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「ウイルスは変異するほど弱毒化」本当? オミクロン株で言説拡散

英国におけるオミクロン株の感染拡大で、ロンドンでワクチンの追加接種を受ける女性=AP
英国におけるオミクロン株の感染拡大で、ロンドンでワクチンの追加接種を受ける女性=AP

 新型コロナウイルスの変異ウイルス「オミクロン株」の感染が世界で広がり、日本でも感染者が確認された。SNS(ネット交流サービス)上では「変異するほど弱毒化する」といった根拠不明な言説も飛び交っている。ウイルス変異の仕組みや、現時点でオミクロン株について分かっていることを、米国立研究機関のウイルス研究者で病理医の峰宗太郎さんに聞いた。【上東麻子/デジタル報道センター】

 11月に初めて南アフリカで感染が確認されたオミクロン株。米紙ニューヨーク・タイムズによると、7日午前8時時点で少なくとも世界51の国・地域に感染者が広がっている。南アフリカでは、1週間で感染者数が6倍以上になるなど、急拡大している。日本ではナミビアから28日に入国した男性から初めて検出され、これまでに3例が確認された。

 SNS上では、さまざまな臆測が飛び交う。その一つが「ウイルスは変異するほど弱毒化する」という言説だ。

 11月29日には著名な動物行動学者が「変異すればするほど、弱毒化することは常識。とうとう普通の風邪レベルになったのに、枠珍(=ワクチン、原文ママ)打てはおかしいよ」とツイートした。この学者のフォロワーは約7万5000人おり、この投稿には2000以上の「いいね」がついた。

 投稿では、海外メディアで放映された、オミクロン株に感染したとみられる患者約30人を診察した南アフリカの医師のインタビューも引用。この医師は「自分が診察した患者はすべて軽症だった」と話していた。

 だが、こうした情報だけで断言することについて、峰さんはいずれもきっぱりと否定する。その理由を語ってもらった。(インタビューの内容は6日時点での情報による)

変異はランダムに起きる

 ――ウイルスの変異について教えてください。

 ◆まず初めに、厚生労働省や日本のメディアの多くは「変異株」という言葉を使っていますが、ウイルス学の分類でいうと、この用語の使い方は間違いです。「株」=strainは、「ウイルス学的な特徴が明らかに変わった」場合に使います。今までヒトにしか感染しなかったものがブタに感染するようになった場合などです。「デルタ」もそうですが、特徴がウイルス学的に大きく変わるとまでは言えない変異が生じたウイルスが現れた場合は、「変異体」=variantというのが正しいです。ただ、変異体という言葉は耳慣れないのでここでは「変異ウイルス」という言葉を使いますね。

 ――ウイルスは「変異すればするほど弱毒化する」のでしょうか?

 ◆いいえ。変異という現象自体は基本的にランダムに起こると考えられています。生物やウイルスは自分の遺伝情報をDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)に記録・保持しますが、変異とは、この一部が書き換わることを指します。新型コロナのようなRNAウイルスの場合は、RNAの一部が書き換わります。それによってたんぱく質の性質が変わるのです。

 新型コロナウイルスはヒトの細胞に侵入し、細胞の機能も使ってRNAを複製し、自己増殖します。変異によって、一つの性質として例えばこのスピードが「速くなる」「変わらない」「遅くなる」かは、それぞれランダムに起きます。その中で、よりヒトの細胞に「フィット」しやすい性質を獲得したものが残りやすいという「選択」が起きます。変異は私たちの体の中で起きるので、体の中で特に増えやすくなったもの、人にうつりやすくなったものが、体から出て行きやすくなり、なおかつ人の集団の中で残りやすいものが残っていくことが多いわけです。このように、生物の進化において、ある形質をもつ生物個体にはたらく自然選択の作用のことを「選択圧」といいます。

 ――淘汰(とうた)されていくということでしょうか?

 ◆淘汰説に近いですね。変異によって伝播(でんぱ)性(人から人へのうつりやすさ)が明らかに変わっていないもの、下がっているものもあります。しかし、伝播性が高ければ高いほど、集団内に広がりやすくなります。今まで報告されている変異した新型コロナウイルスは世界中に約10万種類とたくさんありますが、多くは「デルタ」など、「広がりやすい」ウイルスによってある意味で「駆逐」され、消えていっているのです。感染した際の病毒性についても、「強毒になる」「変わらない」「弱毒になる」場合があります。ワクチンが効きやすいかどうかについても同様です。変異すればするほど、どちらかに偏る傾向が元からあるということはありません。

 ただし、どう選択圧がかかるかによって、傾向が変わる場合はあります。思考実験で極端なケースを想定しますと、例えば病毒性がものすごく高くなり、罹患(りかん)したらその人は2秒で死ぬウイルスが出てきたとします。するとウイルスが排出されて他の人にうつることはできなくなりますから、そのウイルスは広まりません。実際に、2013年に流行が始まった中東呼吸器症候群(MERS、マーズ)を引き起こした別のコロナウイルスは、致死率が40%と高く、かかると重症になります。人にうつす間もなく患者さんは亡くなったり入院したりすることもあり、集団には広がりにくかった。だから、そうした変異が選択されず、より毒性が下がって人にうつして回るウイルスの方が選択されることはあり得ま…

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