焦点:米シティの日本の個人部門売却、買い手不在の懸念

焦点:米シティの日本の個人部門売却、買い手不在の懸念
 8月20日、米シティグループが傘下のシティバンク銀行の日本における個人向け業務部門の売却に向け、三菱UFJフィナンシャル・グループなど、3メガ銀グループなどに打診を始めた。写真はシティのロゴ。都内で2009年2月撮影(2014年 ロイター/Yuriko Nakao)
[東京 20日 ロイター] - 米金融大手シティグループが傘下のシティバンク銀行の日本における個人向け業務部門の売却に向け、三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306.T>など、3メガ銀グループなどに打診を始めた。
預金量4兆円弱という地銀中堅規模に匹敵する買収案件だけに銀行界の注目度は高いが、実質赤字事業という足かせが買い手をためらわせるのではないかと懸念する声も出ている。
<金融庁からも黒字転換求められたシティ>
「黒字転換の見通しはいかがか」――。今年春先、シティバンク銀行に検査に入った金融庁検査局は、個人向け業務部門の収益状況について、こう指摘した。
2000年代に入ってからマネーロンダリング対策の不備や不適切な投信販売などで3度の行政処分を受けたシティ。「収益が低迷すると、無理な営業に傾斜しがちになる。適正な利潤を上げてほしい」というのが、金融庁の指摘の背景にある。
コンプライアンス体制の再構築を求めた金融庁に応じるかたちで、シティは2012年、三菱UFJやみずほフィナンシャルグループ<8411.T>、三井住友フィナンシャルグループ<8316.T>の3メガから経営陣を招き、「コンプライアンス(法令順守)体制の改善は一定程度進んだ」(同庁幹部)との評価を得た。ただ、一方で難しかったのが、人件費などの経費削減。「コストコントロールがうまく行かず赤字体質からの脱却が進まなかった」(同)という。
シティは今年6月、三井住友銀専務からシティバンク銀行社長に転じた城野和也氏を事実上更迭すると同時に、個人業務部門の切り離し策に傾いたとみられる。
<運用難で赤字の一方、ドル預金約2兆円の魅力>
シティの預金量は今年3月末で約3兆6000億円。一方の貸出金残高は3500億円、有価証券残高は7800億円。法人取引は、国内のトップ企業数百社に留まり、低迷する金利環境下で「構造的な運用難に陥っていた」(関係者)という。さらに、33カ所の個人向け拠点が重荷になり、「経費を収益で賄える状況ではなかった」(証券会社金融法人担当)との指摘も出ている。
メガバンク関係者によると、シティが事業部門の売却打診に動き始めたのは今週に入ってから。預金のうち約2兆円がドル預金で、「外貨調達が課題の邦銀にとってメリット」と話す大手行幹部もいる。ただ、シティの個人顧客にしてみると、同銀が持つグローバルなネットワークが魅力の一つ。「邦銀に買収された後で、顧客がそのまま残るかどうかは疑問」(別の大手行幹部)との声もある。
金融当局の中にも、「赤字のリテール事業を金を払って買ってくる銀行が出てくるかどうか。シティとの提携など、『持参金』を付けないと引き受け手は現れないかもしれない」との懸念も出ている。

布施太郎 編集:宮崎大

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