者に対して「ちょっと外出して気分転換してこい」というのを強要することで、むしろ病気は悪化することの方が多いようですね。


③病気であることを否定する。または強調しない。
少し②に関連しています。
本物のうつ病患者であれば、上記のように「私はうつ病なのだから、気分が明るくなるようなことをするのが治療の一環なのだ。家に引きこもっていて精神的に良い影響が出るはずはない。(だから外出しているのだ。)」というような主張はしない場合がほとんどです。

どうもおかしい・・・
体調は何ともないはずなんだけど・・・
まぁちょっと休めば治ると思うから・・・


本物のうつ病患者は、このように「私はうつ病なの!!だから精神的に良いこと(=楽しいこと)をしなきゃいけないの!!」という主張をほとんどしません。長期間の休職中、会社が本人に病気についての近況を尋ねた場合、

「はぁ、休職当初よりはマシになってきました。もう少し様子を見てみます。ご迷惑をおかけします。」

と普通に返答するのが本物のうつ病患者です。(もちろん一例ですが。)

「うつ病患者にうつ病の状況を尋ねるとはどういうことか。そういう、うつ病への理解不足が患者をどれほど苦しめるのか分かっていない。そもそも会社の対応が原因でうつ病になったのだから云々かんぬん」

などと強い態度に出る場合、擬態うつ病の可能性が高いと言えます。もちろんこんな会話は千差万別でしょうから一概には言えませんが、おおよその特徴としては、本物のうつ病患者が強い態度に出ることは稀です。


④症状が強いと本人が言うとき、客観的にも症状が強く見える。
まぁこれも②や③とつながっていますね。「擬態うつ病的」であればあるほど「病気であることを元気に主張」します。

「もうめっちゃキツい、毎日死にたくなる。変な目で見るな。おら、これが病院で取ってきたうつ病の診断書だ!!仮病じゃねぇぞ!!社会はもっとうつ病を理解しろ。従ってもっと自分に優しくしろ!」

と、擬態の場合は大変元気にキレることが多くなります。
これとは逆に本物のうつ病の場合、真に辛い状況であればあるほど、元気がなくなり、生気が失われます。


⑤週または月単位で続く。
「擬態うつ病」は本物の病気でなく、自分の頭(精神)が率先して作り出した病気ですから、気分の波が激しくなります。擬態は、②で述べたように、休日には外出したり、趣味を楽しんだり、またはうつ病のブログを更新して「辛い、辛い」「でも頑張って治します」「今日は調子が良かった」などと毎日のように訴えたりします。本物であればそんなことをする気力はまず間違いなく起こりません。

そうなると擬態うつ病の場合、楽しいときは楽しんで「気分転換になった。治療に役立った。」と主張したり、嫌なことがあると「自分はうつ病なのになぜそんなことを言うのか」と気分が滅入ったりします。
本物のうつ病は、そういった状況により気分が変わりませんから、週~月単位で長期間の気分の沈滞が起こります。今日はやたらと調子がいい、今日は何もしたくない、という波が少ないのが本物の特徴です。


⑥抗うつ薬の効果が非常に高い。
これも分かりやすいですね。
本物のうつ病は、前回のエントリーで述べたように歴とした「病気」ですから、セキがあまりにも出続けるならセキ止めの薬を飲むのと同じで、抗うつ薬を飲めば非常に多くの場合は(難治性を除いて)快癒します。抗うつ薬は数週間~数ヶ月でほぼ大半の患者に好影響を与え、社会復帰につながります。

従って擬態の場合、半年も1年も休職しては「周囲の理解が足りないから薬の効果が無いのだ、精神病とは簡単なものではない」などと元気に主張し、意味もなく抗うつ薬を長期間飲み続けることになり、同時に社会的責任を免れ続けようとすることも散見されます。


⑦自殺の成功率が高い。
人間とは大したもので、自分が病気だと本当に思い込む(または思い込みたい)ことで、相当レベルまでの症状を実現(?)できます。
私が小学生の頃、嫌がらせ(いじめ)をされていた同級生が、朝玄関で「熱がある。学校に行きたくない。」と言ってしょっちゅう倒れるという話を聞いたことがあります。これがまた本当に熱が出ているものだから、病気なのか仮病なのか判断がつかないのです。

擬態うつ病も相当に進行すると、うつ病の特徴である「自殺」まで擬態し始めます。
しかし成功率に歴然たる差があります。本物のうつ病患者が自殺に走った時は、非常に高い成功率で「成し遂げて」しまいます。擬態の場合は何度も何度も「自殺未遂」という形を繰り返します。


注意して頂きたいのは、上記「特徴」が全てではないということです。
簡単に「あいつは擬態うつ病だ」と決めつけるのはやめてください。しかしあまりに多くの特徴が上記に当てはまる場合は、やはり「その可能性」について検討する必要があるでしょう。会社だって家族だって、本当は「できる」のに「できないと言い張り精神科で診断書まで取ってくる」人をいつまでも抱え続けるわけには行かないからです。

そして不思議なのは、なぜ擬態の可能性が高いのに、専門家である精神科の医師は「診断書」を出してしまうのか、という問題です。これについて次回少し触れ、お終いにしたいと思います。