今年、バレーボール全日本男子に新風を吹き込んだ、ミドルブロッカー李博(27歳)とセッターの藤井直伸(25歳)。藤井は全日本初招集、李もこれまでは出場機会に恵まれてこなかったが、息の合ったコンビネーションで存在感を示した。

 両者はVプレミアリーグの東レアローズでもコンビを組んでおり、昨季のリーグ制覇に大きく貢献している。今季は黒星スタートとなったが、世界の強豪相手に経験を積んだ2人にかかる期待はさらに高まるだろう。そんな李と藤井に、全日本での試合で得たもの、連覇を狙うVリーグへの意気込みを聞いた。


全日本での戦いを終え、東レで連覇を目指す李(左)と藤井(右)

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――全日本での活躍で注目度が高まったと思うのですが、周囲の対応は変わりましたか?

李 街で「李さんですよね」と声をかけられることが多くなりました。注目されることはありがたいことですし、プレッシャーではないです。

藤井 僕は感じないですね。李さんほど人気はありませんから(笑)。

李 ちょっと! 藤井のほうが、僕よりずっと人気ですよ(笑)。

――全日本で国際試合の経験を積んで感じたことはありますか?

李 (世界は)サーブ力と、ブロック力がすごいなとあらためて感じました。リードブロック(トスを見てから跳ぶブロック)の出し方が、コミットブロック(相手のアタッカーの動きから予測して跳ぶブロック)みたいにガッと出てくる。「(ブロックが)ないな」と思って打つと後から手が出てくるので、最後までよく見て打たないといけないんです。

藤井(初召集で)日の丸を背負って戦う責任の重さをすごく感じました。プレーに関しては、李さんと同じくブロックとサーブに差があることと、それに加えて、世界トップレベルの選手は細かいプレーを簡単にこなすなと。僕たちも、ラリーやパスの精度を上げてミスを少なくしないと太刀打ちできないと思いました。

――監督が途中合流する異例のスタートとなりましたが、その影響は?

李 監督代行を務めていた(フィリップ・)ブランコーチから、中垣内(祐一)監督にすんなりと引き継がれたので気になりませんでした。指導の内容も大きく変わらず、混乱することがなかったですからね。

藤井 選手たちは「ただやるだけ」という気持ちでしたから、僕も気にならなかったです。

――ブランコーチ、中垣内監督からはどのような指示をされますか?

李 ミドルブロッカーとして”割り切り”を大事にするように言われています。特にブロックに関しては自分が最高の状態じゃないとなかなか決まらないので、全部のスパイクを止めにいかず、ココと決めたところに積極的に手を出しにいくよう意識しました。

藤井 セッターに関しては、相手のミドルブロッカーとの駆け引きをすごく重視しているので、相手ブロッカーの動きをチェックするようになりましたね。僕のミドルの使い方を評価してくれて、パイプ(縦の時間差)攻撃も強化しました。

――東レでもそうですが、2人のコンビではBクイックが多用されていますね。李さんは、中国代表のバレー選手だったお母さんからアドバイスを受けたりも?

李 母は郎平(ろう へい:元中国代表監督)さんにトスを上げていたと聞いています。以前はセッターの視点から「ネットとの隙間をなくしたほうがいいよ」など、アドバイスをもらっていました。今はもうないですけどね。
 
 試合中は、今はBクイックの割合が多いんですけど、僕が筑波大学でプレーしていたときは(よりセッターと近い位置で打つ)AクイックとCクイックしか打てなかったんです。それが東レに入ってから、篠田(歩)コーチに「お前はBクイックを身につけろ」と言われ重点的に練習するようになりました。

――それは、藤井選手の得意なトスに合わせたということでしょうか。

藤井 僕もあまり得意じゃなかったんですが、東レのミドル陣は強力なので「それを中心に攻撃を組み立てよう」とスタッフたちと話していて。全体練習の後に、李さんと何本も合わせていくうちに感覚を掴んでいきました。試合でもミドルを積極的に使うようになって、今では自分の武器になっています。

