あわただしかった新生活も落ち着いてくる時期。その半面、会社であったちょっとしたことで怒ったり、ママ友からのささいなひと言に悩んだり…と、仕事や人間関係の悩みも浮き彫りになってきます。

「だれもが感じるネガティブな感情は、脳の仕組みを利用することで、やり過ごせるようになります」と話すのは、脳科学者の柿木隆介先生。ネガティブな感情はこうして撃退!脳科学者に教わる「悩まない技術」

「感情が大きく揺さぶられるような強烈な出来事は、脳の長期的に記憶を保存する場所に保管されてしまい、折にふれて呼び出されてしまうのです」

つまりネガティブな感情を抱くのは、脳の仕組みからすると、当たり前の現象。でも、ちょっとしたアクションを習慣化することで、くよくよ考えないクセがつくそうです。
「心がタフになり、小さなことで悩まなくなりますよ」

ここでは、ネガティブな感情を制御するための具体的な方法を柿木先生が感情別に解説。ちょっとした日々の習慣づけで、悩みやストレスから解放されましょう。怒りの抑え方:時間を稼いでクールダウンを

イヤミを言われた、約束を破られた…。日常の小さな出来事が呼び起こす瞬間的な怒りに、脳は対応ができません。怒りを制御する役割を果たす前頭葉は、働き始めるまで時間がかかるため、時間を稼ぐことが大切です。●怒りが込み上げたら深呼吸を3回する


脳が怒りを抑えるのにかかる時間は3〜5秒といわれます。深呼吸をゆっくり3回して、この時間をしのげば、そのうちに前頭葉が働いてきて、怒りを抑え込むことができるようになります。
また、深呼吸をすると横隔膜が刺激されて、自律神経のバランスが整うというメリットもあります。●紙に書き出して心のなかを整理する


怒りを収めきれず、ネガティブな気持ちがしつこく続いてしまう場合は、紙に現在の状況や自分の気持ち、推測される相手の気持ちを、簡単にでもいいので客観的に書き出し、怒りの原因に向き合ってみましょう。
書くことで頭と心が整理されるうえ、怒りという情動が自然と抑制されます。●言い争いになったら意識的に相づちを打つ

言い争いになったら、相手の言い分に納得していなくても、形だけでも相づちを打ちましょう。相づちは相手に伝わっている合図になります。人は伝わっていることを感じると、脳の前頭葉に備わっている「協調する」メカニズムを無意識に働かせる性質があります。

つまり、相づちが引き金になって、お互いの脳が解決に向け、協調しだします。嫉妬の抑え方:人にほめられたことを思い出す、諦めるクセをつける

嫉妬は他人と自分を比べて、相手の方が恵まれている場合に生まれてくる感情です。一般的に、他人の成功や経済状態は実際以上によく見えてしまうもの。つまり、錯覚や思い込みが嫉妬を引き起こしているといえます。●よく人にほめられたことを思い出してみる

ほめられると脳の中に幸せホルモンであるドーパミンが放出され、強い快感を覚えるようになります。ほめられたことを思い出すだけでも、同様にドーパミンが分泌されるので、嫉妬から意識をそらすことにつながります。
また、自身の強みを再確認できることで、人をねたましく思う気持ちも弱まります。●定期的にものを捨てて諦めるクセをつける


嫉妬はそもそも解決できない問題であることが多いので、「諦める」「気にしない」という考え方を身につけることが大切。不用品を処分する断捨離を行って、ものを手放すことは、諦める練習になります。
また、すっきり片づいた部屋にいると、脳が快感を覚え、ドーパミンがたくさん出るので、嫉妬する気持ちが和らぐ効果もあります。失望の抑え方:口に出したりプチぜいたくしたりして発散

なにかを行うときの意欲は、見返りが大きそうなら上がり、小さそうなら下がります。これを報酬予測といいます。脳のこの働きのため、過剰な期待が生まれ、達成されなければ、大きな失望につながってしまうのです。●たまのプチぜいたくでがっかりした記憶を紛らわす


がっかりした経験を引きずらないようにするには、楽しい思い出を増やして、意識を違うところに向けることが大切。

たとえば、高級な食事をしたり、衝動買いをしたりというプチぜいたくをすると、ドーパミンがたくさん出て快感を得られます。いい思い出が記憶に残るので、がっかりした記憶を紛らわせるには効果的です。●がっかりしたことを口に出してストレス発散

