「隣の席が中国人でした。その後、なんか喉が痛くて咳が……」

【NG1:「新型コロナかも……」と救急外来を受診する】

「バスで隣の席が中国人だった。その後、なんか喉が痛くて咳が出る……新型コロナだったらどうしよう」

私が勤務する首都圏の医療現場には今のところ新型コロナ感染者は出ていない。だが、ここ数日、救急病院では、「自分は感染したのではないか」と半ばパニック状態になった人が駆け込んでくるケースがあるようだ。

「新型コロナ」を迅速に検査する方法はない。このため、PCR(Polymerase Chain Reaction)検査という「遺伝子を培養して増やしてから検査装置にかける」という方法をとるしかない。一般の病院ではこの検査装置がないことも多く、外部委託すると陽性・陰性の結果が出るまで最低2日間はかかる。そして、検査の結果、陽性であることがわかっても、「安静・栄養・水分・睡眠」といった一般的な風邪と同じ対症療法しかないのだ。

つまり「新型コロナかもしれない」と近所の救急病院を受診しても、上記のような説明をされてすごすごと引き返すことになる恐れが強い。医師仲間は「こうした受診者は深夜に病院にやってくることが多い」という。当直医も人間である。たとえば午後11時・午前1時・3時……のようなペースで同じような症状を訴える患者がやってくれば、午前3時頃にはぶっきらぼうな対応になってしまうだろう。

撮影=筒井冨美
首都圏のある病院の感染症待機室の扉に貼りだされた紙

「職場には中国人客も多く、昨日から熱っぽい。新型コロナが心配」と思うならば、受診の前に保健所や病院に電話を入れるといい。「新型肺炎受け入れ指定病院」は全国で急速に整備されつつあるが、状態は流動的である。ネットで公表された病院に押しかけてもすでに満床の恐れもある。保健所や病院、もしくは国が運営する救急安心センター(#7119)に電話で相談するといいだろう。

【NG2:新型コロナ情報をSNSで拡散する】

2003年のSARSコロナウイルス、2009年の新型インフルエンザ、2015年のMERSコロナウイルスと、新型ウイルスは定期的に流行している。それ以前にも、1918年の「スペイン風邪の世界的流行」のように突然変異ウイルスによるパンデミック(感染爆発)が存在した。

近年は、頻繁に流行しているように感じられるが、これは「遺伝子解析技術の進歩に伴い、新型ウイルスが発見されやすくなった」ことも背景にある。以前なら、医師が「今年の風邪は重い人が多いなぁ」と診断していた現象が、「新型○○ウイルスの流行」と確定診断できるようになったということだ。

今回の新型コロナは、「SNS」という社会環境が整っているという意味において、SARSコロナやMERSコロナのような過去の事例とは明らかに違う。テレビで繰り返し報道される「武漢市の病院にあふれる民衆」「防護服を着て治療にあたる医師」に加えて、ネットを検索すると「武漢市の病院で病院廊下に放置されている遺体」のようなショッキングな写真が見つかる。

さらに、ツイッターなどでは「新型コロナは中国がバイオ兵器として開発したウイルスが漏れた」「武漢市では実は10万人が感染している」「中国共産党政府が必死に隠蔽いんぺい」といった、真偽不明の情報があふれている。

「中国の友人から聞いた話」としてそれらしく書かれているケースも多い。しかし、そうした人が過去にどんな記事を発信していたかを調べるといい。

たとえば2011年の福島第一原発事故では、「東日本は人間が住めなくなる」「放射線障害で○○人死んだ」といったデマが流された。今回の新型コロナでも、過去にそうした情報を発信していた人が、真偽不明の情報を書いていることが多い。「福島産の桃を食べて白血病になった人がいる」のような無責任なデマは、その後の復興を妨げた。同様の過ちを繰り返すべきではない。

デマを最初に書き込んだ人は「名誉毀損きそん罪」「業務妨害罪」などの罪に問われる恐れがある。それだけではない。デマを拡散した人も損害賠償請求の対象となる恐れがある。一般人は真偽不明の情報の拡散には手を出さないほうが無難である。