コラム:政府は対コロナ「大戦略」策定を、経済再開へ手順示せ

コラム:政府は対コロナ「大戦略」策定を、経済再開へ手順示せ
4月24日、米欧諸国では、新型コロナウイルスの感染がピークアウトした後を見据え、経済活動の再開に向けた条件整備の検討が始まった。都内で19日撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
田巻一彦
[東京 24日 ロイター] - 米欧諸国では、新型コロナウイルスの感染がピークアウトした後を見据え、経済活動の再開に向けた条件整備の検討が始まった。ところが、日本では大型連休中の「自粛」要請ばかりが目立ち、その先の展開について何ら情報が出てこない。政府は対コロナの大戦略を打ち立て、国民に対して将来の光明があることを示すべきだ。
具体的には、PCR検査の実施規模を飛躍的に拡大させ、市中感染率を正確に把握し、その結果に基づいて具体的な規制プランを作成。同時に抗体検査も実施し、抗体を持っている人の割合を測定して、コロナ危機の継続期間を推定するべきだ。そうしたデータを基に、いつごろからどんな分野の業務が再開できるのか、という「ロードマップ」を作成して、多くの人が先々の生活の姿を予想できるようにしてほしい。それが国民の生命と財産を守る政府の果たすべき役割だと強調したい。
<我慢ウイークだけでは、不安感加速>
今年の大型連休(ゴールデンウイーク)は「我慢ウイーク」とも言われている。ステイホームで「ヒトヒト感染」の可能性を下げる狙いが政府や自治体にあり「この2週間が死活的に重要」(小池百合子東京都知事)という発言も出ている。
しかし、5月6日に緊急事態宣言が解除されるとみている感染症の専門家は少数派のようで、国民の中には「どこまで続くのか」というムードがあるのも事実だ。
「日銭」商売の人たちにとっては、自粛がどこまで継続するのかはまさに「死活問題」だが、政策を担当する当局からは、何らヒントが出てこない。これでは、国内の「士気」が低下するばかりで、生活の不安感が強まる一方だ。
<経済再起動プログラムの作成>
今こそ、政府に求められるのは、科学的根拠に基づいて今後の展開を時系列で示す「工程表」であり、それを支える「大戦略」だ。
米国や欧州各国では、感染拡大のペースが鈍化したころ合いを見計らって、どのように経済を再開させるのかという問題で、議論が活発化している。米国ではすでにトランプ大統領が3段階の経済再開プランを提示している。
1年単位でビジネスを凍結した場合、各国政府の財政で休業補償を実行して生活を支えることが、どこかの段階でできなくなるという危機感があるからだろう。
そこで日本でも、感染者数やその他のデータを駆使し、感染拡大のピークアウトが確認された段階で、経済活動を再開する「経済再起動プログラム」を作成するべきだ。
<PCR・抗体検査の拡大、現状把握に必須>
その前段として、PCR検査の大幅な拡大が不可欠だ。現状では、検査数が少な過ぎ、「市中感染」の実態が全く分からない。厚生労働省が毎日、まとめている感染者数に一喜一憂しても、市中感染率の上下とは、ほとんど無関係だろう。
そのことを示すデータが、慶應義塾大学病院でのPCR検査で明らかになった。複数の国内メディアによると、今月13─19日に手術前や入院前の患者67人を対象にPCR検査を実施した結果、4人が陽性で陽性率は5.9%だった。
対象者が少ないので、東京都内の感染率を直ちに推し量ることはできないが、感染率がこの数字と同じであれば、東京都内だけで80万人以上の感染者が存在することになる。
市中感染率の実態に迫ることが、まず、政府の実行する第1の命題である。
次に抗体検査も実施し、すでに抗体を持っている人がどの程度の割合で存在しているのかも確認する必要がある。ニューヨーク州で実施したところ、14%が抗体を持っていることが分かった。まだ、検査の精度に問題があり、新型コロナの特性が解明され尽くしいていないため、抗体保有者から「社会復帰」させるという組織的な対応の実現には時間がかかる。
しかし、社会全体でどの程度の割合が抗体を持っている可能性があるのかという概括的な情報は入手できる。その結果、今回の「流行」の過程において、現在がどの段階にいるのか、終息というゴールは、どれくらい先にありそうなのか、ということはおぼろげながらも分かる。
<国民が知りたいビジネス再開のメド>
こうした情報を基礎に、仮に終息のゴールが2年先にあるとして、先に提案した「経済再起動プログラム」の中で、各自の業務やビジネスがどこに該当するかを当てはめれば、いつ頃活動を再開できるのか、ということが個人ベースで分かるようになる。
また、政府や各自治体が今後、支出する財政措置の規模の大枠も分かるようになり、そのための資金調達の規模や時期も、だんだん見えてくるだろう。
マーケットがこのようなデータを織り込んでいけば、暴落と暴騰を繰り返すような市場の乱高下も回避できる。
<現状継続が最悪の結果に>
ところが、現状のままなら、まるで「正反対」のことが起きる。8割の接触削減を継続しても、市中感染率が不明のままなので、効果的な対応ができず、感染者と死者数が増加。緊急事態宣言が全国レベルで発令されたまま、いつ解除されるか不明の状況が続く。
その間に資金力の乏しい零細な商店や企業から倒産が相次いで、失業者が急増。政府・与党は各階層からの不満を受け、小出しに経済対策を何回も繰り出すが、状況は変わらず、財政赤字だけが膨張する──という最悪のケースも想定される。
実は、このシナリオにはさらに先があり、欧米諸国は感染者がピークアウトし、経済の回復も軌道に乗るが、日本は感染者が多いため、各国から入国規制を受け、国際的なビジネスで大きく出遅れる。気付いたら主要国の中で、企業の稼働率が最下位という事態に直面しているという展開だ。
5月6日の緊急事態宣言の期限までに、政府がこの先の道筋を明らかにするため、ここで示した政策対応を1つでも多く採用することを希望する。
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