生活していると、ストレスホルモンであるコルチゾールがたまってきます。このコルチゾールは体にたまると胃潰瘍などを引き起こしかねない困りもの。ストレスを体外に発散させるために、失望したことに対するグチを、人に聞かれないところで声に出しましょう。悲しみの抑え方:思いきり泣いたり笑ったりする

悲しい思いをしたときに働く脳の部位と、体が本当に痛みを与えられたときに働く脳の部位は同じ。つまり、ショックな出来事があると、物理的に痛みを与えられていなくても、体と同じように心が痛むのです。●思いきり泣くことで有害な物質を排出しすっきり

悲しいときに涙を流すと、涙と一緒に脳内から分泌されるプロラクチン、ステロイドホルモンといったストレス物質をはじめとする有害物質も体外に排出されることが、最近の研究でわかってきました。涙を流すと気持ちがすっきりする、というのは脳科学的にも根拠があることなのです。●無理にでも笑うと脳が勘違いして気持ちが明るくなる


笑うときには顔の筋肉を動かします。顔の筋肉が動くと、脳は「楽しくて笑っている」と勘違いするので、気持ちが明るくなります。顕著な例として挙げられるのが、リハビリの患者さん。多くのリハビリ患者さんは、筋力が回復して笑えるようになると心理的にも回復するという傾向があります。●楽しかったときの写真やビデオを見て気持ちを切り替える


悲しい出来事は、強い印象をともなう記憶なので、ほぼ間違いなく長期記憶として保存されます。そのせいで、なかなか忘れられないのが難点。気を紛らわすためには、視覚的に訴えるのがいちばん効果的なので、楽しかった思い出の写真やビデオを眺めて意識を切り替えましょう。不安の抑え方:単純作業が効果的

ストレスにさらされると、不安になり、眠れない、汗が出る、緊張する、集中できないなどの身体症状が現れてきます。また最近の研究では、日本人は遺伝子的に不安を感じやすい人が多いことがわかっています。●単純作業に没頭する


不安感から逃れるには、野菜をひたすら切る、編み物をする、パズルを解く、掃除をするといった単純作業に没頭することが効果的。

ひとつの作業に長時間集中することができるので、不安を忘れるためには最高の条件といえます。●お気に入りの服を着て自信を取り戻す


自信がわかないときには、お気に入りの服に着替えて出かけるのがおすすめ。好きな服を着ている自分に自信がもてるようになるだけでなく、服に合わせてメイクをし、靴やバッグを選んでいるうちに、気持ちが明るくなり不安感から意識をそらすことができます。●週末にしたいことを考えて意識を前向きにする


気持ちを前向きにするうえで大切なのは、現状にとらわれず、未来のことを考えるようにすること。先の楽しい予定を想像するのは、もっとも簡単に思考を前向きにする方法といえます。週末の予定に思いをはせることで、不安に立ち向かう勇気がわいてきます。今すぐできる!幸福感を高める生活習慣


「幸せを感じやすくなるためには、幸福ホルモンの分泌量を増やす必要があります」と柿木先生。脳が幸せを感じやすくなる生活習慣を教えてもらいました。●朝日を浴びる

日の光を浴びることはうつ病にも効果的とされています。また朝早く起きると自律神経の働きがよくなり、ホルモンの分泌を促します。●朝夕30分ずつ歩く

運動は効果絶大。朝のウォーキングなどを組み込めば、朝日を浴びることにもなります。夕方も歩くと運動量が増えて、さらに効果的。●家族や友人とスキンシップをとる

良好な人間関係は幸福感をもたらします。またコミュニケーションをとりながら体に触れると、痛みや不安をやわらげる効果も。●1日数回腹式呼吸をする

腹式呼吸をすると横隔膜が刺激され、自律神経が働き始めることにより幸福ホルモンの分泌がアップ。脳の疲れにも効きます。●ペットを飼う

生き物と触れ合うことは幸福感を大きく高めます。触ったり、エサをやることで、幸福ホルモンが分泌され、体も健康にしてくれます。●家に花を飾る

視覚、嗅覚ともによい刺激を受けることにより、気持ちがリラックスすると、自然に脳内に幸福ホルモンが放出されます。

【監修・柿木隆介先生】
自然科学研究機構生理学研究所教授。九州大学医学部卒業後、神経内科医を経て39歳より現職。脳科学の啓蒙に力を注ぐ。著書に、『もう、人づき合いで悩まない技術 女性のための脳のトリセツ』(扶桑社刊)、『どうでもいいことで悩まない技術』(文響社刊)、『記憶力の脳科学』(大和書房刊)ほか

<イラスト/松元まり子 取材・文/ESSE編集部>