第8回 今日の1題! ~和訳~

今日の和訳は1990年4Bの問題です。今日は難しいですよー!
問題を用意して、10分を目標にまずは訳してみてください。




……….




それでは解説です!
今日の問題は史上まれにみる難しい英文です。


まず,下線部に入る前までの内容を整理しましょう。


冒頭に「感情はどこでも同じものである」とあります。
くやしい,悲しい,嬉しいといった感情は普遍的なものであるということです。

確かに、どの国に生まれようが、どの時代に生まれようが、感情というのは誰しもが共通してもっている先天的なものです。


ところが,そのあとのbutで文脈が変わり,「感情(them)のartistic expressionは年齢によって,国によって異なる」とあります。


ここで考えたいのですが,
the artistic expression of them (=emotions)とはどういうことでしょう?

「感情の芸術的表現」というのでは意味が通りませんよね。


artには「芸術」以外にも経験を通じて習得するような、「わざ」とか「技巧」という意味があります。
ですから、ここでは「感情の表現の技巧」、つまり、「感情の表現の仕方」のことを表しているのでしょう。

このartという表現、和訳の中で出てきます。


感情そのものは生まれながらにもつ先天的なものであるので、時間や空間を超越して普遍的なものです。
しかし、その感情の表現の仕方は、時代によって、国の文化や習慣によって、生きていく中で身につける後天的なものです。
ですから直後に、「人は自分たちが生まれる社会で行われている慣習を受け入れるよう育てられる」とあるのです。


たとえば涙。
人前で泣くという行為は国によっては恥ずかしいとされる。
日本なんかそういうところありませんか。男は人前で泣くもんじゃない、みたいな文化がありますよね。
しかし、中世の西欧の一部では、男であっても公衆の面前で感情を隠すことなく、ストレートに表現して、おいおい泣くのは普通であったところもあるそうです。




そこで下線部を見ていこう!


先にあったように、This sort of artは「この種の芸術」と訳すのはおかしいですよね。
芸術の話ではありませんから。ここでのartは「技巧」「方法」。
この文脈の中では「感情の表現技巧、表現方法」を表しているはずです。


こんな風に訳した人いませんか?
This sort of artは「この種の感情表現法」であることが分かったとして、
「この種の感情表現、それを我々は子供時代に学ぶのだが…..」のように。

このように訳してしまうとおそらく構造把握ができていないと判断されて、
大きく減点されてしまうでしょう。


えっ、どこが間違ってるの!? と思われた方へ質問です。
we learn…のlearnの直後には目的語がありません。
learnの目的語はどれでしょうか?考えてみてください。


….考えました? 簡単だよ、This sort of artだよ、と思った方いませんか?
残念ながら違います。



なぜ違うのか。ここで次の基本英文を利用して構造を確認してみよう。

This subject which I learned was interesting. …①
This subject, which I learned, was interesting. …②
This subject, I learned, was interesting. …③

① はwhich I learnedとなっているので関係代名詞の制限用法です。
learnedの目的語は関係代名詞whichになって前に置かれ、This subjectを指しています。
→「私が学んだこの科目は面白かった。」

② は①に似ていますが、①と違って関係代名詞の節がカンマ(,)で区切られています。
関係代名詞の非制限用法です。関係代名詞ですから①と同様、learnedの目的語は関係代名詞whichになって前に置かれ、This subjectを指しています。
→「この科目を私は学んだのだが、面白かった」
臨海セミナー東大プロジェクト 英語-1

③ は①、②の形と明らかに違います。ですから関係代名詞の英文ではないです。これは「挿入」の英文です。
次の英文で検証してみよう。
His idea, I thought, was great!
これは元々、I thought his idea was great!という英文であり、I thought がHis ideaとwasの間に置かれている構造です。元の英文の形に直すとthoughtの目的語は “His idea…was great” であることが分かります。




同じように考えると、③の文のlearnedの目的語はThis subject…was interestingであると気付きます。
→「この科目は面白いということを私は学んだ」


ちょっと話が長くなっちゃいましたが、先の質問をもう一度考えてみてください。
――― この英文のlearnの目的語は何でしょう?

