やじうまミニレビュー

「ThinkPad トラックポイント キーボード II」を旧製品と使い比べてわかったこととは?

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。
「ThinkPad トラックポイント キーボード II」。型番は「KC-1957」。実売価格は1万5,950円

 レノボ・ジャパンの「ThinkPad トラックポイント キーボード II」は、2020年春に発売された、ThinkPadシリーズと同等の構造を持つキーボードだ。2013年発売の「ThinkPad Bluetooth ワイヤレス・トラックポイント・キーボード」の後継にあたり、Bluetoothと2.4GHz帯(USBドングル使用)の独自方式の2つの接続方法をサポートすることが特徴だ。

 ホームポジションに指を置いたまま、人差し指を使ってのマウスポインタの操作を可能にする「赤ポッチ」ことトラックポイントは、ThinkPadシリーズで代々受け継がれている象徴的なポインティングデバイスだ。

 そのトラックポイントを搭載した本製品は、ThinkPad以外のモデルで、ThinkPadの操作性を実現したいユーザーにとって、待望の外付けキーボードだ。製品供給が安定してきた昨年(2020年)末になってようやく購入するにいたったので、過去のキーボード、およびほぼ同じ構造を採用するThinkPad X1 Carbon(2019)などと比較しつつ、レビューをお届けする。

ThinkPadの6段キーボードを独立させた製品

 本製品は、現行のThinkPadシリーズに採用されているアイソレーションキーボードを独立させたかのような製品だ。同社ではこれまでUSB接続モデルのほか、Bluetoothモデルをラインナップしていたが、今回の製品はBluetoothと2.4GHz帯の独自方式の2つの接続方法をサポートすることが特徴だ。

 キーボードはThinkPad本体と同じ6段タイプで、筆者が購入したのは日本語JIS配列のモデル。キー数は89で、キーピッチは縦横ともに19.05mm、キーストロークは1.8mmと、十分な値を確保している。重量は516gと10型クラスのタブレット並で、見かけよりずっしりとしている。

 本製品の先代に当たる「ThinkPad Bluetooth ワイヤレス・トラックポイント・キーボード」は、最上段のファンクションキー列が4つずつに区切られていなかったが、本製品は(Escキー+)F1~F4、F5~F8、F9~F12がそれぞれグループ化されている。隣のグループと区切りがやや空いているため、キーが見分けやすくなっている。

ThinkPadのキーボードだけを独立させたかのような構造。公称サイズは305.5×164×13.7mm(幅×奥行き×高さ)。重量は516g
テンキーは非搭載。またThinkPadでは下段に配置されているトラックパッドも非搭載だ
スタンドを使って角度をつけた状態。後述するようにスタンドはあまり強度がないので注意
スタンドをたたんでフラットに近い角度で使うこともできる
アイソレーションキーを採用。ストロークの深さはThinkPad本体のキーボードと同等だ
F4とF5、およびF8とF11の間に区切りが設けられており、ファンクションキーを押すときのミスタイプが減るよう工夫されている
ThinkPad本体で言うと、ThinkPad X1 Carbon(2019)(右)と同じ世代の製品ということになる
写真を半透明化してThinkPad X1 Carbon(2019)と重ねてみた。キートップの表記こそ一部異なるものの、配列はまったく同じだ
PgUp/Dnキーが上キーの左右にあること、またPrtScキーが下段にあるのは、ThinkPadのキーボードに慣れていないユーザーにとっては、ややなじみにくいこともありそうだ

 中央部にはThinkPadでおなじみの「赤ポッチ」ことトラックポイントが搭載されており、キーボードのホームポジションに指を置いたまま、人差し指を使ってマウスポインタを操作できる。一般的なタッチパッドよりも直感的に使えるという人も多いはずだ。

 キーボードの手前にはマウスの左右ボタンに相当するボタンがあり、その間には押しながらトラックポイントを上下に動かすことでスクロールが行なえる中央ボタンが搭載されている。これにより、キーボードのホームポジションに指を置いたまま、マウスポインタの移動、左右クリック、さらには上下スクロールといった、すべての操作が行なえる。

 ちなみに専用ドライバをインストールすれば、トラックポイントによるポインタの移動速度を調整できるほか、F12キーにアプリの起動や指定URLへのジャンプ、テキスト入力といった操作を割り当てられるようになる。ちょっとした隠し機能といったところだ。

ただしショートカットキーの登録には対応しないため、最下段にあるPrtScキーをこちらに移して使うといった用途に対応できず、また割り当てられると言ってもF12キーわずか1つだけなので、自由度はそう高くはない。おまけ程度に考えておいたほうがよいだろう。

