■ガソリンエンジン燃焼の種類

 ガソリンエンジンの燃料消費は、【1回の爆発で、どれだけ「使用ガソリン量」を少なくし、どれほど「低温」「短時間」で燃焼しきるかで爆発そのものの熱効率が決まる。】その後は、「損失」が少ないほうが「熱効率」は良くなる。

【前回は】ガソリンエンジンが良い! (7) エネルギー回生システムはガソリン車でも必須【2】

 (1)「ストイキオメトリー(理論空燃比)」、略して「ストイキ」(最適バランスガソリン混合比)燃焼には、「1gのガソリンに対して14.7gの空気」、言い換えると「角砂糖1個分ぐらいのガソリンに対して10Lの空気」が必要だ。これだとNOx(窒素酸化物)を発生しない。「最適バランス量(λ=1)」と言われている。

 (2)「リーンバーン(希薄燃焼)」では、空気量はストイキと変わらず、ガソリンの量を減らし、希薄混合比でガソリンが節約できると同時に燃焼温度が劇的に下がり、熱損失を大幅に減らす。

 (3)「スーパーリーンバーン(超希薄燃焼)」は、混合比λ=2.0〜3.0ほどを使う。スーパーリーンバーンでは、「スーパー点火システム(いくつものイグニッションコイルを連続して使う)」で長時間アークを発生させる。そのアークを「高タンブル流(吸気流速30m/s)」に載せて、最短距離で終わる通常のスパークプラグのスパークを、長いアークにしてなびかせ広範囲に火をつける。気筒内の圧縮が進むと共に、タンブル流が小分かれして広がり、その小分かれしたタンブル流に火種をのせて、シリンダー内どこでも爆発が起きる状態にして、上死点近くで短時間に燃焼させる。そのため燃焼温度は低い。

 (4)「HCCI (Homogeneous Charge Compression Ignition)予混合圧縮着火」は、 「スーパーリーンバーン(超希薄燃焼)」よりもさらに希薄な混合気で爆発させるので、エンジンの回転数や、負荷状態によっては使えない領域があり、通常の「SI(Spark Ignition)火花点火」で起きる「火炎伝播燃焼(SI燃焼)」と、「HCCI燃焼」との間で移行を繰り返さねばならない。その境界層で、NOx排出が増える問題もある。

 HCCI燃焼は低・中負荷領域での効率を高める技術で、使えるエンジン作業領域に限りがあり、高負荷領域や高回転領域ではCVTやモーターのアシストを受けて負荷が軽減されると、あまり差が出ないこととなる。つまり全体としては、大きな効果が見込めないこととなる。さらに高負荷領域や高回転領域では、SI燃焼に切り替える必要があるが、この切り替えが厄介だった。しかしマツダはこの技術の開発を進めて、「SPCCI (Spark Controlled Compression Ignition)火花点火制御圧縮着火」と称している。マツダ・スカイアクティブ-Xエンジンだ。

■「HCCI(予混合圧縮着火)」をホンダは中断

 一方ホンダは、HCCIとSI(火花点火)との切り替えの難しさを避け、「プレチャンバー(副室)ジェット燃焼」(ホンダらしくF1で使われている)技術によりストイキ燃焼で使うことと、リーン燃焼で使うことの2方向の技術開発を進めている。

 プレチャンバー、つまり副室燃焼で思い出すのは、懐かしいホンダの低公害エンジン「CVCC」だ。HCCI燃焼は運転可能領域が狭い。そのためストイキ領域でのSI(火花点火)とHCCIとの間を頻繁に行き来する必要が出る。しかし全運転領域でリーンバーンであると、その難しさはない。そこでホンダでは、ストイキ領域での燃焼と、HCCI領域での燃焼を行き来することを諦め、プレチャンバーで着火した火炎を、気筒内全般に噴射するようにして燃焼を素早く行う技術を開発しているのだ。

 これだとHCCIと同じように低温で燃焼が出来るため、「熱損失」を大幅に削減できるメリットも確保できている。熱損失は、排気系やラジエターから捨てられる熱全般であり、全エネルギー損失の半分以上を占めている。したがってこれを削減できることは、「熱効率向上」に大きく貢献するのだ。「CVCC」で開花したホンダイズムは、F1挑戦を続け脈々と受け継がれているようだ。

 また、短時間(通常の火炎伝播燃焼と比較すると半分ぐらいの時間)で燃焼できるため、リーンバーンでも十分なトルクと馬力が確保できると言う。ホンダは、この方策で熱効率を上げることを考えている。

 他にも、AICE(自動車用内燃機関技術研究組合)が、HCCIではなくスーパーリーンバーン方式により、実験エンジンではあるが「熱効率51%」を達成している。λ=2.3程度の混合気を使っているそうだ。この分野では、常に日本企業が先行していることが誇らしい。