F1だってGTマシンだっていまや2ペダルが主流

 ドライビングテクニックを語り合う中で、よく話題になるのが「左足ブレーキ」の是非に関することだ。2ペダルのAT車が市販車の大半を占める現代では、誰でも左足ブレーキを試すことができる。

 F1はもちろんF3以上のフォーミュラカーのレーシングマシンはすべて2ペダルとなっていて、GTマシンやTCRなどのツーリングカーカテゴリーでも2ペダル=左足ブレーキが主流になってきている。

 近年、高齢ドライバーだけでなく多くのドライバーがブレーキとアクセルを踏み間違えるという初歩的なミスで悲惨な事故が多発しているが、左足ブレーキを日常的に使っていれば踏み間違いは起こりにくくなるという意見も多い。

 しかし、長年に渡り右足ブレーキでキャリアを重ねて来たベテランドライバーであればあるほど、今から急に左足ブレーキを使えと言われても、脳内シナプスが形成されておらず。すぐに適合するのは難しいだろう。また、2ペダルのAT車でも、あえて左足ブレーキを使えないようにアクセル寄りにペダルをレイアウトしているクルマもある。

 ペダルのレイアウト位置だけでなく、シートのホールド性やドライビングポジションの自由度によっても左足ブレーキの向き不向きがあるのだ。

 では、どのようにして左足ブレーキをマスターすべきか。そして左足ブレーキを使う上で求められる条件とは。

 その答えは「カート」にあるのだ。カートには遊園地などにある「ゴーカート」とレース用の「レーシングカート」がある。どちらも左足ブレーキ、右足アクセルというペダルレイアウト的には共通している。

 現代のF1で活躍しているレーシングドライバーのほとんど全員がレーシングカートからキャリアをスタートしている。彼らはまだ3ペダルのクルマを運転するはるか前、3〜5歳からカートを始めて「左足ブレーキ」に馴染みながら育ってきているのだ。

 遊園地で係りのお兄さんから「ブレーキは左足で。アクセルは右足で」と教わった経験のある方も多いだろう。

カートで走れば左足を動かす脳内シナプスが活性化される

 ゴーカートとレーシングカートの最大の違いは「絶対速度」だ。地上3cmのシートに座り、100km/h以上で走るレーシングカートの体感速度は300km/h以上だ。

 僕自身もレーシングカートでレーシングドライバーとしてのキャリアをスタートさせた。そしてジュニアフォーミュラやツーリングカーにステップアップする度にレーシングカートとの運動性能の差に戸惑った。しかし、F3や当時国内トップフォーミュラだったF3000クラスにステップアップすると、どんどん絶対速度が高まり、体感的にはむしろレーシングカートに近づいていった。今も多くのF1パイロットがオフシーズンのトレーニングにレーシングカートを利用しているというのは頷ける。

 カートは重心が低く、サスペンションがないのでダイレクトでクイックな操縦感覚がある。そして左足ブレーキを駆使してサーキットを攻めるのでトレーニングとして最適なのである。

 カートはまたそのブレーキが後輪にのみ作動する。中にはフロントブレーキを装着したモデルもあるが、通常は後輪にだけブレーキが装着されている。

 後輪の左右は1本のドライブシャフトで繋がっていて、ディスクブレーキは左サイドにひとつしか付かない。思い切りブレーキを踏み込むとディスクブレーキが作動し、まずは左後輪にブレーキ力が伝わる。そしてほぼ同時だが、シャフトの捻れ分だけ遅れて右後輪にもブレーキがかかる。この僅かなタイムラグによる位相遅れでブレーキング時の直進性は悪く、急ブレーキをかければドライブシャフトの捻れによるトルクステアでスピンしてしまうほどだ。

 左コーナーではこの特性を利用してブレーキングドリフトして旋回のきっかけを作り、右コーナーではブレーキアンダーを出さないように慎重にペダルコントロールしなければならない。

 このようにレーシングカートでは左足で減速やヨー姿勢をコントロールする頻度が高く左足を動かす脳内シナプスが活性化される。

 一度シナプスが形成されれば、日々のトレーニングで長く維持することができるわけだ。

 また、レーシングカートのシートはバケットタイプと呼ばれ、左右だけでなく前後のG変化でも身体を正確にホールドすることができる。シートが合わず、正確なポジションが得られないと、たちまちブレーキコントロール性が低くなりタイムが落ち込む。レーシングカートではシートのサポート性、ドライビングポジションがいかに重要かをも学ぶことができるのだ。

 もし、一般車の日常的な運転で左足ブレーキを使うなら、それに適したブレーキペダル配置とシートのサポート性を抜きには語れない。そこをクリアした市販車は極めて少なく、ごく僅かなスポーツカー、スーパーカーにしかないのが現状だ。レーシングカートを経験しておけば、そうした適合性をすぐに見抜くことができるだろう。