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新型「フィット」 vs 新型「ヤリス」。価格から走りまで徹底比較

日本では、ボディサイズが小さな「コンパクトカー」の需要が高い。コンパクトカーは、日本国内において新車で販売されるクルマのおよそ25%を占めている。

2020年2月14日に発売される、ホンダ 新型「フィット」

2020年2月14日に発売される、ホンダ 新型「フィット」

そんなコンパクトカーの主力車種が、ホンダ「フィット」だ。フィットは2020年2月14日にフルモデルチェンジが図られ、走行性能から居住性の向上まで、魅力をさらに増して登場する。

新型フィットの発売日に近い、2020年2月10日に発売されるトヨタ 新型「ヤリス」。フィットとヤリスが、発売直後から激しいライバル争いを繰り広げることは間違いない

そして、そのライバルとなるのが、その直前の2020年2月10日に発売されるトヨタ「ヤリス」だ。新型ヤリスは、これまで日本で販売されていた「ヴィッツ」のフルモデルチェンジ版で、先代のヴィッツから大きく進化が図られている。

筆者は、新型フィットと新型ヤリスのどちらの車種(プロトタイプ)にもすでに試乗している。また、両車の価格についてもすでに判明している(新型フィットについては価格が公表されていないので、筆者の独自調査による)。そこで、今回は「新型フィット vs 新型ヤリス」と題して、この2車種をさまざまな角度で比較してみたい。まずは、2車種の価格から見てみよう。

■ホンダ 新型「フィット」の価格(販売店調べ)
-1.3Lガソリンエンジン(2WD)-
ベーシック:1,557,600円
ホーム:1,718,200円
ネス:1,877,700円
クロスター:1,938,200円
リュクス:1,977,800円

-1.5Lハイブリッド(2WD)-
ベーシック:1,997,600円
ホーム:2,068,000円
ネス:2,227,500円
クロスター:2,288,000円
リュクス:2,327,600円
※価格はすべて税込み

■トヨタ 新型「ヤリス」の価格(2WD/CVT)
-1.0Lガソリンエンジン-
X・Bパッケージ:1,395,000円
X:1,455,000円
G:1,613,000円

-1.5Lガソリンエンジン-
X:1,598,000円
G:1,756,000円
Z:1,926,000円

-1.5Lハイブリッド-
ハイブリッドX 1,998,000円
ハイブリッドG 2,130,000円
ハイブリッドZ 2,295,000円
※価格はすべて税込み

動力性能比較

新型フィットのパワートレーンには、1.3L直4ガソリンエンジンと新開発の1.5Lハイブリッドの2種類がラインアップされる。いっぽうの新型ヤリスは、すべて直列3気筒の1Lガソリンエンジン、1.5Lガソリンエンジン、1.5Lハイブリッドの3種類だ。

新型「フィット」1.3Lガソリンエンジン車の走行イメージ

新型「フィット」1.3Lガソリンエンジン車の走行イメージ

新型フィットが搭載している1.3Lガソリンエンジンの動力性能は、コンパクトカーでは平均水準のものだ。登坂路では少しパワー不足が感じられるが、性格は素直で扱いやすい。直列4気筒のため、エンジンノイズも抑えられている。

新型「ヤリス」1.5Lガソリンエンジン車の走行イメージ

新型「ヤリス」1.5Lガソリンエンジン車の走行イメージ

対する新型ヤリスのガソリンエンジンは、直列3気筒の1Lと1.5Lだ。試乗したプロトタイプは、主力エンジンの1.5Lだった。新型ヤリスの1.5Lガソリンエンジンは、排気量に余裕があって動力性能は新型フィットの1.3Lガソリンエンジンよりも高い。4,500rpm付近から吹け上がりが活発になり、エンジンを回す楽しさも味わえる。アクセルペダルを踏み込んだときのノイズは大きめで、3気筒特有の粗さも感じるものの、動力性能は新型フィットよりも高い。なお、新型ヤリスの1.5Lガソリンエンジンには、6速MT仕様も用意されている。

