脳に電流を流してハッキングしようとする人が急増中、科学者が警鐘をならす

科学技術とインターネットの発展により、現代では電子機器を自分でDIYしたり、さまざまな最先端の研究結果をPCからチェックしたりすることが可能です。そんな時代だからこそ現れた、脳に電流を流すヘッドギアを自作して最先端の脳科学実験のまね事を行う人々に対して、科学者たちが警鐘をならしています。

Scientists: don’t zap your brain with a DIY brain stimulator you built from a 9-volt battery - Vox
http://www.vox.com/2016/7/13/12160136/tdcs-warning

頭に弱い直流電流を流すことで脳神経を刺激する「tDCS(経頭蓋直流刺激)」という手法は、目覚まし効果や認知能力の向上、他にも記憶力や学習能力の向上、うつ病などの症状の緩和にもつながると言われています。この「脳に電流を流す」というアイデアを応用した機器は市場に数多く出回っており、ゲーマー用のヘッドセット「foc.us」や、明晰夢を見られるように誘導してくれるヘッドバンド「LUCI」など、その種類はさまざまです。tDCSおよびそれにより得られる効果に着目する人は多く、さらに比較的簡単に脳に電流を流すヘッドセットを購入できることから、「DCSを自作して自分の脳で実験を繰り返す」という恐るべきチャレンジャーがインターネット上で増加中です。

DIYで自分の脳をハッキングして脳のパフォーマンスを上げる試み - GIGAZINE

実際、自宅でtDCSを作成・実験する人も多く、その過程および感想はYouTubeやReddit上などで多数公開されています。そして、こういったムービーなどが次なる無謀なチャレンジャーを生み出す温床となっているのは明らかです。

I Zapped My Brian With tDCS and LIVED! - YouTube

しかし多くの場合、このような人々は電子工具店で購入した安物のパーツを使用してtDCSを自作しているとのこと。また、tDCSを使った無謀な実験は、被験者となる人々がtDCSや脳神経に関する深い知識を持たないまま行っている場合がほとんどで、こういった状況を多くの研究家たちが懸念しています。

Annals of Neurologyという科学誌の中で、tDCSの効果について研究を進めている39人の科学者は、「皮膚のやけどや電気機器の故障により引き起こされる合併症などいくつかの危険性がよく知られていますが、他にどのような問題が起きるのかはまだハッキリとしていません」と述べ、tDCSを用いた脳への干渉にはまだまだ未知の部分が多く存在するとしています。

tDCSを用いた初期の研究結果はサンプル数が少なく、結果となる「tDCSの効果」を誇張しがちなものが多くありました。しかし、研究者の中にはtDCSが脳にまったく影響を与えていない、と主張する人もいます。また、そういった人々は「tDCSが無意味なもの」と主張しているわけではなく、「tDCSを駆使した実験をサポートするのに十分な科学力が足りていない」と主張しているそうです。具体的にどのような部分が欠けているのかをハーバード大学の脳刺激研究者であるマイケル・フォックス氏が指摘しており、欠けているのは大まかに分けると以下の5つだそうです。

1：電気が脳にどのように作用するのかや、どれくらい深く影響するのかについて未知である
2：脳への電気刺激による影響は、被験者となる人の脳の活動に大きく依存しているため
3：ある脳機能を強化することで、別の脳機能が傷つけられる可能性がある
4：独自にtDCSを駆使した実験を行う人々が、脳により強い刺激を与えるようになることが懸念されている。また、強い刺激が強い効果を生むとは限らない
5：まだよく理解されていないものの、tDCSによる効果の差には個体差がある

フォックス氏が挙げる5つのポイントは、「tDCSを使って独自に脳のハッキングを繰り返す人々」がよく知っておくべき重要なポイントです。研究結果として報告されているような効果が必ず現れるわけではなく、ほとんど共通点がみられないことも珍しくはありません。もちろん、tDCSが認知力や学習能力を向上させる可能性は大いにあるわけですが、現在の科学の力ではそれらを完全に証明することはできていません。