◎子供は見ちゃだめよ◎
そう、あれは2年ほど前。
3日連続でSHOWが入ってたか何かで俺の肉体は悲鳴をあげていた。
当時の俺の自宅は大阪市内の「大正区」と言うところ。
沖縄の方々がたくさん住んでいて、大阪らしからぬ独特の雰囲気はとても暖かく、治安が良いのか悪いのかよく分からない感じがとても心地良く、住んで5年ほど経ってからも変わらず大好きな土地だった。
そんな大正区には
「金◯羅温泉」
と言う名の銭湯がひっそりと立っていた。
俺にとって通勤路でもあり、ミナミまで出るのはほぼ毎日。
その通り道にひっそりと佇むその姿は、目に入る度に俺の好奇心をくすぐっていた。
何を隠そう俺はかなりの銭湯好きで、全国47都道府県の全ての県で銭湯に入った経験もあり、毎日最低二回は銭湯に入りたいほどで、一日に8件の銭湯を周った事もある。
だが別に「銭湯マニア」と言う訳では無く、情報を持ち合わしている訳でもなければ料金を覚えていたり番頭さんと特別仲が良い訳では無いし行きつけの銭湯がある訳でも無い。
単純に、銭湯のあの空気がとても好きで、普段話す機会の無いお爺さん達との会話はものすごく人生の糧になり、何より一番好きなのは銭湯から上がった直後に感じる、湯気とタバコの匂いがまざった、謎の安心感を醸し出すあの匂いが何よりも大好きなのである。
嫌いなコーヒー牛乳だって銭湯での風呂上がりなら何本でも飲める。
広島県のとある場所では、俗に言う「ややこしい人」しか入れない、どこを見ても墨塗れの人しか居ない、特別な銭湯に何も知らず迷い込んだ事もあるが、裸の付き合いとは本当にすごいもので、こんなどこぞの旅人かも分からん若輩者をごく自然に受け入れてくれて、組も会も関係無くみんなが仲良く会話し、励まし合うあの姿は一生俺の心に焼き付いて離れる事は無いだろう。
そのくらい、銭湯と言う場所には聖なる力が満ち溢れていて、俺にとって、たくさんの人々にとって、心の洗濯をしてくれる聖なる場所なのだと俺は思う。
そんな銭湯が俺は大好き。
…だった。
あの出来事が俺を容赦無く襲うまでは。
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…冒頭に伝えた様に、連日のSHOW出演続きで身も心も疲れきっていた俺は枚方での最後の出番を終え、フラフラになりながらも大きな荷物を持ってミナミから大正区の我が家まで自転車のタイヤを転がしていた。
大正区という地域は埋立地であり、周りは川で囲まれていて、他の地区と大正区を結ぶ橋がたくさん点在する。
金比◯温泉は、そのたくさんある橋の一つ「大波橋」の橋下にあるため、勢いよく橋を駆け上がると見落としてしまう事が多々あり、俺はこれまで入る機会を逃していた。
そんな時、俺は疲労困憊時特有のアンテナを立てていたのか、◯比羅温泉を改めて見つけた。
いつもなら
「行きたいけどなー、んー、橋登ってもたしなー、しゃーない!うん、また今度!」
といった感じで流していたのだが、この日に限っては肉体疲労が物凄かったので
「癒されたい」
そんな軽い気持ちに苛まれ、少し登った大波橋を引き返し、初めての金比羅温泉に心踊らせながら俺は扉の取手に手を置いた。
「ガラガラ~っ」
昔ながらの横開きの扉の重みが俺の手に伝わり、まだ見ぬ新たな銭湯への好奇心を更に掻き立てた。
靴を靴箱に押し込み、数字の書かれたボロボロの木の板で出来た鍵を慣れた手付きで外し、いざ入店。
女湯は右、男湯は左といったレイアウトの間仕切りの中心の少し高い位置には60歳手前くらいの女性番頭さんがテレビを気だるそうに見ている。
テレビでは極太アフロドレッドの女性が魚介類みたいな名前をした家族や仲間達とおもしろおかしく人生を謳歌する姿が描かれた国民的アニメ
「サザエさん」
が放映されていた。
湯気に反響してやたらとエコーのかかる何気ない会話や音。
風呂からあがった老人達がタオルを首からかけ扇風機の前で涼みながらコーヒー牛乳を飲んでいて、女湯からはやたらと声量のあるおばあちゃん達の世間話が耳に入る。
どれも銭湯では良く見かける光景である。
俺(んーこれこれ、この感じ◎)
ありきたりな入湯料を払い、いざ脱衣所へ。
疲労なんてどこへやら。
普通の銭湯とは一線を博した不思議な内装を目の当たりにして更にテンションが上がる俺。
脱衣所もそうだが、湯気とガラスの扉越しに見える銭湯そのものも入り組んでいて初めて見る感じ。
荷物が多すぎてロッカー1つでは入りきらないので2つに分け颯爽と服を脱ぎ散らす!
