履き下ろした革靴が足に馴染むまでの過程が興味深い。

グッドイヤー製法の靴は購入時と履き馴染んでからが劇的に変わります。
良い面でもあり、困った面でもあります。
私が自分で履いた多くない靴からの経験から推察した内容です。

はじめてグッドイヤーウエルテッド製法の靴を履いた方はその固さに驚くとおもいます。また、小指、カカトに当たり擦れる痛みを感じる場合もありす。
足に馴染んでいない靴は痛く履き心地が良くありません。

しかし、ある時から痛みが減ってきたことにも気がつきます。
3ヶ月以上履いても馴染まず、痛いようなら足に合っていないラスト(木型)だと思って諦めた方がいいかも知れません。
そこまで我慢するのもイヤですね。

革靴が足に馴染むまでの間、何が起きているのでしょうか?

新品の靴は、シワも無く、バリッとした美しい見た目どおり固く、足になじみません。

ベビーカーフの革だったりマッケイ製法、ハンドソーン ウエルテッド製法など構造的に履き下ろしから、比較的柔らかい靴もあります。

ソールの材質が革なのか、シングルソールか、ダブルソールかによっても違います。
当然ダブルソールの方が固い。
ダイナイトソールはダブルソールより柔らかく感じます。

何回か履いていくうちにシワが入り、中底の下のコルクは沈み、革が伸びて足に馴染んできます。
要は伸びちゃうってことですね。

特にグッドイヤーウエルテッド製法の特徴に問題があります。
ソールと中敷を交換可能にするためにリブテープとウェルトを双方から縫っているために屈曲しづらい。※1

リブテープ、ウェルトもアッパーの形成も革を麻糸で縫っているため、履いて体重をかけ歩くとこで、リブの縫いが緩み歩く時の形に靴全体が変わっていきます。


歩く時に曲がる甲、バンプ部分にはシワが入り、ソールも曲げ伸ばされ、靴全体が曲がりやすくなります。シワが入った前後の革は必然的に伸びます。

シワが入らないように曲げないようにしている方がいますが、足に馴染みにくいでしょうね。

革は水分を含むと柔らかく伸びやすくなり、乾燥すると固くなる性質があります。※2

また、温度が低いと固くなり、温まると柔らかく伸びやすくなります。 
ただし、70度を超えると、縮み、固くなり戻りませんのでご注意ください。※3

履いて歩くことで、足から発散される水分を革は吸収し、曲げ伸ばされることで、伸びます。

「革の伸び」「縫い目の緩み」「コルクの沈み」「シワ」によって新品の時とは異なる形状、伸びて大きくなって、足に馴染んでゆくのだと考えています。

このように靴の形状が履きはじめてから大きく変わることがわかるようになると、購入時にはかなりキツめのものを選ぶようになりました。

経験が伸びる部分と伸びない部分を教えてくれます。

ボールジョイントの幅は伸びるのでギチギチを選びます。
レングス(length、長さ)は伸びないので空き寸を持った丁度のものを選びます。
今回の記事のテーマは革靴の選び方ではないので別の機会に。

ここまでが、予見、前提になります。

問題は、この変化した状態に何時なるのか?その間どれだけ不快な痛みを我慢しなければならないのか?
また、短くすることはできないのか?

私の数少ない経験は、履いた回数、時間(長さ)が大きく影響を与えているように感じます。

変化が何時来るのかについては
経験からは、大きく三回の変化を感じます。

1回目は履き下ろしから1ヶ月目、4、5回履いたぐらいの時に、最初とは違う場所が痛くなったり、無くなったりします。
「リブの伸び」「水分による伸び」が大きく影響を与える時期ではないかと考えています。

2回目は3ヶ月ほど経った10-15回くらい履いた段階で、大きく履いた感じが変わります。
柔らかくしなやかになり、足に吸い付くようになります。
「コルクの沈み」「横幅の伸び」が影響しているのではないかと考えています。
この時期、購入した店頭に、その靴を履いて訪れることをお勧めします。
店頭の新品の革靴を履き慣らした靴の隣に置いて観てください。
形状の変化に驚くとおもいます。
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左が新品、右が2ヶ月経過した同じ靴です。

まるで同じ靴には見えないほど変化しています。


3回目は、9ヶ月ぐらい数え切れないくらい?履いた時に来る変化です。
ソールも柔らかくなり自分の足に合っていることが感じられるでしょう。
もしかしたら、ゆるゆるになってしまっているかも知れません。
私は多くの靴がこうなります。
前半分、又は、全体に中敷を敷いてサイズを調整します。

体重、汗の量、雨に濡れたかどうかも大きく影響しそうです。
だとすると女性の場合変化が更に緩やかな可能性があります。

初期の不快な思いはできればしたくありません。
どうしたら不快な思いをしないで馴染ませることができるでしょうか?

私は室内での足入れを行います。
30分から1時間程度室内で履いて体温と汗によって水分を革に与え、伸びやすくします。

その上でキチンとカカトに合わせて、紐をきつく締め、履いた上でしゃがみ、それぞれ片膝を床までつけて、靴を折り曲げます。
俗にシワ入れの儀式ですね。

こうすることで、ソールを曲げて伸ばし、見えないリブテープと細革を伸ばし、麻糸を伸ばし、アッパーにシワを入れます。

この前後にアッパーにロウ分の少ない水と油分を多く含んだ乳化性クリームか、オイルをアッパーと靴の内側に塗ります。
鞣された革の標準的な水分、油分量を目標としています。※4

ただし、クリームなどはかなり気休めです。
皮革の中に染み込むほど塗れているか疑問です。

他の方は一度お湯をくぐらせて濡らしてから上記のシワ入れをするという方もいました。革の性質と構造から言って、これは効果的でしょう。
ただし、足の皮膚も柔らかくなってしまうので靴擦れする事もあるのではないでしょうか?

同時に革は水分が多すぎても伸びすぎ、形状が崩れてしまいます。
水分量15%を目標にしています。※2

革が呼吸できる状態を維持するために、定期的な清掃により比較への通気性を維持する必要があります。
革の吸放出特性を有効に利用する必要があります。※5

これらの変化も革靴を履く楽しみの1つだと思っています。
中々高価な新品を買うことができませんが、中古でも履き馴染んでいない靴であれば同じような変化があります。

とどのつまり、グッドイヤーウエルテッドの靴は履き馴染むまでに多大な時間要するという事でしょうかね。

以上。


2018/10/19追記
というわけで、考えました
ジャストなグッドイヤーウェルトの靴を買ってもダメだな、と
まず、きつい足が入る限界の小ささの靴を買う。

履き降ろす前に乳化性クリームをたっぷりと入れ、革をよく揉んで柔らかくします。(松戸Creoの安井さんに教わった)

薄いカバーソックスで三十回履く。
キツくても我慢する

9ヶ月程度30回履けばコルクも沈み、縫い目も革も伸びてジャストなフィットになる!はずです。

うまくいったらまた報告します。

ー追記以上ー

革の性質に関しては「べじたん」さんのブログが詳しいです。お勧めします。



出典1 リブテープとウェルトによるグッドイヤーウエルテッド製法の特徴


出典2 水分、油分による皮革性質の変化


出典3 温度による皮革性質の変化
「皮革の特性」(社)日本皮革産業連合会 今井 哲夫


出典4 皮革内の水分、油分量

出典 5 革の呼吸、通気性について



参考
革の基礎知識
科学的に革を試験してみよう
なぜ雨の日に使わないほうがいいのか?など




以上