時には「放っておく力」も大事。これからのダイバーシティ&インクルージョンを考える

自分らしくありながら、活躍できる社会を目指して
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4月28日(土)からスタートする「東京レインボープライド2018」を控え、日本最大級のLGBTQ関連イベント「東京レインボープライド」を支えてきた共同代表の山縣真矢氏・杉山文野氏の両名と、ゲッティイメージズのアジア領域におけるダイバーシティ&インクルージョン推進リーダーとして活躍する島本が、日本国内における今後のLGBTQの社会進出や、ダイバーシティとインクルージョンの考え方について両者の立場からの視点でお送りします。

自分らしくありながら、活躍できる社会を目指して

島本久美子(以下=島本)

写真は人の価値観の形成に大きく影響するものです。当社では数年前から多様性のあるビジュアルを提供していく責任を意識し、コンテンツの制作、様々な団体とのパートナーシップの推進など多方面から取り組んでいます。今回、LGBTQについても同じように取り組む必要性を感じ、今日はLGBTQ層の方々がより自分らしく生きていくことができる社会の実現を目指して活動されている「東京レインボープライド」の代表のお二人にお越しいただきました。

山縣真矢(以下=山縣)

杉山と一緒に東京レインボープライドの共同代表理事をやっています。僕自身ゲイで、現在、20年来のパートナーと一緒に暮らしているのですが、僕が東京のプライドパレードの運営に携わり始めた2012年の頃と比べると、LGBTQの存在がかなり社会に浸透してきたように感じています。協賛してくださる企業の方をはじめ、老若男女問わずさまざまなセクシュアリティの方がイベントに参加してくれています。

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杉山文野(以下=杉山)

当初、参加者は4,000〜5,000人でしたが、現在は代々木公園で開催されるメインイベントの「プライドフェスティバル」の2日間で10万人規模。LGBTQの方だけでなく、誰もが楽しく参加できるイベントとして認知度も上がってきています。そもそもの目的はLGBTQの存在を可視化すること。年に一度くらいはみんなで集って「ここにいますよ!」と社会に伝えないといつまでたってもLGBTQの人はそこに存在しない人になってしまうので。

僕はトランスジェンダーで、元は女性でした。長年付き合っているパートナーもいますし、一見すれば男女のカップルです。しかしながら、戸籍上は女性なので、結婚することはできないんですね。2015年に渋谷区が同性パートナーシップ条例を成立させましたが、まだまだ法律上は認められていない。さまざまな課題があるなかで、僕らのようなセクシュアルルマイノリティが少しでもハッピーになれるようにという思いでイベントを続けています。

島本

"多様な人たちが、より自分らしく前向きに暮らしていくことのできる社会をみんなで応援する"。このレインボープライドのコンセプトが私には響きました。自分らしくありながら活躍できる社会が実現できれば素敵ですね。

杉山

はい。これはLGBTQだけの話ではなく、外国人、高齢者、障害者など、この世界には本当に多様な人がいて、誰しもが何かのマイノリティだと思うんです。例えば自分だって海外に行けば外国人だし、今日の帰り道に事故に遭えば障害者になるかもしれない、自分が当事者じゃなくてもすぐ近くの人がそうかもしれない。ダイバーシティって結局我々みんなのことだと思うんです。僕は元女性だということを自己紹介するときに必ず言うようにしているのですが、言わないと、トランスジェンダーである自分がいないものになってしまうからです。

山縣

ダイバーシティを突き詰めれば、基本的には「個人」だと思うんです。個人が認められるようになるということ。我々の団体のスローガンは"らしく、たのしく、ほこらしく"。それを表現できるような形でイベントも企画しています。もっと言えば、「性と生の多様性」を祝福するイベントになればと思っていて、生きていること、人を愛することって素晴らしいよね!と。セクシュアリティに関係なく、異性愛者の方にも自分の性やパートナーに対して考えてもらうきっかけになればと思っています。