の前に、トイレに行こう。
周りを見渡しトイレを発見。
8段ほどの小さな階段の上にあるトイレのマーク。
階段の上には左にトイレ、右には喫煙所らしき謎の空間があった。
ゆっくりと階段を昇り、トイレのドアノブに手をかけたその瞬間!!!!!
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ドアノブを掴んだはずの俺の腕は見知らぬ誰かに横から掴まれていた。
条件反射で目を向けたその視線の先には、白髪頭に何故か黒目も白い蒼白の老人が俺を見つめていた。
例えるなら映画「ダ・ヴィンチ・コード 」の敵役の「シラス」をお爺ちゃんにした感じ。
白爺「兄ちゃん、遊ぼうや~」
ん?
ん??
ん??????
遊ぶ?????????
なんで俺が銭湯で爺ちゃんと遊ばなあかんねん????
俺の頭の中はハテナでいっぱい。
ドアノブを掴んだ手を掴まれたまま、俺の左脳はフル回転。
すると間髪いれずに…
白爺「おっちゃんな、若い男の子好きやねん~」
おっと、なるほど。
そっち系の人か。
もちろん俺は男性には興味は無い。
なんなら人一倍、女性が好き。
ある程度状況を把握出来た俺は
俺「ごめんな、俺そんなんやないねん。」
丁重にお断り。
素直に立ち去るかと思いきや
白爺「え~やん、ちょっとだけやから、すぐ終わるから。な、ちょっとだけ、ちょっとだけ、お兄ちゃんは立ってるだけでええから。」
俺「だからな…」
白爺「ええやろ、な、一緒にトイレ入ろや」
食い下がる白爺。
さすがに気持ち悪さの沸点に達した俺は
「だからちゃうゆーてるやんけ!もうええからあっち行けや!」
少々強めに罵声を浴びせたが、俺は何一つ間違った事は言っていない。
銭湯と言う場所は風呂に入る場所であって、別のモノを入れる場所でも入れられる場所でも無い。
しかし白爺はそう簡単に俺の元を離れない。
無理矢理トイレの中に逃げ込もうとしたが隙を見て一緒に入ろうとまでしてくるではないか!
何回か扉に挟まる白爺。
やっとの思いでなんとか振り払い、トイレの鍵を閉める。
「バタンっ!ガチャ!」
俺(なんとか振り切ったのは良いけど、なんやねんあいつは…てか人見てたやん、ちょっとくらいかっこいいアクション起こしてくれよ…)
閉めたばかりの扉が開けられない様に体重をかけ、とりあえず大きく深呼吸を一回。
トイレから出たら白爺がまだ居るかも知れない恐怖感。
しかしこの銭湯は俺がずっと入りたかった念願の湯場。
俺の中の天使と悪魔が会議中。
5分ほどの協議の結果
「白爺が居なかったら、実際体も疲れてるし入って帰ろう。」
とてつもなく無難な答えを出した俺はゆっくりとトイレの扉を開き、周りを見渡してみた。
居ない◎
念のためとなりの喫煙部屋的なところも覗いてみるが、見知らぬ中年男性が全裸で座っているだけだった。
銭湯の中も見渡す限りは居ない。
俺(そらあんなけ拒否ったら帰るわな。)
胸を撫でおろし、改めて服を脱ぎ、ロッカーの鍵を閉め、急だったのでタオルを持ち合わせていなかった俺は完全な全裸スタイルになり、やっとの思いで金比羅◯泉に入る事が出来たのであった。
いつもの様に、軽く体を流し一番近くにあった湯船に浸かった。
銭湯特有の熱めに設定されたお湯が痛気持ち良く俺の皮膚と交感神経を刺激する。
これぞ癒し!!!
