放送事故というものは、故意的なものもあれば、不可抗力的なものもある。日本においてラジオの放送が始まって80年超、テレビは60年近くになるが、これまでにいろいろな放送事故が起き、場合によっては当事者やその上司までが処分される事態も起きた。今回は30年程前に静岡放送(SBS)で発生した放送事故について書きたい。

この日は日曜日、さらに翌日が建国記念日という事もあって、世の中は連休ムードであった。SBSテレビは現在でも系列他局が放送しているフィラー番組の「JNNニュースバード」を流さずに平日は午前3時台、日曜日は午前2時台に放送を終わらせている(もちろん、ラジオは日曜を除いて24時間放送である)が、一昔前は放送終了時刻はさらに早い時間で午前117分に放送終了となる。当然ながら送信スイッチは翌朝(と言っても、日付は変わっているが)まで切られており、そんな中をこの日宿直であったアラフォーの放送実施局運行部の男性技術職の社員がこれ幸いにと、良からぬ事を企んでいた。

この技術職のオッサン、外国製の特上とも言えるブルーフィルム、今ならさしずめアダルトビデオというものをしかるべきところから手に入れたという。しかし、このオッサンのところにはビデオデッキがなかったのか、それとも家族の目があるから家で見るのが難しかったのかどうかは知らないが、「ならば、局内でポルノ映画を鑑賞しよう」と宿直の日に秘蔵フィルムをSBSに持ち込み、機械室のモニターで再生する事を思い付く。

いよいよその日、技術職のオッサンはカバンの中にフィルムを忍ばせ、夜が更けてほとんど誰もいなくなった局内でお楽しみのフィルムをセットして再生した。ところが、再生したのは良いが鮮明な画像が得られないために、オッサンは「どうにかできないか?」とばかりに主調整室をうろついていたところ、はずみで地震などの緊急時に放映するスイッチに触れてしまったからたまらない。鮮明ではなかったものの、「あはーん、いやん、ばかーん、うふーん(外国のフィルムなので、そんな事は言わないが)」などという声と共に男女が上に下に「夜中のプロレス」をやっている映像が駿河から遠江、伊豆の全域に加え、三河や信濃の一部にまで流れてしまい、たまたまSBSにチャンネルを合わせた主婦(放送終了後の砂嵐を見ていたのではなく、まだ放送をやっていた他の局からチャンネルを変えたら、とんでもない映像が飛び込んできたのであろう)はすぐさま局に問い合わせの電話をした。慌てたこの技術職のオッサンは証拠隠滅とばかりにフィルムを焼いたが、その衝撃がよほどに大きかったのか、精神的に乱れた状態となってしまう。

当然、この1件は局のえらいさんの知るところとなって、技術職のオッサンは自宅謹慎処分となるが、話はこれで終わらない。その月の末になって、この件が白日の下にさらされる事となり、技術職のオッサンは懲戒免職処分、また当時の社長以下常勤役員の面々は3ヵ月の間、それぞれの収入を10分の1減らされ、直属の上司である運行部長は監督不行届という事で1ヵ月の停職処分を喰らう。技術職のオッサンの行為は故意ではないので白州に引っ張られる事はなかったが、そうでなくとも職場の備品を使っていかがわしいものを見るという行為は、到底許されたものではない。

 現在ならば、上記の処分に加えてさらに検証番組の放送や民間放送連盟のきついおしかりなどその波紋は広がった事と思うが、それにしても現在は60代後半になるあの技術職のオッサン、今の時期になるとこの若かりし頃の失敗を相当悔いている事であろう。ちょっとしたスケベ心が、結果的に放送史に残る大騒動を引き起こした今回の話であった。