漫画の「キャラクター」は著作物ではない? 「同人誌の法的位置づけ」を巡り画期的判決、弁護士にポイントを聞いた
同人作家が無断転載サイトを訴えていた裁判の控訴審が決着、判決文に意外な形で注目が集まりました。
いわゆる“同人誌転載サイト”に自身の作品を無断で掲載されたとして、同人作家の女性がサイト運営元に対し損害賠償を求めていた裁判(控訴審)で、知的財産高等裁判所は10月6日、被告側の控訴を棄却し、一審判決(関連記事)は妥当であるとの判決を下しました。また、公開された判決文の中で、二次創作同人誌の法的位置付けについて(あくまで同人作家と第三者による裁判という点には注意が必要ですが)著作権侵害にはあたらないとの判断が示されたことも大きな注目を浴びています。
一審の記事でも触れた通り、今回の裁判では「二次創作同人誌は著作権で保護されるか」という点が大きな争点となりました。原告の同人誌は『ハイキュー!!』や「TIGER&BUNNY」「おそ松さん」といった漫画やアニメ作品を元にしており、被告側はこれについて「違法な二次的著作物」であり、訴えは不当であると反論。一審では最終的に「違法な二次的著作物であると認めるに足りる証拠は存在しない」として、被告側に約219万円の支払いを命じましたが、これを不服として争っていたのが今回の控訴審となります。結局、知財高裁でもこの判断は覆らず、一審の判断がそのまま支持された形となりました。
漫画の「キャラクター」は著作物にあたらない?
これに加えて、今回の判決でもう一つ注目を浴びたのが、漫画のキャラクターについて「著作物には当たらない」と判断されたこと、また二次創作同人誌について「原則として、原作の複製権を侵害する違法なものではなく、適法に権利行使できる作品である」という判断が示された点です。原告側代理人を務めた平野敬弁護士(電羊法律事務所)も裁判後、「同人誌の法的位置づけについては以後これがリーディングケースになると思われます」とツイートしています。
平野弁護士が続くツイート(1、2、3)で抜粋したのは、判決文の以下の部分。
漫画の「キャラクター」は、一般的には、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから、著作物に当たらない(略)。したがって、本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって、これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。
シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである
(判決文より)
つまり、漫画のキャラクター自体は「著作物にあたらない」ため、同人誌に原作のキャラクターを登場させたとしても、それだけで著作権侵害にはならない、ということになります。平野弁護士のツイートはこれまでに1万回以上リツイートされ、「かなり衝撃」「マジか……」など驚く声も多くみられました。
あらためて、今回の判決のポイントについて、鹿児島県弁護士会の上岡弘明弁護士に詳しく解説していただきました。
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二次創作同人誌でも「二次的著作権が成立し得る」との判断
―― 二次創作同人誌であっても「原作の複製権を侵害する違法なものではない」というのはどういうことなのでしょうか。
上岡弁護士:従来、作品の登場人物の顔、姿などの恒久的な表現(キャラクター)については、特定のコマと対比するまでもなく著作権侵害になるとの見解がありました(※)。しかし、これに対して判決では、同人誌が原作の著作権を侵害していると主張する場合「原作のどのシーンの著作権侵害か特定しなさい」と述べ、上の見解を明確に否定しました。そして、今回は原作シーンが特定されていないので同人誌に著作権侵害はないとした形です。
※被告側が引用した「サザエさんバス事件判決」(東京地裁昭和51年5月26日判決)などに基づく見解
―― キャラクター自体は著作物にあたらず、原作の「特定のシーン」に対して類似していなければ著作権侵害にはならないということですね。
上岡弁護士:そうですね。これだけで判決としては十分なのですが、裁判所はさらに踏み込んだ判断をしました。仮に原著作物のシーンが特定されたとしても、著作権侵害が問題となり得るのは、キャラクターの「容姿や服装など基本的設定に関わる部分」のみ、しかも複製権侵害に限られるとし、「その他の部分については、二次的著作権が成立し得る」と述べたのです。複製権侵害の危険性は残る文章ですが、本判決では原作と同人誌で主人公などの容姿や服装に共通ないし類似する部分があると認めつつも、侵害の立証としては不十分としています。限界は示されていませんが、一般的な同人誌で(少なくとも主人公などの容姿や服装が共通しているだけでは)複製権侵害と認定されるケースはまれではないかと思われます。
―― 二次創作同人誌であっても「二次的著作権が成立し得る」と明言されたのは大きいですね。
上岡弁護士:そういうことになります。ただし、今回のケースはあくまで「同人作家と第三者の裁判」です。二次創作同人誌が“二次的著作物”だとすると、原著作物の著作権も及ぶという判例がありますので(※)、今後もし「原作者と同人作家の裁判」となった場合には、さまざまな点で異なる判断となる可能性はあります。
※キャンディ・キャンディ事件判決(最高裁第一小法廷平成13年10月25日判決)
―― 今回は知財高裁判決ですが、最高裁までもつれたり、今回の判断が覆ったりする可能性はあるのでしょうか。
上岡弁護士:最高裁に行くかどうかは当事者の意思で決めることですが、同人誌が著作権侵害だという主張は譲れないからこそ地裁、高裁と主張してきたのだと思われますので、行くところまで行く可能性は高いと見ています。今回、最高裁で勝敗が覆る可能性は低いと思います。ただし、本判決には他の事件で誤解を招きそうな記載もあり、最高裁が手を加えることはあるかもしれません。
原作者側との裁判になった場合は判断が変わる可能性も
上岡弁護士の説明にもあった通り、今回の裁判はあくまで同人作家と第三者による争いであり、今後もし、同人作家と原作者側で争った場合にはまた違った判断が下される可能性があるという点には注意が必要です(同人誌が二次的著作物と判断された場合、原作者側も作品に対し権利を行使できるため)。とはいえ、これまで法的位置づけがあいまいだった二次創作同人誌について明確な法的判断が示されたという点では、画期的な判決であることに間違いはなさそうです。
なお、今回の控訴審では原告側も賠償額の引き上げ(約219万円→1000万円)を求めて控訴していましたが、こちらも一審の判断が妥当だったとして棄却されています。
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