と安心しきっていると……
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…俺は目を疑った。
俺が入った向かいの湯船から白い何かが浮かび上がってくるではないか。
「ブクブクブクブクブクブク…バシャーーーン!」
泡飛沫と共に湯から現れたのは紛れも無く白爺だった!!!!
心臓爆発。
しかも、安心しきっていた俺は不運にも白爺の方向に向かって完全に大股開きのTHE武将スタイル。
白爺の目線は俺の股間へ猫まっしぐら。
まさかあんな老人が潜水能力まで持ち合わしているなんて誰が予想出来ただろうか。
完全な敗北を期したはずの武将スタイルの俺は、こんなタイミングで負けず嫌いが顔を出し「逃げてなるものか!」と臨戦体制。
もう変な意地だけが俺を生かしていた。
そのまま股を閉じる事無く白爺の視線と戦う事約3分。
あれほどまで長い3分を俺はこれから経験する事は無いだろう。
痺れを切らしたのか満足したのか白爺は湯船から出て脱衣所へと出て行った。
一気に体の力が抜け、真の安心感と「妖怪股間凝視」に打ち勝った達成感が俺を包みこんだ。
安堵の時間もつかの間
「ガラガラ~っ」
新キャラ登場。
身長190センチはあるであろう白人男性。
腕にはハートを矢で貫いた感じの少々ベタな感じのtatoo。
体はもう読んで字の如く
完全なる「ガチムチ」
見た目めっちゃ米軍の兵士。
例えるならスト2のガイルのプライベート。
俺(もしもこいつが白爺と同じ性癖だとして、パワームーブで攻め込まれた日には、こんな165センチ足らずのなんちゃって武将では太刀打ち出来へんやないか!)
さすがに身の危険を感じた俺だったが、米軍相手に日の丸を背負い、そう簡単に退く訳にはいかない。
決死の覚悟で洗い場へ!
銭湯特有のやたらと低い椅子に座り、鏡越しに周りを見渡してみたが、ガイルはもう居なかった。
俺の思い過ごしか。
ガイルちょっとごめん。
とりあえず急いで髪の毛を洗い、流し終えて顔を上げた俺は今度こそ気を失うかと思った。
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鏡越しの光景を俺は少しの間信じる事が出来なかった。
髪の毛を洗い始めた時には居なかったはずの、なんとも豊満なフォルムをしたデブの中年男性二人が、濃厚なDEEP KISSに興じているではないか。
例えるならば
伊集院光がハゲたやつと×ごくせんとかに出てた金髪の肉付きの良い兄ちゃんが老けたやつ。
×
すき焼きの糸こんにゃくの様に絡みつくその様はまるで地獄絵図。
そればかりか
男性にとってはあまり役に立たないと思われがちな「乳首」と言うロマンチックゾーンを二人してコロコロ、コロコロと指先で器用に転がし合っていた。
デブ二人が織りなすシンメトリーのアートを俺は鏡と言う額縁の中で目の当たりにしてしまい、見るに耐えれずとっさに目を逸らした。
目を逸らした先、絡まりデブの更に斜め左後方、死角になっていて見えない場所からは地球の終焉を思わせるかのような
「パンっパンっパンっパン」
俺にも聞き覚えがある、あの渇いた音が聞こえてくる。
これはもしやガイルの仕業か…
ガイルと白爺が織りなす悠久のハーモニーか…
BPM120ほどの一定のリズムに合わせた、皮膚同士がぶつかり合う音に俺の精神は崩壊寸前。
「ちょい…待てよ…なんやねん…ここ…」
心の声が俺の唇を小さく震わせた。
その時にはもう俺の意地も見栄も枯れ切っていた。
体を洗う事無く素早く立ち上がり、脱衣所へと足早に退散。
