2013年6月27日号 週刊文春
東京ディズニーランドの食品が危ない!
問題食品リスト付

ディズニーシー名物「ギョウザドッグ」は原料も加工も中国
「ケーキにカビ」 「赤ちゃん用麦茶は賞味期限切れ」
「使用禁止添加物クッキー」…

「夢の国」が揺れている。ズワイガニや車工ビなど高級食材を偽装していたことが発覚したのだ。だが、問題はそれだけではない。10年間で10件以上の不祥事を起こし、名物に中国産冷凍品を使用していることも判明。はたして子供たちに悪影響はないのだろうか?

子供たちが大好きなディズニー
休日は2時間待ちもザラ
名物「ギョウザドッグ」

「ニュースを聞いたとき、とうとう出たかと思いました。ディズニーランドで提供される食品類の管理の杜撰さについては、オリエンタルランドと付き合いのある知人から聞かされていましたから」

こう語るのは、食品問題に詳しいノンフィクション作家の奥野修司氏。

奥野氏が言う「ニュース」とは、オリエンタルランドが五月に発表したピザメニューの誤表記問題のことだ。園内のレストランで「ズワイガニとプロッコリーのピザ」として販売していたピザに、実際には安価なベニズワイガニを使用していた。

 さらに六月、ディズニーホテルのレストランで、メニュー表記の高級食材とは違う食材で料理を提供していたことも発覚。「車エピ」と表記しながら実際にはブラックタイガーを使い、「和牛」と表記した肉料理には条件を満たさない交雑種の肉を使っていた。

 折しも東京ディズニーランドでは今年四月に開園三十周年を迎え、年間を通した記念イベントを開催中だ。昨年度の入園者数は二千七百五十万人で過去最高を記録。営業利益も前期比二二%増と五期連続で最高益を大幅に更新した。今年度は記念イベント効果でさらなる好業績が見込まれる。

豚肉も野菜類もすべて中国産

 そんな明るい話題の陰で、これら食品問題のニュースはひっそりと報道されただけだった。

 だが、問題はそれだけに限らない。

 「たとえばディズニーシーで大人気の『ギョウザドッグ』は、中国・青島の工場で製造された冷凍品です。それをワゴン内で温めて出しているだけ。中国産の冷凍食品が何度も大きな問題を起こしていることは周知の事実。しかも自社工場での製造ではないため、きちんとした管理がされているのか疑わしい。子供に食べさせるものとしてはふさわしくありません」(奥野氏)

 オリエンタルランドは、ディズニーランドとディズニーシーで提供されている食品の原産地情報をHPで公開している。ディズニーランドでは六十六品目の食材のうち、チキンやアサリなど九品目で中国産の割合が高い。ディズニーシーは六十九品目中、タコやホウレンソウなど九品目で中国産の割合が多い。

 一見、中国産食材はそれほど多くないように思える。だが、表示を最後まで見ると但し書きに<本情報には「加工品」や「加工品の原料」の原産地は含まれていません>との一文があった。つまり、ギョウザドッグのような加工品の原産地は、「中国産」にカウントされていないのである。

 本誌記者もギョウザドッグを試食するため、行列に並んだ。ディズニーシーの名物となっており、休日は二時間待ちの行列もできるという。この日は平日の午後だったが、それでも二十分ほど立ちっぱなしで並び、一個四百二十円のギョウザドッグを購入。見た目は鮫子の形をしているが、味は普通の中華まんと変わらない。

 中の具は豚肉、キャベツ、生姜、玉ねぎ、シイタケ等。これらの食材はもちろん中国産だが、どれも輸入時に厚労省に摘発されることが多い常連品目だ。
「多くの食材を使用している加工食品は、チェックが行き届いているのかが心配ですね。輸入検疫は伝票上の一〇%しか行っていません。これは中国で問題のある食材がそのまま入ってくる恐れがあるということ。食べてすぐ健康を害する可能性は低いとしても、有害物質が蓄積していく危険性があります」(食品表示アドバイザーの垣田達哉氏)

 中国産冷凍品の違反事例には、大腸菌汚染が多い。冷凍しても大腸菌は死滅しないからだ。○八年の「毒ギョウザ事件」も記憶に新しい。

過去の不祥事の教訓はどこへ

「冷凍品の具の中身には、野菜の芯などコストのかからないクズ野菜を使っているケースが多い。いろんな食材の余り物に、均等な味付けになるようにと調味料や香料などの食品添加物を加えます。野菜はシーズンによって味が多少変わるものですが、こういう商品は味が一定です。それは添加物で味をごまかしているから」(中国食品に詳しいジャーナリストの椎名玲氏)