ThinkPadの特徴であるトラックポイントを搭載。軽い力でマウスポインタを操れる
キーボード手前に左右ボタンを搭載。従来モデルよりもフラットになりやや扱いづらくなった(後述)
Windows用の専用ユーティリティをインストールするとポインタ速度の変更およびF12キーへの独自機能の割当が行なえる
F12キーは独自機能の割当が行なえる。ちなみに前述のThinkPad X1 Carbon(2019)などにも同じ機能がある

Bluetooth/2.4GHz帯独自方式で切り替えて利用可能。Androidにも対応

 さて、本製品の大きな特徴となるのが接続方法だ。本製品にはUSBドングルが付属しており、これをPCのUSBポートに装着することで、2.4GHz帯を使っての接続、操作が行なえる。ペアリングの設定は必要ない。

 これだけならば普通なのだが、本製品はさらにBluetooth 5.0にも対応している。つまり2通りのワイヤレス接続が行なえるのだ。この2.4GHzとBluetoothは、背面のスライドスイッチによって切り替える仕組みになっている。

 この2つの接続方法をうまく活用すれば、2台のPCのうち1台はBluetoothでペアリング、もう1台はUSBドングルを挿しておき、背面スイッチで2台のPCを切り替えて使うことも可能になる。ソフトウェアを使わず、物理スイッチで切り替えられるのは直感的で便利だ。

 また同じく背面にあるスライドスイッチを切り替えることで、WindowsだけでなくAndroidデバイスのキー割り当ても利用できる。ちなみにノンサポートながらBluetooth経由でiPadの操作も可能だが、キー配置はかなり異なるため、ポインタの操作以外は、あまり実用的とは言えない。

 充電はUSB Type-Cケーブルで行なう。駆動時間は1日3時間×週5日の利用で約2カ月とされており、ワイヤレスキーボードとして決して長時間ではないが、実際に使ったかぎりでは、公称値よりも持ちは良いように感じられる。ちなみに従来モデルに当たる「ThinkPad Bluetooth ワイヤレス・トラックポイント・キーボード」は駆動時間は1カ月だったので、倍に伸びたことになる。

付属のUSBドングル。2.4GHz帯独自方式での接続が行なえる
USBドングルは背面に収納しておける。隣のUSB Type-Cポートは充電専用で、有線キーボードとして使えるわけではない
Bluetooth/2.4GHz帯独自方式の切替スイッチに加えて、キー配列をWindows/Androidで切り替えることもできる
側面には電源スイッチを備える。ちなみに電源オンは「○」ではなく「-」だ
F9~12キーの上段にはAndroid用のキー割当が印字されている。前述のThinkPad X1 Carbon(2019)との相違点の1つだ

ThinkPad本体や古い外付キーボードと比べた場合の違いは?

 ところで筆者は現在、ThinkPad X1 Carbon(2019)に、「ThinkPad USB トラックポイントキーボード」という、一昔前のThinkPadキーボードを接続して使用している。ThinkPadにThinkPadキーボードをつなげる妙なスタイルだが、マルチディスプレイを導入している関係上、キーボードは外付けのほうがレイアウトが自由に組めるという理由によるものだ。

 この「ThinkPad USB トラックポイントキーボード」は現行のアイソレーションタイプよりも前の、古いThinkPadと同じパンタグラフキー構造を持つ製品なのだが、これと比較すると、本製品の特徴がより見えてくるので、写真を交えつつ紹介したい。

筆者が常用している「ThinkPad USB トラックポイントキーボード(以下旧キーボードと表記)」。2009年発売の、Windows 10すら正式サポートしていない古い製品だ。型番は「55Y9024」
本製品との比較。同じThinkPadベースの外付キーボード(有線)だが、パームレスト部の有無など相違点も多い

 両製品を比較した上での本製品の利点は、ワイヤレスで、かつ前述のように接続方法が選べることだ。筐体も小型で、バッグのなかに入れて持ち歩くのも簡単だ。

 一方、キーボードの手前にパームレストがなく、手のひらの置き場所がないのは評価が分かれるところだろう。とくに膝の上などにキーボードを乗せて使う場合には、手のひらを支えられないため打鍵がしづらい。筆者個人としては、たとえスペースを取ろうがパームレストがあったほうが圧倒的に使いやすいと感じる。

 また前述のように本製品のファンクションキーは、F4とF5、およびF8とF11の間に区切りが設けられているが、左端、EscキーとF1キーの間隔は詰まったままで、F1やF2キーのミスタイプが起こりやすい。旧キーボードはここも抜かりなく対応している。

本製品はEscキーとF1キーの間に間隔がない
旧キーボードは間隔が空いておりミスタイプしにくい
ちなみに旧キーボードは、CapsLockキーの右端を一段下げることで、隣のAキーと識別しやすいよう工夫されている