新型「フィット」1.5Lハイブリッド車の走行イメージ

新型「フィット」1.5Lハイブリッド車の走行イメージ

ハイブリッドは、新型フィットのほうがパワフルだ。エンジンは主に発電機を作動させて駆動はモーターが受け持つから、電気自動車と同様に加速は滑らかだ。アクセル操作に対する加減速の反応も、新型フィットは機敏に感じる。

新型フィットのハイブリッドは、エンジンが発電機の作動に使われるため、速度の増減に関係なく高効率な回転域を維持できる。そこが、ハイブリッドシステム「e:HEV」のメリットだが、アクセル操作とエンジン回転数が連動しないために、ドライバーには違和感が生じてしまう。そこで、新型フィットでは効率が下がらない範囲内において、アクセル操作とエンジン回転数を一致させる制御が採用されている。これも、新型フィットのハイブリッドがすぐれている点のひとつだ。

動力性能についての結論は、ガソリンエンジンは新型ヤリスの1.5L、ハイブリッドは新型フィットがすぐれている。

走行安定性比較

新型「ヤリス」は、プロトタイプ車をサーキットで試乗した際にも、走行安定性の高さが感じられた

新型「ヤリス」は、プロトタイプ車をサーキットで試乗した際にも、走行安定性の高さが感じられた

走行安定性は、両車とも先代に比べて大幅に進化している。搭載されるエンジンに基づく車重や装着タイヤなどによっても異なってくるが、走行安定性については全般的に新型ヤリスのほうが軽快だ。後輪の接地性が高く、車両の向きが機敏に変わるので峠道などでも曲がりやすい。対する新型フィットは落ち着いた印象で、ボディがひとまわり大きく感じる。走行安定性については、良し悪しというよりもクルマの性格の違いと言ったほうがいいかもしれない。

乗り心地比較

新型「フィット」には、15インチタイヤと16インチタイヤ装着車がラインアップされるが、16インチタイヤ装着車のほうが車体とのバランスのよさが感じられた

走行安定性と同様に、車重やタイヤによっても異なるが、乗り心地は両車とも先代に比べて粗さが抑えられて快適だ。特に、新型フィットの16インチタイヤ装着車は接地性が高く、タイヤが路上を細かく跳ねる感覚が抑えられており、重厚感がともなう。

新型「ヤリス」には、14インチ、15インチ、16インチと大きく3種類の装着タイヤがラインアップされる。新型ヤリスも、新型フィットと同様に16インチタイヤ装着車の印象がよく、14インチタイヤ装着車については乗り心地がいまひとつという印象を受けた

いっぽうの新型ヤリスも、ZとハイブリッドZにオプション設定されている16インチタイヤ装着車は乗り心地や走行安定性など走りのバランスがいい。だが、14インチタイヤについてはやや硬く感じた。指定空気圧は、16インチタイヤは前輪が220kPa、後輪は210kPaだが、14インチタイヤは転がり抵抗を抑えて燃費を向上させるため、前輪が250kPa、後輪が240kPaに跳ね上がっていることも影響している。

これは、どんなクルマにも当てはまる話なのだが、購入前にはできるだけ複数のタイヤを試乗したほうがいい。たとえば、新型ヤリスなら16インチタイヤ装着車を試乗して14インチタイヤ装着車を購入すると、乗り心地が違いすぎて後悔する心配が生じるからだ。

特に、コンパクトカーのベーシックグレードは、乗り心地を犠牲にして燃費数値を向上させる傾向が今でも残る。新型ヤリスのハイブリッドZに16インチタイヤを装着した場合、WLTCモード燃費は32.6km/Lだが、ハイブリッドXの14インチタイヤ装着車は36km/Lだ。コンパクトカーは、ほかのクラスに比べてグレードやタイヤの違いに基づく燃費数値と乗り心地の格差が大きい。そのため、試乗も慎重に行う必要があるだろう。

内装の質感と居住性比較

新型「ヤリス」のインパネ

新型「ヤリス」のインパネ

新型「フィット」のインパネ

新型「フィット」のインパネ

インパネ周りは、新型ヤリスのほうが質感は高く感じる。新型フィットも決して悪くはないのだが、ステアリングホイールを2本スポークとするなどシンプルに仕上げているので、デザイン面の個性が強く、グレードによっては安っぽく見えることがある。

