スコットランドにある蒸溜所の地域区分は、島嶼部にあるものをアイランドモルトとしてカテゴリー分けするのが近年では一般的です。

立地的には最北にあるハイランドパークと、最南にあるアランとでは、緯度も大きく違いますが、海洋性の汐っぽい酒質にどこか共通点があるからでしょうか。

その中でもマル島にあるのがトバモリー蒸溜所で、創業は1798年とかなり古いですが休止期間が長く、稼働していた時期は限られていたようです。

現在のオーナーであるバーンスチュワートが1993年に蒸溜所を買収し、それ以降設備は徐々に刷新され、さほど多くはないですが安定して生産されているようです。

そしてアンピーテッドで仕込みを行うものをトバモリー、ピーテッドで仕込まれたものをレダイグ、と呼ぶように区分されていきます。

特に最近では、若いヴィンテージのレダイグは、アイラモルトが高騰しているためか、ポストアイラとしてシグナトリーなどのボトラーからボトリングされている事が多くなっています。

個人的にはアイラモルトと比べると似て非なるものという印象で、アイラに寄せるよりはトバモリーや1972のあまりピーティーではないレダイグのような、個性を持ったウイスキーを出してほしいと思っていました。

そんなところに登場したのがこのレダイグで、有楽町のキャンベルタウンロッホさんと、茨城は神栖にあるbar、アイランズさんのジョイントで詰められた1994ヴィンテージ。

バーン・スチュワートが買収した直後の仕込みで、まだ手探りの状態であったであろう時期に蒸溜された原酒で、供給元はゴードン&マクファイルです。

1994年9月23日蒸溜、2017年10月ボトリングの23年熟成、カスクNo.9のリフィルアメリカンホグスヘッドから248本ボトリングされており、アルコール度数は52.5%です。

キャンベルタウンロッホは今年19周年を迎える言わずと知れた名店で、中村信之さん、藤田純子さんの二人の目利きと見識、ウイスキー愛に溢れたお話が聞ける素晴らしいbarです。

また、神栖アイランズのオーナー、安藤勇樹さんはたまにbarでご一緒しますが、私が見たブラインドではかなりの高確率で当てられている、ウイスキーへの造詣の深い素晴らしいバーテンダーさんです。

スコットランドにもよく足を運ばれていますし、
アイランズさんでウイスキーを覚えたという方には素敵な飲み手が多く、人柄的にも敬愛するバーテンダーさんの一人です。

先行して有楽町で開栓されて飲んでいましたが、信濃屋さんから5月25日発売という情報が来たため、テイスティングを解禁したいと思います。


【テイスティング】
ミルクキャラメル、岩塩、ライムの皮、絵の具を溶いたパレットの水、柔らかいピートスモーク。
ナッツの皮、湯煎したバター、オレンジ様の柑橘のワタ、ミルクチョコレート、ブラックペッパーの効いたスパイシーな余韻。

アードベッグを彷彿させる溶剤感と、タリスカーを彷彿させるペッパリーさがあり、近年よく出るピートが強いタイプとは違うレダイグ。
どちらかというとクラシカルなトバモリーという印象。

ヘビーピートの短熟でガツンと来るタイプではなく、派手さはないですが西ハイランドらしいウイスキーで、私がブラインドで飲んだらタリスカーと答えそうな味わいでした。

ちなみに、信濃屋さんの案内文にはこう書かれていました。
 
『有楽町の名店キャンベルタウンロッホ 中村氏と茨城アイランズ安藤氏の間で厳選された1樽、トロピカルフルーツ、柑橘から麦芽の甘い香り、キウイフルーツやバナナのフレーバーに続いてライムの皮。
現行のレダイグでは感じる事の出来ないフルーツフレーバー』

トロピカルフルーツは、オレンジ様の柑橘のワタと同じフレーバーを指すのだと思いますが、個人的には全面的にフルーティー、というタイプではない気がします。

しかし、ライムやキウイというグリーンのフルーツ感、麦芽が転じたドライな白ワイン感も楽しめるいいウイスキーでした。

貴重な再稼働後のレダイグで、マクファイルのリフィルらしいでしゃばらない樽感によって、その酒質を味わえるボトル。
飲まないうちから争奪戦にならず、飲んで気に入った人が買うタイプのレダイグです。

さすがに見識のあるバーテンダーさんがボトリングするだけあって、その日お勧めするいくつかのウイスキーの一つとして、味わいにバリエーションをつけられる巧いボトルでした。


【Verygood!】