 ギョウザドッグについては、取引業者の間でも異論があったという。

「業者からも『子供たちが食べるのに、中国産でいいのか?』という意見がオリエンタルランドに寄せられていたそうです。しかし同社の担当者は『米国本部へのロイヤリティーや新しいアトラクションを作る工事代のため、コスト削減が至上命題。上層部は聞く耳を持ってくれない』と嘆いていたそうです」(奥野氏)

 園内では食べ歩きメニューの定番として、ポップコーンも大人気だ。今年四月からは期間限定の特別企画で、ポップコーンの味が変わるフレーバー(香料)まで販売していた。

 試しにキャラメル味ポップコーンのバケット付き(千八百円)とバナナ&ガラムマサラのフレーバー(百円)を購入。フレーバーのパッケージを見ると、「原材料名」には多くの食品添加物が書かれている。

「甘味料の『ステピア』と表示がありますが、これは先月、アレルギー症状の可能性を指摘する報道があったばかり。ほとんどが中国で栽培されている食品添加物です。それから『パプリカ色素』と表示されていますが、一般には『着色料(パプリカ)』と表示されるべきもの。表記次第でイメージも変わります。表示方法を賢くやっていますね」(食品評論家の小薮浩二郎氏)

 パッケージには「香料」と一括で表記されているが、「実は何種類もの香料が使われていて、それらが人体にどう影響するかわからない怖さがあります。香料はどんどん進歩していて、たとえばフライドポテトの香料をティッシュベーパーにかければ、錯覚して食べてしまうこともできるほど。しかし安全性の臨床データが乏しく、アレルギーにつながる可能性も指摘されている」(前出・椎名氏)

 実際、オリエンタルランドは○二年、食品衛生法で認められていない香料が菓子類に使われていたとして、販売停止と自主回収を行っている。グループ全体の回収品目数は合計十六点にも上った。過去の教訓は活かされていないのか。

 左の一覧表を見てほしい。ケーキにカビが付着していたり、クッキーに使用が認められていない酸化防止剤が含まれていたりと、この十年間だけでも数々の食品不祥事を起こしている。

安全性よりコスト削減

 ディズニーホテルの元従業員は、こんな話を明かす。

「レストランに白身魚のスズキのメニューがあり、表記は『本日の白身魚』とされていましたが、実はアフリカ産の淡水魚ナイルパーチだったことがありました。本物のスズキより安いからだと他のスタッフが話していました。お客様に何の白身魚かを聞かれたときは『スズキです』と答える従業員が多かったです」

 ディズニーが他の遊園地と違うのは、弁当など食べ物の持ち込みが禁止されていることだ。

「なるべく園内で食べさせて利益を上げようとしているのだから、もっと神経質にスーパー並みの自主検査をやらないといけません」(前出・椎名氏)

 オリエンタルランドには内部調査の部署もある。

 「しかし、それは従業員を”粛清”するための機能しかありません。最近はツイッターやフェイスブックで内部事情を暴露する従業員が増えていて、そういう人をチェックするのが内部調査の仕事です。アルバイトも含めると二万人くらいいるので、内部調査の人も忙しいみたい。表に出ないボヤ騒ぎも多いし、食中毒がいつ起こってもおかしくない衛生管理のホテルだってある。問題が明るみに出て上層部が考えを変えてくれたらいいなとみんなが思っても、犯人探しをされるのが嫌だから沈黙してしまう」(別の元従業員)

 いったいディズニーランドの食品はどこまで安全なのか? オリエンタルランドに取材を申し込むと、書面で回答が返ってきた。

 ギョウザドッグについては、中国の工場の安全性を強調する回答だった。

 〈日本の食品メーカー・商社および中国の大手メーカーが共同して設立した工場で、日本農林水産省の指定加熱工場であり、IS09001、HACCPの認証を取得している信頼できる工場です。また、あわせて以下のような厳重な管理体制を敷いています。
①原材料はすべて当社指定の、日本の基準に基づいて栽培された野菜と、外部からの汚染、混入のないように隔離および消毒された環境下で厳格に管理された豚を選定し、検査に合格したもののみを使用しています。②製造工程管理は洗浄から加熱・保管温度まですべての製造過程がHACCPに基づき管理されています。すべての製造工程が書面で提出され、常に当社で確認できる状態です。
③当社の安全監理担当者が現地に出向き、原材料・製造工程および従業員管理について、確認のための帳票を提出させ、定められたことが守られているか、直接確認しています。
④日本国内への輸入時には、日本の検疫所での検査を通過したもののみ使用しています)

