「言うことを聞かない」のは誰? | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

ご意見ご要望、御質問など、コメント大歓迎です。

  競馬のニュースなどでは毎週のように、レース中の「斜行」によって他馬を妨害してしまった騎手が制裁処分を受けた、というな記事が出ていたりしますが、

プロのジョッキーの技術をもってさえ、「完壁に馬を誘導」するのはなかなか難しいものです。


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  まして一般の乗馬愛好者の方のレッスンとなれば、思い通りのところに馬を誘導できず、「馬にバカにされているのではないか?」などと思ったことも一度はあるのではないしょうか。
 

  馬には、二足歩行の人間とは異なる、この動物独特の構造や動き方というものがあります。

  これらを知らないまま、馬の上で、やみくもに身体を回してみたり、手足の力で圧したり引いたりして馬を横に動かそうとしても、「無理なものは無理」ということになってしまいます。

  「なんで言うことを聞かないの?」と怒る前に、まず、人と馬との曲がり方の違いや、手綱操作が馬の運動に与える影響といったことを知ることから始めてみてはいかがでしょうか?




・馬の曲がり方

 人間の場合、脊椎は、地面に対してほぼ垂直ですから、この脊柱を中心に、体をクルッと回せば、その場で体の向きを変えることができます。

 しかし馬の場合、脊椎はほぼ水平であり、そこから地面に向かって4本の肢が伸びている、という構造ですから、その場で身体を捻じってクルッと回る、というようなことはできません。

  洗い場などで馬を回すときを思い浮かべてみればわかるように、馬が向きを変えるためには、前肢や後肢を回りたい方向や、あるいは逆方向へ向かって「横に動かす」必要があるのです。



 輪乗りなどのカーブのときも、なんとなくレールの上を真っ直ぐ進んでいるようにイメージしがちですが、実はそれぞれの肢が進行方向へ斜めに動いているような感じの動きになっています。

  馬の外側の肢の方が内側よりも大きな歩幅で動いて内側の足を追い越すようなことは、「前肢旋回」のような場合にしか起こりません。



  このように、馬の曲がるしくみには人間や自動車などの曲がり方とは違う特性があるのですが、二足歩行の私たち人間には、感覚的になかなか理解しにくいところがあります。

  そんな時には、試しにまず自分が床の上で四つん這いになって、実際に輪乗りや巻き乗りなどの動きをやってみれば、その時馬がどのように身体を使っているのかを理解しやすいかもしれません。

  そのようにして、馬の身体構造でできる「自然な動き方」を知り、自分の望むような運動を行うには、馬にどういう動きをさせればよいのか、ということをイメージしながら、

自分の重心の位置とか、扶助の入力方向や強度をコントロールしていくようにすることで、余計な力が抜けてきて、無駄な動きも少なくなってくるのではないかと思います。



・「開き手綱」の意味

  それでは、具体的な操作について考えてみたいと思います。

「開き手綱」は、初心者が一番初めに習うことが多い扶助です。

 これは片側の手綱で馬の頭と首の位置を横に移動させることで馬のバランスを崩し、馬が平衡を保つためにその方向へ自然に肢を踏み出す、という動きを利用して誘導するものです。

 内方の手綱を開いて使うときには、拳を、脊柱を中心とした円弧を描くように、水平に回して動かしてしまいがちですが、そうすると馬の顔だけが内を向いて、思うように曲がらない、ということも多くなります。

 開き手綱の扶助というのは本来、馬の重心を後退させたり、馬体を収縮させたりするようなブレーキとして作用させるものではありません。
  内方手綱を後ろへ引くと、馬の内方の肩が動きにくくなり、馬の重心が行きたい方向へ転移しにくく、前肢が回転方向へ踏み出しにくくなります。

  ですので、この扶助を使うときには、馬を回して向きを変えよう、というのではなく、斜め前方から引っ張って誘導するようになつもりで、開く方の拳を前へ出しながら、少しだけ上に揚げてやるくらいの感じで拳を横方向と同時に、前方や上方へというように3次元で動かすようにします。

  上体は捻じらず、内方側の腰を 少し前に出すくらいの感じにして、内方の鐙に加重していくようにすると、拳を進行方向に向かって開きやすく、また馬の動きに一致した随伴がしやすくなります。




・圧し手綱

「圧し(おし)手綱」というのは、片側の手綱で馬の首を「圧す」ことによって、馬の頭と首を横に移動させて馬のバランスを崩し、馬が平衡を取り戻すためにその方向へ自然に肢を踏み出す動きを利用して誘導するものです。

 この扶助も本来、馬の重心を後退させたり、馬体を収縮させたりするブレーキとしての作用をさせるものではありません。斜め前方に誘導する気持ちで、手を前へ出すような感じで行うのがよいでしょう。

馬の頚を押す時、行きたい方側へ体幹が傾かないように、外方の肩が上がらないようにしましょう。


・反対手綱

 内方の開き手綱と同時に、外方手綱を張って控えながら、馬の頚の付け根あたりに低く添わせるようにします。 この使い方を「反対手綱」といいます。

 馬の 頸の付け根あたりの重量が外方の肩に負重させにくくしてやることで、馬の重心が内側へ転移しやすくし、馬は平衡を保つために内側前方へ肢を踏み出すことになり、回転しやすくなります。