新型「ヤリス」のインテリア

新型「ヤリス」のインテリア

新型「フィット」のインテリア

新型「フィット」のインテリア

居住性は、前席の座り心地は同程度だが、後席は新型フィットの圧勝だ。後席は、足元空間が大幅に異なる。身長170cmの大人4名が乗車した場合、新型ヤリスの後席に座った乗員の膝先空間は握りコブシひとつ少々だが、新型フィットは2つ半もの余裕がある。

ちなみに、先代のヴィッツは、同じ測り方で握りコブシ2つ分であった。新型ヤリスは、ヴィッツに比べて前後席の乗員間隔が37mm縮まり、後席の床と座面の間隔も32mm減ったから、腰が落ち込んで膝の持ち上がる座り方になった。ヴィッツから新型ヤリスに乗り替えたいというユーザーは、後席の居住性に注意したい。4名で乗車するなど、後席を多用するユーザーには新型フィットが適している。

乗降性は、前席は基本的に同等だが、新型ヤリスは運転席と助手席に「ターンチルト」機能がオプション設定されていることに注目したい。シートが外側に回転しながら、座面が下降することで乗り降りを助けてくれる。

後席の乗降性については、新型フィットのほうがすぐれている。新型ヤリスはルーフが下がり、足元空間も狭いのでやや乗り降りしにくい。

荷室の広さとシートアレンジの使いやすさ比較

新型「ヤリス」のラゲッジルーム

新型「ヤリス」のラゲッジルーム

新型「フィット」のラゲッジルーム

新型「フィット」のラゲッジルーム

ラゲッジルームは、新型フィットのほうが広い。新型フィットは、燃料タンクを前席の下側に搭載する「センタータンクレイアウト」を先代から引き続き採用しているので、荷室の床面を低くしてラゲッジルームへ多くの荷物を載せることができる。そのため、新型フィットの後席をたたむとボックス状の空間となって、背の高い物などを積み込むことも可能だ。新型ヤリスも荷室面積の不足はないのだが、リヤゲートを寝かせたこともあって、背の高い荷物がやや積みにくい。

取りまわし性・視界比較

新型「フィット」のフロントピラーは、奥を細くすることで斜め前方の視界を向上させている

新型「フィット」のフロントピラーは、奥を細くすることで斜め前方の視界を向上させている

ボディサイズは同程度だが、視界は新型フィットがすぐれている。フロントピラーを2本にして、手前側を太く、前方はフロントウィンドウの窓枠として細くデザインしているので、斜め前方の視界を遮りにくい。また、サイドウィンドウの下端も水平基調だから、斜め後方も見やすい。

新型ヤリスも前方視界はいいのだが、後方視界が悪い。サイドウィンドウの下端をうしろに向けて大きく持ち上げているからだ。後方視界は、車庫入れや縦列駐車のしやすさに加えて、安全性にも影響を与えるので注意したい。

価格比較

新型フィットと新型ヤリスは、ほぼ同時期に発売されるライバル同士だから、価格も拮抗している。ガソリンエンジンを搭載する買い得な主力グレードで見ると、フィット 1.3Lのホームグレードは1,718,200円、ヤリス 1.5LのGグレードは1,756,000円だ。ハイブリッドは、フィット ホームが2,068,000円、ヤリス Gは2,130,000円となる。

総合評価

ここまで解説したとおり、同サイズのコンパクトカーであっても新型フィットと新型ヤリスはかなり性格が異なる。新型フィットは後席や荷室が広く、実用重視のファミリーユーザーに適している。新型ヤリスは、外観デザインがスポーティーで、内装の質感も高い。いっぽう、後席や荷室は狭いので、おもに前席優先のパーソナルユースに適している。以前のヴィッツは、ファミリーユーザーもカバーできるフィットに似た性格だったが、新型ヤリスはドライバー優先となり、マツダ「MAZDA2」(旧デミオ)に近づいた。家族を乗せるなど、後席や荷室の利用が多いのならば新型フィットを、普段は2名乗車で運転の楽しさを求めたいなら新型ヤリスを選ぼう。

渡辺陽一郎
Writer
渡辺陽一郎
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車関連を担当。クルマ好きのため、週末はフラフラと1000km超を運転する長距離ドライバーと化します。
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