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Hua-wei(ホァーウェイ)を追い詰めると、日米にとって恐るべき事態が

ニューズウィーク日本版 2018年12月7日 18時30分

ホァーウェイを追い詰めると、その頭脳ハイシリコンが最高レベルの半導体を中国国内のハイテク産業に売る可能性が出てくる。そうなると「中国製造2025」は2025年を待たずに達成され、アメリカを凌駕し、日本は不要となる。

「中国政府と関係が深い」という接頭語の危険さ

日本のメディアは、ホァーウェイ(華為技術、Hua-wei)を持ち出すときに、まるで接頭語のように「中国政府と癒着している」とか「中国政府と関係が深い」と書き立てているが、それがどれほど危険なことか、気が付いているだろうか。

ホァーウェイの頭脳であるハイシリコンは、その研究開発した半導体を、ホァーウェイにしか売らず、他社には売らない。ましていわんや、中国政府になど提供したりは絶対にしないのである。

もし中国政府と癒着していたり、中国政府と関係が深かったりするのであれば、習近平国家主席は中国共産党一党支配体制の命運を賭けて国家戦略「中国製造2025」を推進しているのだから、中国政府にハイシリコンが研究開発した最先鋭の半導体の成果を提供するだろう。

しかし、ハイシリコンもホァーウェイも、絶対にそうしていない。

もし、ハイシリコンが半導体を中国国内の他社や中国政府に販売するようなことになったら、どんなことが起きるだろうか?

日米にとって恐るべき事態が待っている

まず、今や潰れそうになっている国有企業ZTE(中興通訊)にハイシリコンの半導体を販売すれば、ZTEはたちまち息を吹き返し、習近平としては日本に色目を使う必要も無くなってくる。

なぜならZTEはアメリカのクァルコムからハイレベルの半導体を購入してハイテク製品を製造していたのであり、今や世界中で、ハイシリコン以上に、クァルコムに匹敵したハイレベルの半導体を製造する半導体メーカーはいないからだ。

助かるのはZTEだけではない。

中国にある数多くのハイテク製品を製造するハイテク企業にハイシリコンの半導体を販売すれば、中国のハイテク産業は、アメリカを軽く凌駕するレベルと量のハイテク製品を生産することに成功するだろう。

何も「2025年」を待つことなく、国家戦略「中国製造2025」は目標を達成してしまうにちがいない。



「窮鼠、猫を噛む」ではないが、販売ルートを極端に制限されると、さすがのハイシリコンも掟を破って、中国国内の他のハイテク企業にハイレベルの半導体を販売する可能性が出てくる。ハイシリコンは、もともとはホァーウェイの研究開発部門の一つであったのだから、ホァーウェイとは一心同体。研究に専念したいというエンジニア精神から独立したに過ぎない。したがってホァーウェイの経営が困窮すれば、その時こそは、ハイシリコンは中国政府にも新開発した半導体を販売することになるかもしれないのである。

となれば、世界が中国のものとなる日が近くなる。

中国はアメリカを凌駕するだけでなく、日本など必要ではなくなるだろう。

日米にとっての悪夢が待っている。

「背後に中国人民解放軍が」という接頭語の愚かさ

日本のメディアがホァーウェイに付ける、もう一つの接頭語に「背後に中国人民解放軍が」というのがある。

「軍が背景にある」というようなことを言うと、さも、もの凄いことを言ったようなニュアンスを持たせるという、奇妙なムードが日本のメディア全体に漂っている。

これが「愚か」だけで済む話でなく、いかに「危険」であるかも、日本人は認識しなければならない。

『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(本年12月22日発売)で詳述したが、ホァーウェイの創業者、任正非氏は、たしかに何百万人もいた中国人民解放軍の兵士の一人だったが、1985年の中国人民解放軍100万人削減によって「解雇された兵士の一人」に過ぎない。無職になってしまった100万人の元兵士たちは、主として自動車産業などに就いた人が多かったが、任正非は通信機器に興味を持った。なぜなら当時の中国で、固定電話があるという家は、ほんの少数でしかなかったからだ。

会社を興すに当たって、数人の解雇された仲間と日本円で5万円ずつほど出し合って、30万円弱の資金で会社を立ち上げた。

日本では、これを以て、「背後に軍が」などと針小棒大に形容し、ほとんど事実無根のストーリーを創りあげて、「接頭語」として必ず付けるようになっているほどだ。

それによりホァーウェイの販売ルートを締め付ければ、ホァーウェイは、これまで拒絶していた中国政府の要望を受け入れて、ハイシリコンの半導体を、中国の市場だけに開放するという「窮鼠、猫を噛む」手段に出るところに追い込まれるだろう。

結果、中国がアメリカを凌駕し、世界制覇の夢を達成することになるのである。



賢明な対中強硬策を

トランプ政権が対中強硬策に出ていることは歓迎する。なぜなら言論弾圧をしているような一党支配国家が世界を制覇するようなことだけは避けたいからだ。

しかし、アメリカはイラク攻撃のときもそうだったが、自国の都合で「存在しない事実」をでっち上げ、自国の戦略の正当性を主張するという悪い側面も持っている。

中国の「一帯一路」戦略への「協力を強化する」と習近平に誓った安倍首相よりはまだましだが、この逆襲を考慮に入れない今のアメリカのホァーウェイ攻撃が賢明なのか否か、慎重に考える必要がある。

菅官房長官は本日、「現段階で、具体的な取り組み状況についてはコメントすることは控えたい。いずれにしろ、わが国全体のサイバーセキュリティーの向上に向けて、引き続き、さまざまな観点から取り組みたい」という表現に留めたが、これは事実上、ホァーウェイやZTEなどの製品について、全ての府省庁や自衛隊などが使用する情報通信機器から排除する方針を固めたことを意味する。アメリカの同盟国であるやオーストラリアやニュージーランドでも同様の動きが広まっている。

ZTEの締め付けに関しては賛同するが、ホァーウェイに関しては、「逆襲」を考慮しながら、慎重に対処する必要があるだろう。通信機器に潜んでいると言われる「怪しい機能」を慎重に見極め、賢明な思慮と対策が求められる。

最後に、余談をひとつ――。

昨夜の集まりで菅官房長官と同席したが、そのような場における同氏の笑顔は、ことのほか魅力的で、記者会見のときの表情からは想像もつかないほどの温かな人情味に溢れている。この笑顔を記者会見のときにも見せれば、国民の自民党に対する印象もかなり違ってくるだろうにと、反省を込めながら、ふと思った。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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