2019年03月19日 11時47分00秒

「人間は地球の磁場を感じ取ることができる」という証拠を研究者が発見

by Pezibear

地磁気とは地球内部のコアによって発生している磁場のことであり、南極側がN極、北極側がS極となっています。いくつかの動物は地磁気を感知して利用することが知られていましたが、これまでのところ人間が磁場を感知できるのかどうかは明らかになっていませんでした。カリフォルニア工科大学の生物学・生物工学部教授である下條信輔氏らの研究チームは、人間の脳波を観察しながら磁場を変化させる実験を行い、「人間が磁場を感じ取ることができる」という証拠を発見したと発表しました。

Transduction of the Geomagnetic Field as Evidenced from Alpha-band Activity in the Human Brain | eNeuro
http://www.eneuro.org/content/early/2019/03/18/ENEURO.0483-18.2019

New evidence for a human magnetic sense that lets your brain detect the Earth’s magnetic field
https://theconversation.com/new-evidence-for-a-human-magnetic-sense-that-lets-your-brain-detect-the-earths-magnetic-field-113536

Scientists Find Evidence That Your Brain Can Sense Earth’s Magnetic Field
https://www.livescience.com/65018-human-brain-senses-magnetic-field.html

コンパスのN極が北を向くのは地磁気の働きによるものですが、地磁気は地球の表面においてはかなり弱く、せいぜい冷蔵庫に貼り付くマグネットの100分の1程度の磁力しかありません。しかし、地球には磁場を感じ取り、ナビゲーションに役立てている動物も存在します。たとえば渡り鳥やウミガメといった動物は、地球の磁場を利用して方角や場所を判断しています。

鳥は「目」で地球の磁場を見て方角を判断している可能性が高い - GIGAZINE

アカウミガメは自分が生まれた浜辺と似た「磁場」を持つ浜辺を産卵場所に選ぶ - GIGAZINE

その一方で、人間が磁場を感知できるのかどうかという疑問には、長年にわたって答えが出ていませんでした。人間が磁場を感知できるという説に好意的な研究結果もあれば否定的な結果もあり、何十年にもわたって意見の一致を見なかったとのこと。

長らく人間の磁場感知能力について確かな意見が出なかったのは、過去の研究の多くが「日常的な人間の感覚」に頼っていたからだと研究チームは考えています。ほぼ全ての人間は日常生活において磁場を意識することはなく、たとえ磁場が日常生活に影響を及ぼしていたとしても、それは無意識的か非常にかすかなものにとどまります。そこで、生物学者や認知神経学者などを含んだ下條氏らの研究チームは別のアプローチを取り、神経科学的な証拠を発見しようと試みました。

研究チームは成人した34人の被験者に導体で囲まれた特殊なファラデーケージに座って目を閉じてもらい、被験者の脳波を観察しました。ファラデーケージはワイヤーに電流を通すことで制御された磁場を発生させることが可能な造りとなっており、研究チームはケージ内の磁場を自由に操ることができたとのこと。ファラデーケージに特殊な磁場を発生させていない状態では、実験が行われた場所である北緯60度の位置に等しい磁場がケージ内にかかっていたそうです。

通常、人々の日常生活で頭をくるりと回したり、前後の向きを入れ替えたりすると、脳に対して磁場の方向が相対的に変化します。まずは研究チームが暗闇のケージ内にいる被験者に頭をゆっくり回すように指示すると、相対的な磁場の方向が変化したにもかかわらず、脳波に変化はありませんでした。

次に、被験者をケージ内にじっと座らせたままで、磁場だけを変化させました。同様の磁場の変化は被験者が座った椅子を回したり、乗り物に乗った状態で回転したりすることで得られますが、この場合は被験者自身に「今、自分は回っているな」という感覚があります。今回の実験ではそのような身体的感覚を植えつけることなく、暗闇の中で座ったまま、磁場だけを変化させました。

この結果、34人の被験者らは全員、磁場が変化しても特に何も感じませんでした。しかし、脳のアルファ波を観察したところ、4人の被験者は磁場が変化した際に大きなアルファ波の減少を見せたとのこと。人が起きた状態で安静にしている際に多く観察されるアルファ波は、強い感覚刺激を受けた際に減少することが知られており、今回観察されたアルファ波の減少も、強力な外部刺激を受けた際のパターンと合致したそうです。
by Karoly Czifra

参加者がアルファ波の減少を見せたのは、垂直方向の磁場が実験場所のある北緯60度の自然な磁場と合致する際に限られていました。つまり、人々がその場で横を向いたり、体の前後を入れ替えたりするのと同様の磁場変化にのみ、アルファ波の減少が確認できたとのこと。不自然な方向の磁場変化にはアルファ波が反応しなかったそうで、人間の磁場感知システムが、自然環境に適合して形作られていることが示されています。

ほかの動物においても「不自然な磁場変化」をフィルタリングして、ナビゲーション等に反映させないケースが知られています。落雷などの自然現象や地理的条件による異常な磁場発生といった要素は、方角のナビゲーションにおいて有害であり、このような不自然な磁場変化を除外することは理にかなっています。ヨーロッパコマドリについての研究では、感知する磁場が通常よりも25%以上強くなると、ヨーロッパコマドリは磁場を方角のナビゲーションに使用するのを止めることが判明しているそうです。

34人中4人にだけ磁場感知能力があることが示唆された点について、研究チームは予想されたものだったとしています。全ての人が芸術や数学に秀でているわけではないのと同様に、磁場の感知能力にも個人差があるのはおかしな話ではないとのこと。研究に携わったカリフォルニア工科大学のConnie Wang氏は、人間の磁場感知能力は過去に進化した能力の名残ではないかと述べました。
by simon_music

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