 もう1つ違いとして目立つのは、本製品はキーボード手前の左右ボタンおよび中央ボタンが、よりフラットなデザインに変更されていることだ。

 これは旧キーボードはもちろん、本製品の1つ前の世代に当たる初代「ThinkPad Bluetooth ワイヤレス・トラックポイント・キーボード」と比較しても明らかなのだが、左右ボタン前方と中央ボタン後方の隆起がほぼなくなり、指先でこれら3つのキーの違いを判別しにくくなっている。

 このフラットなデザインはThinkPad X1 Carbon(2019)にも共通するもので、PC本体の薄型化が影響していると見られる。本製品はキーボード単品であり、フラットにする必要性はないのだが、部材を共通化する関係上、こうした仕様にせざるを得ないのだろう。使い勝手で言うとやや退化しているのは残念だ。

本製品の左右および中央ボタン。段差はほとんどない
旧キーボード。昔のThinkPadと同じ仕様で、指先だけでキーの種類を判別できるのが利点だ
こちらはThinkPad X1 Carbon(2019)。本製品と同じく、段差がほぼない仕様だ
こちらは3世代前、ThinkPad X1 Carbon(2016)。世代を重ねるごとに薄くなっているのがよくわかる

 と、左右ボタンおよび中央ボタンはややマイナスなのだが、一方で旧キーボードにこそかなわないものの、ThinkPad X1 Carbon(2019)よりも使いやすいのが、トラックポイントだ。

 現行のThinkPad X1 Carbonのトラックポイントのキャップは、高さがわずか2.7mmしかなく、ポインタを動かす操作はキャップを上下左右に「倒す」というよりも、「キー面と平行な向きに押す」とでも表現するような、独特の力の加え方になる。キーの高さがほとんどないため、倒しようがないのである。

 その点、本製品は付け根がかなり深く、キャップの背も5mmと高いため、かつてのThinkPadのような、トラックポイントを上下左右に「倒す」ことによる移動を可能にしている。じつに微妙な違いなのだが、実際にThinkPad X1 Carbon(2019)と使い比べてみると、操作のしやすさは本製品のほうが明らかに上だ。

トラックポイントのキャップの比較。左から、旧キーボード、本製品、ThinkPad X1 Carbon(2016)、ThinkPad X1 Carbon(2019)。それぞれ6.0mm、5.0mm、3.7mm、2.7mmとかなりの違いがある
裏面の比較。外付キーボード付属のキャップ(左2つ)とThinkPad付属のキャップ(右2つ)は、差し込む先の支柱の幅が異なるため互換性がない
キャップは簡単に取り外せる。ちなみに純正キャップの型番は「0A33908」
キャップを差し込む支柱の幅は約4.2mm。このサイズに合えば交換は原則可能だ

 ちなみに前述の旧キーボードは、このキャップの高さが6.0mmと本製品より背が高いため、交換するとさらに露骨に「倒して移動」できるようになる。交換用のキャップは10個入って千円程度で入手できるので、費用対効果も高い。

 ThinkPadを代々使い続けているユーザーも、知らず知らずのうちにトラックポイントを「上下左右に倒す」ではなく「キー面と平行な向きに押す」という操作方法になっているはずで、軽く倒してポインタがヒュッと動くかつての操作性を味わいたければ、試す価値はあるだろう。

標準添付のままだとキャップの高さはキートップとほぼ平行だ
旧キーボードのキャップと交換した状態。1mmの違いだが、背が高くなることで操作しやすくなる。ちなみに型番は「73P1948」

トラックポイントつきでは最高峰だが過去の利用体験で評価は分かれる

 以上のように本製品は、ThinkPadのキーボードの使い勝手そのままに単体のキーボードとして独立させた製品で、かつBluetoothと2.4GHz帯独自方式に両対応するなどの付加価値もある。

 そもそもトラックポイントを備えた外付けキーボードは希少で、それゆえ貴重な選択肢だ。発売直後は品薄、かつ値引きもほとんどなかったが、最近は直販ストアのeクーポンが適用されるケースもあるので、そうした意味でも購入には適したタイミングと言える。

 ただしここまで見てきたように、世代を重ねてコストダウンの跡が見られるのも事実。現時点で入手できる最高峰の製品であることは間違いないが、これまでどのキーボードを使ってきたかでユーザーの評価は分かれるであろうことは、念頭に置いておいたほうがよさそうだ。

 なお筆者は今のところ問題なく使えているが、このThinkPadキーボードの折りたたみ式の脚部は代々折れやすく、直販サイトのユーザーレビューを見るかぎり、本製品においてもその傾向は変わっていないようだ。同製品に寄せられている低評価のほぼすべてはこのスタンドに関するものと、かなり極端だ。

 構造自体は従来と同じく、内側にパチンと折りたたむ構造なのだが、バッグに入れるときにうっかりスタンドを展開したままにしていて根元から外れたり折れたりすることがないよう、注意したほうがよいだろう。

スタンドは内側に折りたたむタイプ。不用意な方向から力が加わらないようにしたい