 またこの操作によって、馬の外方の肩の動きは抑制されますが、内方の肩は逆に開き手綱によって動きやすくなっているために、馬の肩は、内方の肩が前に出るような形になり、前肢は開き手綱側へ横に踏み出してきます。

 前肢が横に動くことによって、馬の身体の向きが変わっていくことになるわけです。

この反対手綱の操作をするためには、身体が内方に向かって回らないことが大切です。回ってしまうと外方の肩や拳が前に出たり上がったりして、やりにくくなるからです。








・内方の反対手綱   

 回転をさせることは容易にできても、逆に、馬が傾いて肩から内側へ切れ込んでくる、ということもよく起こります。

 初心者のレッスンなどで馬が内側にもたれてくる場合には、多くは馬の前進気勢の不足が考えられますので、馬を推進し、後肢の前出を促すだけでも、改善されることがありますが、馬が内側に傾いて速くなる場合には、内方手綱を、馬の顔を内方へ向けるような感じで控えながら、その手綱を馬の頚の真ん中あたりに 「押っつける」ようにしてみると、(前述の「反対手綱」を逆側からやる感じです。)


 馬の頚付け根あたりの重量を外方の肩に負重させることで、馬の重心が外側へ転移し、馬が傾いて早く曲がってしまうことを 防ぎやすくなります。


 内方手綱を控えるときに、上体が内方に向かって回ってしまわないように、内方の肩や腕、肘などの動きを体幹から独立させることが大切です。肩が詰まって硬くならないようにしましょう。


 ちなみにこの操作は、いわゆる「内方姿勢」をとらせるときの内方手綱の操作に近いものです。



・「内方姿勢」の意味

 野生馬や放牧中の馬などが、ソッポを向くようにして身体を傾けながら方向変換する様子を目にしたことがある方もいらっしゃるかと思いますが、

 馬は、自然の状態ではわざわざ「内方姿勢」をとりながら「巻き乗り」をしたりはあまりしません。

 馬に「内方姿勢」をとらせることの目的は、馬を「曲がりやすくする」というよりはむしろ、どちらかと言えば反対に、

馬の頸の付け根が内方側に張り出して来るのを防いで、馬の重心を内側へ転移しにくくさせる、というところにあります。


  このような効果によって、回転時に馬が内側へ切れ込んで速くなるのを防いだり、

馬の内方側の肩を挙上しやすくさせて、駈歩の発進やペースのコントロールをしやすくしたり、

馬に顎を譲らせ、首や背中の緊張を解かせることで、馬体を収縮させた「タメ」の効いた動きをさせやすくしたり、

「肩を内へ」や「反対駈歩」のように、馬の頭の向きとは逆側の肩の方へ重心移動のベクトルを変えさせたり、

自然の状態で駈歩をすると腰をやや内側に入れ、頭を外へ向けたような形で斜めに走る馬を、真っ直ぐな姿勢で走るように矯正したりといったことができるのです。




 ですから、内方手綱を引いて馬の顔を内側へ向けようとすることは、やり方によってはむしろ逆に、馬の重心を外方の肩の方へ転移させ、回転を妨げるように作用することになるのだ、ということを知っておいて、

回転時にはその入力の方向や強さに注意して、「加減しながら」使ってやる必要があります。

 内方手綱につかまってぶら下がっているような場合ではないのです。



・騎手の身体の使い方

 馬の進行方向を変えたい、というとき、多くの方は腰をねじって上体を「ひとかたまり」で回して手綱を引こうとします。

 すると肩が回って、内方の手は後ろに下がり、かわりに外方の拳が前に出る、あるいは身体が内側へ傾いて、内方の拳が下がって外方の拳が上がる、というように、両腕が同時・同方向に「ハンドルを切るように」動いてしまうことが多いものです。
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 内方の手綱だけ引いて、外方の手綱が緩めば、馬の顔は内を向いても、首の付け根あたりの重量は外方の肩に偏倚しやすくなりますから、曲がれずに直進してしまったりします。



 また身体が回って腰が内向きになると、騎座が外側にずれ、上体が外側へ傾きやすくなります。それで内側の手綱につかまって余計に馬の内方の肩の動きを妨げたりして、余計に肩を張って外に逃げられやすくなります。


 これらは、身体全体が癒着して、一つの支点(たとえば脊柱)を中心に回っているために起こることです。

 両手が同時に使えているように見えても、実は身体が固まって一つの方向への動きに引きずられているだけで、「内側の手綱を引く」という一つの操作しかできていません。


 誘導がうまくいかないときに、「馬が人をみる」というようなことを言う人がよくいますが、

そういう時に馬が敏感に反応しているのは、その人が誰かというようなことよりも、その人の「身体の使い方」なのだろうと思います。

 馬に対して怒るよりも、まずは、自分の身体の癒着をはがし、バラバラに使えるようにすること、「自分の身体に言うことをきかせる」ことを優先してみると良いかもしれません。













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