青山本社ビル建設現場へ。

 

青山本社ビルの建設が進み、外観がほぼできあがってきた。地上18階、地下2階、高さ

 

102m。青山通りではいちばん高い建物になる。シリコンバレーの主要なIT企業を視察して

 

、どの企業も働く環境としては素晴らしいと感じた。一人あたりのスペースが広く、食堂や娯

 

楽設備も整っている。エンジニア天国だなと思った。でも、それを実現するには広大な敷地が

 

必要で、東京で同じことをやろうとするのは無理。だったら、縦にシリコンバレーを展開するし

 

かないなと思った。それで、青山通りではいちばん高い建物になった。

 

以前の青山本社ビルは、自分たちで建てたのではなく、すでに建っているビルを買いとったも

 

の。だから、ゼロから自分たちの好きなように建てるは初めて。よく、「1店舗という小さなビジ

 

ネスから始めて、自前のビルを建設するところまできました。感慨深いものがあるんじゃない

 

ですか」と訊かれるけど、申し訳ないけど、そんな感慨みたいなものは一切ない。それどころ

 

か、僕は青山本社ビルの次をどうするか、次の次のことを考え始めている。

 

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今、2020年に2500億円の売り上げという目標を掲げている。いくかいかないかは別として、目

 

指していかなければいけない。この目標を達成しようとすると当然社員数も増えていくことに

 

なる。一人1億円の売り上げという計算が正しいかどうかはわからないけど、そうだとすると社

 

員数は2500人になるはずで、青山本社ビルには入りきらなくなる。2020年の東京五輪に向け

 

て、東京にはいろいろな建物が建ってくるだろうから、いい物件があれば、そちらに引っ越す

 

ことも考えておかなければならない。そうしたら青山本社ビルを貸すという選択肢もでてくる。

 

今、投資家からは、大型の不動産を所有しているのであれば、お金に変えて、もっと効率の

 

いい運用をすべきだというはなしもある。まあ、どうなるかは、そのときどきで、適切な判断を

 

しなければならないけど、自社ビルというものに、こだわっていてもしょうがない。

 

だからこの青山本社ビルの設計は、流動性が高くなるように気を配った。加えてフリーアドレ

 

ス、ペーパレスの働き方を基本とする。まだ、昔ながらの固定アドレス、紙書類の会社は多い

 

けど、ここ数年の動きを見ていると、急速にフリーアドレス、ペーパレスに移行している。いつ

 

でも貸しやすい、そして僕らも動きやすいオフィスビルにするなら、そういう働き方がベースに

 

必要だ。青山本社ビルは、各オフィスフロアを半分に分割できる設計にもしている。いざとな

 

れば部分賃貸だってできる。

 

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僕は建物自体に対しては、愛着とかそういうものはもともともっていない。でも、南青山という

 

場所にはこだわりがある。エイベックスが南青山にあるということに、特別な意味があると感

 

じている。

 

エイベックスは東京都町田市で起業をした。ビジネスが拡大し、都内のテレビ局やラジオ局、

 

関係企業との交流が深まるにつれて、町田はやっぱり遠いということになり、都心への移転

 

を考えなければならなくなった。その時に、候補に挙がったのが、渋谷、青山、代官山だっ

 

た。渋谷には当時、あまりいい物件がなかった。代官山環境いいけど、勝手なイメージ

 

だけど、どうせ都心に移るならやっぱり山手線の内側がいいと思った。当時は、青山通り沿い

 

に音楽関係、芸能関係の会社が多かったので、最終的に青山に移転することになった。

 

もう、これはイメージだとしか言いようがないけど、エイベックスはやっぱり南青山だと思う。も

 

う少し、外苑の方にずれて、北青山になるとなにか違う感じがする。北青山のなにが悪いとい

 

うこともないんだけど、あくまでも僕のなかのイメージ。でも、そういうイメージというのはエイ

 

ベックスのようなエンタテインメント企業にとってはとても大切なものだと思う。学生の頃、溜

 

池にある東芝EMIの軍艦ビル(芝パークビル)を見て、その大きさに驚いて、「こんなところで

 

働いてみたいな」と思ったことがある。若い時というのは、そういうイメージで憧れをもってしま

 

う。だから、エイベックスも南青山という場所にあって、青山通りでいちばん高くかっこいいビ

 

ルであることが、これからアーティストになろう、タレントになろう、エンタテインメントの仕事を

 

しようと考えている若者たちにとってとても重要なことだと思う。

 

本社ビルの1、2階は開放されたコワーキングスペースにして、原則だれでも、利用できるよう

 

にしようと考えている。スタジオもあるから、アーティストや練習生もそこを通って社内に入っ

 

てくる。それに憧れて、アーティストになりたい若い男の子、女の子がうろうろするかもしれな

 

い。それを狙ってスカウトもうろうろするかもしれない。そういうスカウトとタレントの卵を組み

 

合わせて、新しいビジネスを起業しようとする若者もうろうろするかもしれない。お金がない、

 

ノウハウがないというのだったら、エイベックスが資金を提供して起業させたっていい。こちら

 

としては真っ当な投資なんだから大歓迎。

 

本社ビルは、そういういろいろな人がいつも集まってくる場所にしたい。タレント志望の女の子

 

に「今は、原宿じゃなくて南青山がイケてる」と言わせたい。

 

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今年は4月に大きな組織改革、構造改革が控え、秋には完成した南青山本社ビルに移転を

 

する。最初は変化の大きさにみんな戸惑っていろいろな問題も起きてくるだろう。大変だとは

 

思うけど、エイベックスが変わっていくことを考えれば楽しみな一年でもある。