2010年05月03日 00時00分00秒

劇団四季のバレエと発声のレッスンをじっくり見学、舞台俳優の基礎はここから生まれる

巨大な倉庫群・「四季演劇資料センター」は舞台セットという「場」を作ることで劇団四季を支えていましたが、これから紹介する「あざみ野四季芸術センター」は主に舞台に立つ「人」である俳優の育成が主な役割。大きな建物の中にはたくさんの稽古場があり、多くの劇団員さんがレッスンに励んでいます。

今回は特別にバレエの上級者向けレッスンと、劇団四季の発声法訓練の2講義を見学させてもらいました。ベテラン・若手関係なく個人の実力にあったレッスンを受講するシステムになっていて、基礎を大切にする劇団の姿勢を反映したものとなっています。レッスンに真剣に取り組む俳優さんの醸し出す雰囲気には圧倒されるものがあり、日ごろの努力が舞台の上に如実に反映されるのだと実感できました。そんなレッスン風景を写真・ムービー合わせてお届けします。

まずはバレエのレッスンから見せてもらいました。稽古場にお邪魔した時には、受講者の方々はウォーミングアップの最中。

ほがらかな笑顔でひょいと片足を上げていますが、おいそれと真似できるものではありません。

レッスンが始まります。バーのそばに立ち、さまざまな振り付けを練習していきます。

指先までピンと神経が通っていることを感じさせるポーズ。

上下に体を動かしたりしてワンセットを終えると……

ぴたりと止まって一区切り。

そしてまた別の曲でもうワンセットが始まります。

先生は稽古場の中をぐるりと歩き、気をつけるべきことを注意して回ります。また、どのような点に気をつけるべきか説明しながら踊っていました。

お手本を真剣なまなざしで見つめながら、それをなぞるように踊っている劇団員も。

先生の「みんな、カメラ入ってるから気合い入れて、滞空時間長めで(笑)」という一言に、みなさん爆笑しながらばっちり応じてくれました。

音声をきちんと流せるように、どの稽古場にも音響設備は完備されているとのこと。たまたま今回のレッスンは生のピアノ伴奏で行われていたので、特にスピーカーなどは使われていませんでした。

天井にはしっかりと照明設備も整っていました。

浅利慶太代表が稽古に立ち会う時などに使われるといういす。

バーを使ったレッスンでは、異なる曲調・振り付けのセットを何度も行っていました。

さすが上級者レッスン、立ち姿や振る舞いが美しいです。

股割りもばっちり。

今度はバーを稽古場の後ろに寄せて、ホールを広く使ったレッスンが始まりました。

劇団四季・バーを使った上級者向けバレエレッスン - YouTube

自分の番ではない時も、脇によけて練習している人も見られました。こうした地道な積み重ねが舞台の上で生きてくるのかもしれません。

劇団四季・躍動感あふれる上級者向けバレエレッスン風景 - YouTube

軽快なピアノの旋律に乗せて、誰もがのびのびとレッスンに励んでいました。

劇団四季・つま先立ちと小刻みなステップが印象的なバレエレッスンの様子 - YouTube

レッスン後は自分たちでモップがけをするなど後片付けをして、次に使う人たちのためにキレイにしておきます。

次に見せてもらうのは開口発声訓練。舞台でセリフをはっきり言うための方法を身につけるレッスンです。

まずはごろんと横になって、あくびのように声を出します。

あくびをした状態で、喉が十分開いているかどうかを確かめているところです。

劇団四季の開口・発声訓練 喉が開いているか確認 -YouTube

先生の指示のもと、リズムを取って声を出す訓練をしていきます。

寝転んで声を出すというのはしっかりお腹を使わないと難しいもの。ムービーでは発声する度に上下する腹部がはっきり分かります。みなさんお腹を十分に使っているかどうか確かめながら行っています。

劇団四季の開口・発声訓練 お腹をしっかり使う - YouTube

先ほどバレエのレッスンを受けていた人も散見されました。写真中央、CATSのボンバルリーナ役などを演じてきた西村麗子さんに少しお話をうかがったところ、この練習は四季の演技の根幹となる独自の訓練なので、基礎がまず第一と考える四季では欠かせないものになっているのだとか。

立ってバーに手を突き、母音を繰り返し発声します。

劇団四季の開口・発声訓練 バーに手をつき母音を繰り返す - YouTube

バーではなく、壁に手を突いて発声している人もいました。体を何かで支えることで、お腹をより意識することができるそうです。

最後に、歌を母音だけで歌う訓練が行われました。ムービーでは母音のみの部分を収録しましたが、この後これに子音を乗せ、普通の歌の状態で歌って終わりとなりました。

劇団四季・母音法訓練 母音だけで歌う - YouTube

レッスンが終了すると、その場の人たちが協力してバーを持ち上げ、稽古場の隅に寄せていました。

開口発声法の先生を務めていた前田貞一郎さんに、劇団四季の稽古について、お話をうかがいました。最近の役柄では、「アイーダ」のファラオ役や「ウィキッド」のディラモンド教授役などを演じられています。

GIGAZINE(以下、G):
先ほど指導されていた発声の練習なのですが、一連の流れが一般的な演劇の発声法と異なるような印象を受けたのですが、この練習の特色などを教えてください。

前田貞一郎さん(以下、前):
四季では呼吸法と母音法、そしてフレージングという明確な方法論を持っています。そのうち、今やったのは開口発声の呼吸法の時間と呼んでいるもので、呼吸法と母音法について主に訓練しています。