金比◯羅温泉の住人達の視線は俺の太ももの付け根にあるシンボルへ集中攻撃。
最後のアガキと言わんばかりにマイボーイズシンボルを隠さずに早歩きで逃げ去る負け犬、豊福孝紀。
無駄な動きを全て省き去り、レッスン用のタオルで体を拭き、光のスピードで服を着て、大きなカバンを背負い、振り向いたそこにはなんと白爺の姿が
俺(くっ…俺もここまでか…)
中にはまだガイルと絡まりデブ達が居る。
フォルムからして、彼らの戦闘能力は計り知れない。
これまでの我が人生が走馬灯の様に頭の中を駆け巡る。
俺(短かったけど、とても充実した楽しい人生やったな。生まれ変わっても、みんなは俺と出会い、そして受け入れてくれるかな…みんな今までありがとう。)
---諦めるな豊福孝紀よ---
神の声が聞こえた。
俺(そうや、俺にはみんなが居る。守るべきモノがあるんや!!よし、俺は負けない!!!負けるもんか!!!!)
最後の戦いの決心をした俺に、白爺はとても妖怪股間凝視だとは思えないほどの優しく全てを包み込む様な笑顔で俺にこう言った。
「兄ちゃん、ここは初めてかい?世の中には色んな世界があるんや。それを受け止めるか門前払いするかは兄ちゃん次第。気持ちに整理が付いたら、またおいで。そして今日はもう暗いから気を付けて帰りや。」
「一生来るか!!!!!!!!!」
と言いたかったが、俺の精神力は既に虫の息。
言の葉は俺の声帯を揺るがす事無く泡の様に弾けて消えた。
「ガラガラ~っ」
何も言えず静かに扉を開け外に出た俺は銭湯で癒されるはずが身も心も憔悴しきっていて、普段なら10分ほどの距離のはずが30分ほどかかりやっとの思いで帰宅した。
この直後、俺は昔から親しいコミカルな友人にこの事を包み隠さず話した。
するとそのコミカルな友人は持ち前のコミカルさを活かして、インターネットという近代文明を駆使して事の全貌を明らかにしてくれた。
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皆様は「発展銭湯」と言う言葉をご存知でしょうか。
ピンと来ない人がほとんどだと思いますが、「その気」がある方々が集い、読んで字の如く「発展」する銭湯の事をその業界では「発展銭湯」と呼ぶらしい。
実は日本には無数にこの発展銭湯が存在し、なんと俺が行った金比羅温◯という銭湯は日本でも三本の指に入るほどの、そちらの方々のメッカなのだと言う。
「なーんや♪そら俺も発展させられかけてもしゃーないわな♪」
と諦める訳にも行かず、自ら更に深くリサーチしてみた結果、更に驚きの情報が流れこんできた。
驚きを隠せない俺の目には一つのブログが写っていた。
そこには前半の内容こそはっきり覚えて無いが、察するに金◯羅温泉に初めての「発展」を期待して行ったのであろう人物の記事。
その記事の最後の文章には
「夕方には大きなカバンを持った色白の金髪の小柄な20歳前半くらいの男の子が来たが、何も知らずに来た様で、足早に帰って行った。」
みたいな事が書かれていた。
しかもその記事の日付は俺がこの出来事に襲われたその日そのもの。
完全に俺やん。
それからと言うもの、俺は銭湯に激しいトラウマを感じる様になり、銭湯では全員が妖怪股間凝視かガイルか絡まりデブに見えてしまい、大好きだった聖なる場所は、性なる場所どころか、SAY!!アナル場所に成り代わり、俺は心に深い傷を負い、銭湯に行く回数は劇的に減ったのである。
だが
彼らにそんな事は関係無い。
まだまだ発展途上のこの国でアヌス イン ワンダーランドの住人達は今日も「発展」する。
男性の皆様。
「その気」が無いなら発展銭湯にはくれぐれもご注意を。