 だが、中国の食品事情に詳しい愛知大学の高橋五郎教授はこう指摘する。

「『日本農林水産省の指定加熱工場』と強調していますが、農水省認可制度に実質的な効果はない。農畜産物の加工には、一次から三次までの加工工場があります。たとえ三次加工が清潔であっても、一次や二次が不衛生なこともある。これを防ぐことはできません。中国における食品加工の全容は、把握できない仕組みになっているのです」

 前出の垣田氏もこう語る。

「今回の誤表記は、故意かどうかは別にしても、高級食材に偽装して安い食材を使っていたことが露呈しました。安い食材ほど安全性は低下します。しかもそれを高値で売っていたのですから、安全性よりもコスト削減を優先し、利益追求に走っていると批判されても仕方がない」

 ましてやディズニーランドは子供たちに夢を与える遊園地。そんな場所でリスクの高い食品を提供することは止め、食の安全にもっと配慮してほしいものだ。

東京ディズニーリゾートの食品不祥事一覧

発生日 発生場所 不祥事の概要

2002年6月 TDL、TDS
くまのプーさんやピーターパンの絵柄が描かれた「アソートキャンディ|など商品7品目にヒマシ硬化油を使った香料を使用。これは食品衛生法上の無認可香料で、オリエンタルランドは商品を撤去して自主回収した

2002年12月 TDL                             
ミッキーマウスをかたどった容器に入ったもち菓子からカビが見つかる。約1万個販売済みだったため自主回収および購入者には返金を発表。商品が入っているフィルム袋を完全密封できなかったことが原因だった

2003年7月 TDL 
7月8日から16日まで販売した菓子「キャンディポップ(ミッキー)」の一部商品について、賞味期限が本来よりも1年早い「03年6月29日」と誤表記されていたことが判明
  
2004年10月 TDL、TDS、系列ホテル
「ミニカップケーキ」にカビが付着。ケーキを焼いた後、十分に冷まさないまま包装した結果、袋の中に水分が残ってカビが生えたと見られている。オリエンタルランドは販売した1600個の回収を発表した

2005年1月 TDL、TDS、系列ホテル  
「ジャムインクッキー」と「フルーツタルト」にアオカビなど3種類のカビが付着。これらの商品には砂糖よりも水分を多く含む甘味料が使用されていたため、カビが発生しやすい状態になっていたという。オリエンタルランドは2商品合計6900個あまりを自主回収した

2006年5月 TDS
土産用に販売されていた「ダブルチョコレート・クッキー」に、食品衛生法で使用が認可されていない酸化防止剤(TBHQ)が含まれていることが判明。同年2月以降、約3万7000個が販売され、商品の自主回収が発表された

2007年1月 TDS
賞味期限が2年3ヵ月も過ぎたチョコレートを菓子の原材料に使用。対象商品は「チョコレートカバードクッキー」および「チョコレート&クッキー」の2種類だった。販売済みの約2万缶を郵送で回収するとオリエンタルランドは発表した

2007年1月 TDL
TDL内のレストラン「イーストサイド・カフエ」で販売された「カプレーゼ」に賞味期限を過ぎたモッツァレラチーズを使用。オリエンタルランドは同商品を提供した来園者に謝罪した

2007年5月 TDS
TDS内のレストラン『ニューヨーク・デリ』で販売されたサンドイッチに賞味期限の切れた「カラシ入りファットスプレット(食用油脂)」を使用していたことが判明した。店舗での仕込み時に、食材へ貼付する「賞味・消費期限シール」に賞味期限の日付を入れ忘れたことが原因だった

2008年4月 TDL
授乳やオムツの交換ができるベビーセンターで販売された赤ちゃん用麦茶「明治ベビーフード赤ちゃん村麦茶」に賞味期限切れの商品があったことをオリエンタルランドは公表。商品の回収を呼びかけたが、最大で1ヵ月賞味期限を過ぎているものもあった


2008年11月 TDR内
カナダの劇団「シルク・ドウ・ソレイユ」の劇場内で販売された46杯の「コカコーラ(カロリーフリー)」について、賞味期限が切れた商品だったことが判明。従業員が賞味期限を確認した際、4度確認したが気がつかなかったという

2010年1月 TDL、系列ホテル 
本来2010年2月の賞味期限と表示すべきものを2009年2月と誤表記した商品を販売していたとして、オリエンタルランドが自主回収を発表した。該当商品は、箱に和装のミッキーマウスなどが描かれた白あんミルク風味のまんじゅうだった

注)TDLは東京ディズニーランド、TDSは東京ディズニーシー、TDRは東京ディズニーリソートを示す