分かり合えないことを前提に、尊重し合う

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島本

なるほど。ゲッティイメージズでも「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を使っているのですが、実はインクルージョンという言葉が大事なんです。ダイバーシティについては黒人スタッフが何パーセントいて、女性が何パーセントいて...と、数値化できるものですが、インクルージョンという言葉を入れると、"含まれている"、"輪の中に入っている"という気持ちが大事になってくるので、数値で測れるものではないということから、より幅が出てくるのではないかと考えています。

杉山

インクルージョンといってもみんなが120%分かり合うのは難しいところもありますよね。"放っておく"力も大事なのかなと思っています。

島本

確かに"尊重する"ということは大事ですね。

杉山

そうですね。例えば、同性婚したい人にものすごく反対する人がいる。別にあなたの相手を奪うわけじゃないし、好きな人同士が一緒にいてもあなたの生活に関係ないでしょ、って。別に賛同してくれなくてもいいから、せめて放っておいてくれませんかと思うことがある。お互いが分かり合えないということを前提に、尊重し合える関係になれたら理想的ですね。

山縣

それこそが成熟した人間関係ですよね。そのほうがお互いにとって平穏だと思う。ゲイを生理的に受けつけないという人もまだまだいます。でも、そんなことを言われても、僕らはすでに存在し、この社会の中で暮らしています。異性を好きになる人がいるのと同じように、同性を好きになる人もいるんだと知っておいてもらえればそれでいい。生理的な感覚に訴えてまで無理して理解してもらわなくてもいいと思うんですよね。

島本

この話は日本の社会にとって、とても大きな課題かもしれません。日本の教育はなんでも集団、調和を求められる。ときには放っておいて尊重することも大事。人に迷惑をかけなければ好きなことをやっていてもいいという寛容性が問われますね。

ステレオタイプではないLGBTQのイメージを共有したい

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杉山

島本さんはグローバルに活躍されていますが、教育の面も含めてこの国は日本のお手本になったらいいなと思う国はありますか?

島本

先ほどの、誰もが自分らしく活躍できるという面ではドイツですね。ドイツは東京のようなメイン都市がなく、地方分権が完全にできているんです。全国新聞もない。働く場所も家も近くて、環境的にもバランスが取れています。そして、政治機能はベルリン、金融はフランクフルト、出版・映画はミュンヘンなど、都市同士も尊重できている、そういう面で気持ちの良い国ですね。

杉山

この質問をしたのは、LGBTQの理解度が日本と海外と比べてどうですか?とよく聞かれるからなんです。海外って言っても広すぎて、LGBTQで言えば、世界で初めてオランダで同性婚が認められて、先進国はどんどん進んでいるその一方で、国連加盟国の80カ国近い国ではLGBTQであるということが何かしらの犯罪であるとされるんです。

なかには死刑にされる可能性のある国もある。海外が理解があるとは一概には言えない。アメリカのすべての州が同性婚を認めたと言っても、ヘイトクライムも非常に強い。事件があるのはいいことではないけど、LGBTQが存在するということは浸透しているんです。逆に、殺される危険性はないけれど、なんとなく黙っていれば、普通の生活ができる。それが日本。だからこそもっと可視化する必要があると思うんです。LGBTであることを写真や映像で見せようと思っても難しいのですが、もっとステレオタイプではないLGBTQのイメージを共有できたらと思います。

島本

ぜひ一緒に協力してより良いLGBTQのビジュアルを発信していけたらいいですね。今、グローバル企業ではさまざまな人種の方を採用するなど、ダイバーシティな人材確保を目指す動きがあります。LGBTの方々も同じようにインクルージョンしていければより多様性を尊重しあえる環境になっていくと思います。

杉山

ありがとうございます。とにかく、東京レインボープライドはハッピーなイメージを持ってもらえると嬉しいですね。セクシュアルマイノリティであっても、こんなにハッピーに生きているんだよ!と子ども達にも伝わるようなオープンな世界を目指したい。LGBTという言葉がなくなるくらい、多様性を認め、尊重しあえる社会になることを願っています。