もうお分かりですね。上の説明のa), b)の形に当てはまらないことから関係代名詞ではない。
c)と同じ、「挿入」の形になっていることから、This sort of art…is meant to excite laughter….であることが分かると思います。

これをもし、「この種の感情表現方法、それを我々は子供時代に学ぶのだが….」と機械的に頭から訳してしまうと、あたかもlearnの目的語がThis sort of art、つまり、関係代名詞の英文であるような印象を与えてしまい、構造把握ミスととらえられてしまいます。


we learn in childhoodが挿入の英文であることが分かったので、ここで元の英文の形に直してみると…
臨海セミナー東大プロジェクト 英語-2
となります。


さて、これに続く ,that to provoke our tears. はどのように考えますか?
this sort of art is meant to excite laughterという完全な文に続き、「that(代名詞)+不定詞」という不安定な形なので、thatとto provoke our tearsの間には省略されている表現がありそうです。何が省略されているのかを理解するために、接続詞はないですが、同じ形のものを縦に並べて考えてみましょう。


【 構造分析ルール 2’】 
同じ形のフレーズを縦に並べてみる→何が省略されているのかが見れる



that to provoke our tearsをthatという代名詞とto provoke our tearsという不定詞に分けてみます。
形が不定詞同士であるのでto provoke our tearsを直前の文のto excite laughterという不定詞に並べてみましょう。
laughter(笑い)に対してtears(涙)と、内容的にも呼応していることが分かるでしょう。
excite laughterは直訳すると「笑いを刺激する」、provoke our tearsは「涙を挑発する」ですが、日本語として不自然ですよね。
「自然な日本語にあった表現を選ぶ」といういつもの訳出のアドバイス-1の姿勢でいくと、それぞれ「笑いをかきたてる」「涙をさそう」などと訳せます。


臨海セミナー東大プロジェクト 英語-3
thatは代名詞です。「名詞」です。ですから、…is meant to…を指すことはありません。…is meant to…は省略されているのでしょう。


それじゃあ、thatは何を指しているのか。
this sort of art?

確かに、これは名詞ですから、構造的にはそれも考えられなくはありません。ですが、もしthatがthis sort of artを指していると考えると内容的に矛盾が生じます。

もしthatがThis sort of art(この種の感情表現方法)を指しているとするならば、「この種の感情表現方法」というひとつの感情の表現の仕方で「笑いをかきたてる」ことと「涙を誘う」という「笑い」「涙」と相反するものを同じ感情の表現の仕方で表すことになってしまいます。「笑いをかきたてる」という感情表現方法と「涙を誘う」という感情表現方法は違いますもんね。ならば、両者は違う感情の表現の仕方である、という内容になっていなければならない。

両者は違う感情表現ですから、「この感情の表現の仕方」だと「笑いをかきたてる」、「あの感情の表現の仕方」だと「涙を誘う」となっているのではないか。こう理解すれば、this(この)に対してthat(あの)と、別の感情の表現の仕方を表すことができます。

まとめると、
臨海セミナー東大プロジェクト 英語-4
となります。


うーん…なかなかこのような省略形は見られませんが、このように縦に並べてみるとthatとto provoke our tearsとの間には、なんと!sort of art is meantが省略されていたわけです。[難しい…]


…is meant to doはmean to doの受動態です。mean to doは「~するつもりだ / ~する意図がある」の意味ですから(Ex.) I didn’t mean to hurt you.(君を傷つけるつもりはなかった))「~すると(意図)される」と訳すといいでしょう。


<<全体の構造>>
臨海セミナー東大プロジェクト 英語-5

「この種の感情の表現の仕方は笑いをかきたて、あの種の感情の表現の仕方は涙を誘うということを子供時代に学ぶのである。」
*Weが主語であることから「一般論」であることが見えます。(ここは訳出しなくてもいいと思います)



今日は解説が長くなっちゃいましたね…最後まで読んでくれた人にホントに感謝です。

この英文は今まで授業で扱った中でも、NO.1、2に位置するぐらいの難しい英文だったように記憶しています。
ただ、こうした難しい英文も基本知識を積み重ねて分析していくと必ず答えにたどり着きます

「分かる」というのは一説によると「分ける」から派生しているそうです。
一見するとお手上げに見える難題も、分けてみて、基本に忠実に冷静に分析して対処する。
そうした姿勢を学ぶことが「人生という問題集」の答えを見つけていくきっかけになるのかもしれませんね。