2・11後楽園ホールのダイヤモンドリング興行で

中嶋勝彦と7年ぶり2度目の師弟一騎打ちに臨んだ佐々木健介は

勝彦のジャーマンス―プレックスに沈んだ。


「思い残すことは何もない。

皆さん、この28年間、佐々木健介を応援してくれて

ありがとうございました!」


試合後、健介の口から予想外のセリフが飛びだした。

これではまるで引退表明ではないか?

そして実際に2日後、会見を開いた健介は

正式に現役引退を発表した。


バリバリのトップレスラーがこういうかたちで

引退するなど前代未聞である。

しかも、引退試合を行う気もなければ、

引退セレモニーもないというのだ。


以前、当ブログでも書いた話なのだが、

そこの部分をもう少し詳しく触れてみたい。


ひさしぶりに健介から携帯電話に着信があったのは、

その1週間前…2月4日のことだった。


「ひさしぶり、元気?

じつは金沢さんにちょっと頼みたいことがあるんで、

いま代わるね」


続いて聞こえてきたのは北斗晶の声だった。

11日のダイヤモンドリングの後楽園ホール大会の

試合をサムライTVで放送してもらうことになったのだが、

その解説をお願いしたいという。


「7年前のウチの初めての自主興行で

健介vs勝彦をやったでしょう?

やっぱり、あれを間近で観て解説してくれた

金沢さんに頼みたいっていうことになったの。

やってもらえるかな?」


当日、私は新日本の大阪大会で

テレ朝『ワールドプロレスリング』の放送席に座ることが決まっていた。

ただし、実況の音入れは後日ということなので可能である。


「本当は、会場で観てもらいたいんだけど、

それならしょうがないよね。

大切なメイン、よろしくお願いしますね」


そう北斗は言った。

やはり、北斗の中では生で見届けてほしいという思いがあったのだろう。

つまり、健介の覚悟を揺るぎないものと感じ取っていたのではないか?


あくまで私の予想だが、事前に健介は気持ちが固まりつつあることを

北斗に告げていたのだと思う。


「実際に試合をやって終わったときに、

自分の気持ちに納得がいけば、

引退宣言するから」


そんな感じで告げていたのだと思う。

もちろん、勝彦にはそんな素振りさえ見せなかったろう。

そんなことを示唆すれば、「オヤジ超え」を懸けて挑む

勝彦の真っ直ぐな気持ちに水を差してしまうからだ。


その後、また健介が電話に出てきた。


「7年ぶりの一騎打ちだからさあ、

ひとつ泣かせる解説お願いしますね(笑)。

やっぱり俺のこと新弟子時代からずっと見てきて、

気持ちからなにから分かってくれているのは金沢さんしかいないもん」


そう言いながらも、健介の口調は明るいし、

いつものような友達感覚だった。


「それでは、謹んでお受けいたします。

プロレス道に恥じぬよう

全力で魂を込めて解説させていただきます!」


そう答えると、電話の向こうで健介は爆笑していた。

「じゃあ、よろしくねえ」


最後まで、いつもと変わらぬ明るい健介。

そのときは、引退の二文字など浮かんでくるわけもない。


愕然としたのは、11日当日、

大阪府立体育会館に到着して

携帯サイトで試合の模様を確認したとき。


最初はまったく理解できなかったが、

しばらく考えてみて、あのとき北斗が

「できれば会場でも観てほしい」と言ったのは

こういう事態を予想してのことだったのだろうと理解できた。


あの電話以来、健介&北斗と会話したのは、

16日、都内ホテルで催された大谷の結婚披露宴で。

2人とも表情は明るかった。

だから、ふつうに会話できた。


「健介、思い残すことはないの?」


「うん、俺の中ではサッパリしてるよ」


「そうかあ…ひとつお願いというか、俺の気持ちを言っていい?

長州さんと仲直りというか、関係が戻ればいいなあって」


「俺ね、もう何にも変な気持ちやこだわりはないよ。

だって、長州さんがいなかったら今の俺はないんだもん。

その事実は消しようがないんだからね」


この言葉を聞いたときは本当に嬉しかった。


昨日(26日)、スカパ―!のスタジオで

2・11ダイヤモンドリング後楽園ホール大会の音入れを行なった。

実況は、過去にZERO1中継などの放送席で

長くコンビを組んでいた塩野潤二アナウンサー。


2年半ぶりに隣に座るが、違和感なし。

最初こそ懐かしさを感じたものの、

すぐに試合に入り込むことができた。


メインイベント。

対峙するオヤジとムスコ。

7年ぶりの親子対決。


頭から”引退”の二文字は消し去った。

というより、試合に集中していたから、

その二文字が浮かんでくる隙間もなかった。


佐々木健介、28年の歴史。

中嶋勝彦がムスコとして佐々木家の一員となってからの10年間。

7年前のディファ有明での初めての一騎打ち。

試合を観ていると、さまざまな歴史の一片が次々と甦ってくる。

試合に集中していると、自然と言葉が浮かんでくる。


そして最後の最後、健介の表情や言葉から

私なりに納得のいくものを感じた。


「負けて負けて、その悔しさから立ちあがって強くなった健介。

その健介が負けて悔しさを感じなかった」


これが潮時を意味するものなのかもしれない。

今回の解説に関して、特にこれを言ってやろうとか、

こういう話題でお涙ちょうだい、などという考えはハナからなかった。


自然体、観たままで浮かんできた感情を言葉に換えようと思った。

その結果、解説が試合を引きたてるスパイスになっていたなら本望である。


正直いって、今回ばかりはファン、視聴者のためではなく、

佐々木健介、北斗晶、中嶋勝彦のために解説したという思いが強い。


試合の映像を観て、実況&解説を聞いたとき、

はたして3人は喜んでくれるだろうか?

私が自分の気持ちを真っ白にして、

解説に臨んだことが伝わるだろうか?


「金沢さんに頼んでよかった」


そう思ってもらえたなら幸いである。


2014年2月11日、後楽園ホール。

佐々木健介、引退試合。

本日、サムライTVにてオンエア。


2月27日(木)、22:00~23:55〈初回放送〉

2月28日(金)、8:00~9:55

2月28日(金)、26:00~27:55


最後の佐々木健介を存分に

目に焼き付けてほしい!