李 お互いに納得がいくまで練習しましたね。篠田さんがボール出して、藤井がトスを上げて、自分が打つという繰り返し。ミドルの攻撃はセッター次第なので、とことん付き合ってもらいました。

――年齢は藤井選手のほうが下ですが、指示はかなり強気に出すとも聞きます。

李 なぜか「助走に入らないと藤井が怒る」という話が広まっているんですけど、誤解なんです。練習の時に、僕がBパス(セッターが数歩動かされるサーブレシーブ)、Cパス(セッターが大きく動かされるサーブレシーブ)で助走をサボっていたことがあって。藤井が上げたトスを打てなかったときに、周りの選手から「しっかり入れよ!」と注意されただけなんです。

藤井 そうなんです(笑)。僕は別に怒っていないんですよ。

李 ともあれ、それで意識が変わりました。藤井はどこからでもトスを上げてくれますし、今はどんなボールでも全部打ちにいく気持ちでやっています。

――信頼関係を築かれていますが、プライベートでもすごく仲がいいんでしょうか。

李・藤井 それはないですね(笑)。

藤井 揃って全日本に呼ばれたのでそう言われることもあるんですが、練習や試合以外でもいつでも一緒ってことはないです(笑)。コンビネーションを高めるためにかなりの本数をこなしましたから、絆は固いですけどね。

――全日本でともに戦うのは初めてでしたが、藤井さんは同じセッターで全日本のキャプテンを務める、深津英臣選手とどんな話をしましたか?

藤井 相手のブロックのつき方やどういうシステムで相手が戦っているのかを、試合中に教えてもらっていました。深津さんがいたから、全日本でも自由に、思い切ったプレーができたんだと思います。

李 僕も深津さんにはすごく助けられました。自分はあまり気持ちを前面に出すタイプではないので、深津さんがチームを引き締める言葉を言ってくれるのを、ほぼ同年代ながら頼もしく感じていました。試合に出ていないときでも絶えず仲間に声をかけて、得点が入ったら全身で喜ぶ。そんな姿を見て「もっと頑張らないと」と思いました。

――両エースの、柳田将洋選手と石川祐希選手の印象は?

李 気持ちの余裕が違いましたね。年下の選手ですが、チームを引っ張ってもらっていました。

藤井 多くの経験をしっかりモノにしているなと思いました。常に一定のパフォーマンスが出せますし、頼もしい存在でした。

――新体制発足からしばらく順調でしたが、9月のグラチャンは全敗という結果に。この経験をどうVリーグに活かしたいですか?

李(グラチャンでも)いい試合ができるんじゃないかなと思っていましたが、アジアのチームとのサーブ力やブロック力の差は、体感してみないとわからなかったですね。Vリーグでは、常に攻めるサーブを意識したい。ブロックは、もうワンテンポ早くアタッカーの前に入れるように、できるだけ最小時間で移動できるようになりたいです。

藤井 大会前から難しい試合が続くとは思っていましたが、いざ負けると悔しかったです。「もっとできた」という想いもあるけど、現状はこういう結果だとしっかり受け止めなくちゃいけない。今季のVリーグは、世界と戦うつもりでやっていきます。

 チームに合流してまだ1カ月ほどで、体はけっこう大変ですが、全日本でもずっと試合続きだったので慣れました。去年は試合中に足がつったこともありましたが、今年はないと思います。チーム全体もいい感じで仕上がっていますから、いい戦いができると思っています。

――最後に、今季のVリーグでの目標を教えてください。

李 狙うのは連覇。1試合1試合を全力で頑張りたいです。

藤井 僕も狙うのは連覇です。各チームの力が拮抗していて混戦になると思うので、ひとつひとつの試合を大事に戦っていきたいです。

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