とにかくこの劇団では、音を明確に、もっと上を目指して明晰(めいせき)に伝えるというのを俳優の仕事としていますので、日本語の構造をしっかり把握した上で、はっきりと読み上げることが求められます。浅利先生(劇団四季代表)にいつも教えていただいているのですが、日本語というのは母音によって形作られていて、子音は口の形に過ぎないんです。そのため、先ほど見ていただいたように母音を中心に「あいうえお」をしっかり形として把握できるかどうかというのを毎日毎日訓練して、セリフに結びつけられるようにしています。セリフも母音だけで練習したりしています。

もう1つの呼吸法というのは習得するのに時間がかかるんですけれども、母音と呼吸を連動させるもので。呼吸は普通の人よりも腹式呼吸を使って大きな声を出さなくてはいけないというのがあります。腹背筋を使って、1つの流れの中で長くセリフを言えるよう鍛えていきます。そのためにはとにかく大きく息を取れるよう訓練していくのです。

G:
演劇経験者に話を聞いたところ、大学演劇の練習では長音(どれだけ息継ぎなしで声を伸ばせるか)に重きを置いていたらしいのですが、ほかの練習のパターンにはどのようなものがあるのでしょうか。

前:
今のお話の中でもあったロングブレスだとか、あるいはずっと息を吐き続けて腹背筋を自然と鍛えていくような練習をいつもしています。母音と呼吸がいつもうまくかみ合いながら練習できるシステムになっています。

G:
トレーニングのコーチは俳優さんたちがやっていると聞いて驚いたのですが、このような役割は立候補制なのでしょうか、それとも当番制で持ち回りでやっているのでしょうか。

前:
一番最初、新入生には浅利先生が教えるんです。僕たちもそういう風にして学びつつ、経験を重ねながらいろいろと先輩たちの意見を聞いて、一つの共通認識をみんなが持っているんです。その共通認識を、俳優同士で自分の勉強も兼ねながら持ち回りで教えています。「教える」ということもまた勉強にもなるので、特にキャリアにかかわらず、共通認識を持っている俳優の中で回していくという感じですね。

G:
平均的な1週間の稽古のスケジュールを教えて下さい。

前:
午前はバレエレッスンやジャズレッスンがあり、その後に先ほどご覧いただいた開口発声の訓練をします。午後はそれぞれの演目の稽古に入ります。時間はそれぞれの演目によって違いますが、大体17時くらいまで全体の練習をして、そこから個人の練習で課題をクリアして次の日に臨む、といった感じです。

G:
個人練習というのは結構遅くまで残って練習するものなのですか?

前:
もうエンドレスですね。特に、近くに住む人間は。自分の課題がクリアできるまでは帰りません。

G:
休みはどのように取っているのでしょうか。

前:
基本的には休みというのはあまりないですね。公演中は、土日は当然舞台がありますし、月曜はこのあざみ野の稽古場でレッスンということで。基本的に休みという観念がなかなかできなくて……。

G:リフレッシュの方法は?

前:
十人十色だとは思いますが、僕はほかの演劇を観に行ったり、映画を観たり、そういうのばっかりですね(笑)大きく時間が取れないので、海外旅行などは難しいですね。エジプトの演目(アイーダ)をやっているからエジプトに行きたい、とかそういう気持ちはあるんですが、実際にはなかなか難しいので、想像の世界、つまり映画なんかで補っています。

G:
出演している演目によって、トレーニングの内容は変化するんでしょうか?

前:
開口発声訓練を見ていただけるとお分かりかと思うんのですが、これがベースになってどの演目にも生きてくるんですね。全てはこの方法論を基に、各自で芝居に向き合っていきます。台本の中のセリフをどう理解していくのかという部分を深めていくということでしょうね。四季ではすべてのレッスンが無料で、誰もが自由に参加できます。とても恵まれた環境にいると感じますね。

G:
体作りのために心がけて摂取しているものなどありますか?

前:
僕は体が要求するものが必要なものなのかな、と思って、その時食べたいものを食べるようにしています。あまりカロリーなどを計算したりはしていないんですが、女性の中にはカロリー計算をしながら健康にいいものを食べたり、あるいは21時以降は食べないなどして太らないようにするとか、筋肉にいいものを取ったりとか、本当に人それぞれですね。

G:ロングラン公演を乗り切るだけの体力を持っている前田さんから、一般の人でも取り入れられるようなことがあればお教えください。

前:
まずはケガをしないことが基本です。病気をしないためには睡眠と栄養とよく言いますが、稽古に集中していると睡眠は忘れるということもありますから、その分栄養をちゃんと取るということですね。あと、大切なのは気持ちを常に前向きに持っていることです。

G:
GIGAZINE読者へのメッセージをお願いします。

前:
演劇を見たことがないという方は、ぜひ一度足を運んでいただきたいな、と思います。映画など他のメディアとは違い、俳優とお客様が同じ時間を共有できることは演劇の醍醐味かもしれません。私たち俳優も、日々同じ舞台に立っていますが、同じことは何一つもなく、常に新鮮です。ぜひ劇場で感動の時間を過ごしていただきたいと思います。

G:
ありがとうございました。

インタビュー中ずっと、新しく配役された後輩に、過去にその役を演じたことのある先輩が指導をつけていました。前田さんの言っていた「共通認識」というのはこういうところから広がっていくものなのかもしれません。

レッスンを見せてもらった後、施設内部もぐるりと一周させてもらいました。

・つづき
劇団四季の創作の拠点とも言える稽古場、「四季芸術センター」見学レポート~前編~ - GIGAZINE

 

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2024年04月19日 12時13分01秒 in 取材 Posted by darkhorse_log

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