なぜ艦船は女性形なのか | 太平洋戦争史と心霊世界

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重巡「足柄」 



 「姉妹艦」(Sister Ship)とは、戦艦「大和」と「武蔵」に代表されるような、同型の艦船のことを言います。

 

艦船はよく女性形に例えられますが何故なのでしょうか。英語でも会話を聞くと、潜水艦も含め戦艦などのいかつい軍艦でさえ「彼女は・・・」(She is・・・)と、艦があたかも女性のようにみなされています。

 

 現在は日本でも艦は女性形のようですが、古来の日本では、船は男性とみなされていたらしいです。それは船名の最後に「丸」と付けることから推測できます。太平洋戦争中にも潜水母艦「平安丸」や、病院船「氷川丸」など、「丸」の付いた艦船が活躍しました。


病院船「氷川丸」 

病院船「氷川丸」



男性には「牛若丸」「日吉丸」など丸を付けた名前がありますが、女性に「XX丸」という名前は付けません。また「丸」は平安時代の貴族名、「麻呂」から転訛した言葉だそうで、語源はやはり男性名から来ています。

 

「船は男性」という見方が変わったのは、幕末~明治に入ってからではないでしょうか。ことに日本海軍では、英国海軍からシステムを導入したので英語文化が流入し、英語と共に「艦船は女性形」という見方が一般に定着したのかもしれません。

 

その証拠に、フランス語、スペイン語、ドイツ語などでは、艦船に女性形はほとんどありません。

 

ここで解説をすると、ヨーロッパ系言語の名詞は形態が男性名詞・女性名詞、またはドイツ語のように中性名詞まで存在する言葉がほとんどです。かえって英語のように、名詞に男・女の区別が無い言語の方が特殊です。

 

男性名詞・女性名詞は日本語の男言葉・女言葉とはまた違います。英語で言う冠詞(a, an, the)が、男女2種類に区別された冠詞に分かれているということです。仏・西・独語で船の名詞を2語ずつ例として挙げます。


●フランス語(名詞には男性・女性がある)

⇒「船」は男性

 

Un Bateauunは男性名詞なので男性)男

Un Navireunは男性名詞なので男性)男

 

●スペイン語(名詞には男性・女性がある)

⇒「船」は男性・女性まちまち

 

Un Buqueunは男性名詞なので男性)男

Una Naveunaは女性名詞なので女性)女

 

●ドイツ語(名詞には男性・女性・中性がある)

⇒「船」は中性

 

Ein Schiffeinは中性名詞なので中性)中性

Ein Booteinは中性名詞なので中性)中性

 

 ちなみにドイツで「Uボート」という映画がありますが、ドイツ語の原題は ”Das Boot” (英語でThe Boat)、つまり「ボート」(船)となっています。


 


 以上のようにスペイン語の一部以外で船は女性形ではありません。するとフランス語圏で、艦船は「彼女」ではなく「彼」と呼ばれます。

 

従って日本では英国海軍か、あるいは米国から英語が紹介された際に、「艦は女性」という観念も一緒に取り込み、定着したのではないかと思います。

 

なぜ艦船が英語で女性なのかは、諸説ありますがはっきりしないようです。多分英語のネイティブに訊いても、生まれた時から疑問に思わず使っているので、答えられないのではないでしょうか。

             

【付記】以下に英語で船が女性に例えられる理由を付け足しました。


1.waist(中部甲板・腰)とstay(支柱索・頼りにする男)とを持っている。

2.見栄えをよくするために多量のペイント(紅・白粉)をかけて、いつも飾り立てておかなくてはならない。

3.上半身はあらわにし、下半身は隠している。

4.周囲に男衆が付きまとっている。


(参考図書:佐波宣平「海の英語~イギリス海事用語根源~」成山堂書店