みなさんこんにちは
今回はもう一つのネイチャーアクアリウムというべきBiotope Aquariumについて記事を書きたいと思います。アクアリウム界で大変有名な方が審査員に名を連ねるこのコンテストは、今後更に注目されることでしょう。趣旨はネイチャーアクアリウムと異なりますが、その根本の部分は似ているように思えます。

@Biotope Aquarium Design Contestとは@
・ロシアの観賞魚イベント
Biotope Aquarium Design Contest」は2013年よりロシアのUnitex社が主催のアクアリウムレイアウトコンテストの一つです。賞金総額は3000ユーロ、そしてファイナリストの作品はサンクトペテルブルクにてロシア最大のペット産業展示会である「Zoosferaで展示されます。
審査員にはベテランのアクアリストや研究者、世界水草レイアウトコンテスト(ADA)元審査員といったスペシャリストが集います。また、世界規模で有名なアクアリストである、あのハイコブレハー氏もかつて審査員を務めていました。
2015年の最終ステージ→
http://all4aquarium.ru/en/events/jbl-biotope-contest-2015/final

・ルール
コンセプトを一言で表すと「可能な限り自然な水生環境に近い作品を作る」です。主催者は「この大会では、水槽の外観だけではなく、魚や植物、それらの構成および比率、種の正しい選択も重要です。」とアドバイスされています。
作品制作には、まず「北アメリカ南アメリカアフリカユーラシアオーストラリア・オセアニア(中米を含む)」5つのカテゴリーから選択することになります。さらに国や地域、川や水域などを決定しなければなりません。つまり、作品を制作するにあたって大変細かなフィールド設定が必要になるのです。(例、南アメリカ ブラジル ブラジル高原西部 アマゾン川支流 タパジョス川のビオトープ
そして、生息する魚種や植生状態はもちろん、土壌の種類や石・流木の有無など、再現するフィールドのできる限り詳細な情報もソース付で提示しなければなりませんし、それに沿って水槽レイアウトをする事になます。先に書いた通り、審査委員は皆スペシャリストなので、提示したデータや制作した作品に泳いでいる魚種、水草、低床などに虚偽があれば、すぐに発覚してしまうことでしょう。ハイコブレハー氏いたっては現地に訪れた経験も豊富であり、「このコンテストのほぼ全てのビオトープを推測することができる」とのことです。


この水槽では各水草の自生地が異なるため基準を満たせていない・・・。

・審査員コメントの雰囲気
以上のことから、出展作品を見ると通常のレイアウトコンテストとは趣の異なる印象を受けます。大会HPの説明には「Aquascape」を「天野氏が開発した水の風景として使用される用語」として紹介し、Biotope Aquariumは全く異なるものとして記述されているのです。審査員のコメントを読めば水草レイアウトコンテストと雰囲気が異なる事がさらに理解できるでしょう。

ハイコブレハー氏のコメント抜粋
・メキシコのProfundulus oaxacaeが生息するフィールドを角のある石や水草で再現した作品に対し
Profundulusは、丸みを帯びた岩の間住んでおり、生息地は速く流れています。そして、尖った石や沈水植物は(生息地に)あまりありません。

・パナマのGuarumo川を再現した作品に対し
装飾がよく出来ており、魚種もよく選択されていますが、E. subocellatus,や Cabomba aquaticaといった水草は現地にありません。

・タパジョス川の曲がり目にある沈水林というタイトルの作品に対し
タパジョス川の曲がり目、とありますが、この大きな川にですか?

・コリドラスパンダやブラックネオンテトラ、ゲオファーガスとエキノドルス・テネルスを植栽したタパジョス川を再現したという作品に対し
(前略)その川の中とは殆ど関係ない。何故なら、コリドラスパンダはアマゾン川上流(ペルー)に生息していますし、ブラックネオンテトラはパラグアイ川流域だけで見つかります。(略)エキノドルス・テネルスはゲオファーガスの生息地では自生できません。(そんな深い場所では生き残れません。)

といった具合に、ズバリと的確に、少し辛辣な指摘をされています。
このように、普段見かける水草が生い茂った美しいレイアウト水槽では「その地域の川にしては水草の量が多すぎる」として減点されかねないコンテストなのです。また、基本的に枯葉は自然の川底を表現するための重要な要素であり、その点も水草レイアウトではあまり見かけないポイントでしょう。

・比較
ネイチャーアクアリウムが自然を芸術的に再現するモノであるとすれば、Biotope Aquariumは自然のありのままを再現するモノであると表現できるのではないでしょうか。
Biotope Aquarium各作品を見ると華やかさには欠けています。ですが、そこには自然の面白さ、奥深さ、威厳が見えてくるのだと思います。もしかすると、そういったものも美しさに含まれるのかもしれません。
主催者は「あなたが、これらの素晴らしい水槽(biotope aquariums)を見たとき、Biotope Aquariumは新しいアクアリウムデザイナーの偉大なる出発点であると思い浮かべるでしょう。」と説明されています。魚や水草、生息地の環境・・・アクアリウムに関する総合的な知識をフルに使うBiotope Aquariumは、アクアリストとしての実力が最大限に発揮される場に違いありません。

@おわり@
皆様いかがでしたでしょうか。こういったレイアウトコンテストがあったのか、と思われた方も多いのではありませんか?ルールは先に記述しましたが、実はそれだけではありません。さらに細かい点もあり、自然の再現に対する大変強い意気込みを感じるコンテストです。参加するには根性が必要ですね。

私も以前、アフリカの魚と水草縛りという、少し緩いルールで水槽を制作したのですが、大変苦労しました。何しろ、アヌビアスを抜かせばアフリカ原産で流通する水草の種類は少なく、またコケ取り生体もあまり見かけないためです。現在では、ザイールプレコやアフリカンロリカリア、マウンテンロックゴビーといったコケを食べてくれそうな魚の入荷を待っている間に、水槽がコケだらけになってしまったため、サイアミーズフライングフォックスを入れてしまっています。ルールを破ってしまいました。

さて、今年も世界水草レイアウトコンテストの作品受付が始まりました。世界が注目する日本のアクアリウムイベントですが、今後もその地位を維持する事ができるのでしょうか。レイアウトコンテストは日本だけではなく世界中で行われています。今記事で紹介した
Unitex社でも「Biotope Aquarium Design Contest」の他に水草レイアウトコンテストなども行っているようです。私はこれからも「ネイチャーアクアリウムは凄い!!」と世界中のアクアリストに評価されるよう願っています。


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参考URL: http://all4aquarium.ru/en/events/jbl-biotope-contest-2011