<最後に>

島本

「レインボープライド」の共同代表のおふたりは、社会に受け入れられるためにどういう活動すればいいのかを、ものすごくバランス良く、また多方面から考えられているところに感銘を受けました。また、杉山さんの自己紹介の際、昔は女性だったということをあえていうことで、そういう存在がいるということを主張していることには驚きました。本来ならLGBTQという言葉がなくなればいいのだけれど、現段階ではそれが必要だと。社会のフェーズに合わせて、どう活動していけばいいかを深く考えられているところが素晴らしいですね。

東京レインボープライドについて

NPO法人「東京レインボープライド」共同代表理事

山縣 真矢 Shinya Yamagata

1967年岡山県倉敷市生まれ。NPO法人東京レインボープライド共同代表理事。フリーライター/編集者。音楽雑誌の編集者からフリーランスになったことを契機にボランティアでHIVの啓発運動に参加。2002年から東京で断続的に行われたプライドパレードの運営に携わる。2011年5月、現在の「東京レインボープライド」の立ち上げに参加。2012年9月に代表となり、2015年8月にNPO法人化するにあたって、杉山文野とともに共同代表理事に就任。

NPO法人「東京レインボープライド」共同代表理事

杉山 文野 Fumino Sugiyama

1981年東京都新宿区生まれ。フェンシング元女子日本代表。

早稲田大学大学院にてセクシュアリティを中心に研究した後、その研究内容とトランスジェンダーである自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』を講談社より出版。韓国語翻訳やコミック化されるなど話題を呼んだ。卒業後、2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。帰国後、日本最大のプライドパレードである特定非営利活動法人東京レインボープライド 共同代表理事、セクシュアル・マイノリティの子どもたちをサポートするNPO法人ハートをつなごう学校代表、各地での講演会やNHKの番組でMCを務めるなど活動は多岐にわたる。

日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わり、現在は渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。

【東京レインボープライド 2018 開催概要】

正式名称 : 東京レインボープライド2018

日時 : 2018年4月28日(土)~5月6日(日)

場所 : 東京都渋谷区代々木公園、他協力施設や公共スペース等

参加料 : 無料(ただし、一部の施設入場料およびプログラムは有料)

主催 : 特定非営利活動法人 東京レインボープライド

後援 : 渋谷区

今年は「資生堂」「JT」「JAL」「みずほフィナンシャルグループ」「ソニー・インタラクティブエンタテインメント」「Google」 「facebook」「AIG」など、国内外から過去最高の「213」もの企業・団体より協賛をいただきました(昨年は194)。 それに加え、6日のパレードのフロート(梯団)申込み数も去年の「23」から「37」と増え、イベントの総動員数は去年の 10万8千人を超える13万人以上の見通しです。

■LeanIn (リーンイン)

2013年より、さまざまな年齢の女性と、彼女たちを支持する人々の力強い描写に特化したイメージの宝庫「LeanIn Collection」の制作を開始。

Sheryl Sandbergが設立した女性の地位向上を目指す非営利組織「LeanIn.Org」とゲッティイメージズが共同で厳選したコレクションで、

本コレクションでは、性に対する固定概念にとらわれない女性だけでなく、男性のビジュアルを集めています。

LeanIn Collectionの利益の一部は、女性の地位向上のイメージを撮影するゲッティイメージズの助成金プログラムおよびLeanIn.Orgの活動に使用されます。

■MuslimGirl (ムスリムガール)

MuslimGirl.com images:http://urx.red/JKhR

2017年より、アメリカ最大規模のムスリム女性向けプラットフォーム「MuslimGirl.com」と、

マスメディアや広告におけるムスリム女性が正しく取り上げられるためのパートナーシップを提携しました。

パートナーシップ提携により、インターネット上でのムスリム女性の多様性や、

ポジティブなイメージの発信により、イスラム社会全体におけるイメージ向上を目的としています。