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JTB、東京オリンピック中に横浜港で客船を「ホテルシップ」に。五輪観戦券付きツアー発売へ、2泊3日で7万円から

客室1011室の「サン・プリンセス」使用

2018年6月25日 発表

2019年春 発売予定

2020年7月23日~8月10日 提供

JTBは2020年の東京オリンピック期間中に、横浜港に停泊した「サン・プリンセス」をホテルとして利用する「ホテルシップ」事業の実施を発表した

 JTBは6月25日、横浜港に停泊中の客船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で記者会見を開き、2020年東京オリンピック期間中に、プリンセス・クルーズが運航する7万トン級客船「サン・プリンセス」をホテルとして活用する「ホテルシップ」事業の実施を発表した。2019年春にホテルシップとオリンピック観戦券をセットにした旅行商品として発売する予定。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピック期間中には、東京都近郊を中心に宿泊需給が逼迫するとの予測があり、その対策として2017年6月に内閣官房に設置された「クルーズ船のホテルとしての活用に関する分科会」で協議され、2018年5月16日に厚生労働省より発出された「2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けた通知」に基づくもの。これまで法解釈が曖昧だった旅館業法に則った形で、旅行商品として発売する日本初の取り組みとなる。

 法解釈については、例えば、旅館業法では窓がない部屋が認められていない。JTBが実施するホテルシップでは、1011室を有するプリンセス・クルーズの7万トン級客船「サン・プリンセス」を停泊させてホテルとして活用することが発表されているが、この船には408室の窓なし部屋があるため、旅館業法に基づく厳密な運営をすると収益性に課題があった。この課題に対し、5月に、窓のない客室でも自治体の判断で営業可能との厚生労働省の判断が出たことで、この408室の窓なし客室も利用できるようになる、といった背景がある。

 説明にあたったJTB 常務取締役 法人事業本部長の皆見薫氏は、「JTBでは中期的ビジョンのなかで、お客さまや各種業界、社会が抱える抱えるさまざまな課題を解決することでJTBならではの価値を提供していくことを目指している。いずれの地域においても、世界規模のスポーツイベントや大型MICEの開催は、人流拡大や経済活性化に直結する」とコンセプトを掲げ、「規模が大きければ大きいほど、宿泊客室数の不足が大きな課題でもある。一方で、船舶を宿泊施設として活用する事例は海外では数多くあるものの、日本ではこれまで法解釈が曖昧で、積極的にトライできなかった」との認識を示し、過去のオリンピックにおいてホテルシップが活用されているとの事例を紹介した。

株式会社JTB 常務取締役 法人事業本部長 皆見薫氏
株式会社JTB 法人事業本部 事業推進担当部長 鈴木章敬氏
過去のオリンピックでのホテルシップ活用事例

 今回の発表ではホテルシップの事業を行なうことと、使用する港、船舶が発表され、実際の商品については2019年春の発売を目指して造成されることになる。JTB 法人事業本部 事業推進担当部長の鈴木章敬氏は、「宿泊供給不足に対して、お客さまの課題を解決することと、地域大型イベント、とくにMICEが開催される場合の地域自治体における社会課題の解決の2点を、オリンピックを契機にしたホテルシップで解決を図りたい」と話す。

 ホテルシップの実施地として横浜港を選択した理由としては、「約160年間の歴史があり、クルーズポートとしても大きな港に成長。横浜港のイメージを大切にしたいと考えている。客船の寄港が15年連続日本一で、受け入れ体制も万全」と説明。「ホテルシップに泊まるだけでなく、この場所に来て、この場所にいること、空間を共有すること自体がオリンピックを感じられる場所になれるように、横浜市と『みなとの賑わい』を作りたい」とした。

 そのホテルシップの魅力は、「ホテルシップに泊まることそのものに特別感がある」「料金に含まれるメインダイニングで好きなときに飲食できる」「1つの箱のなかで一体となってスポーツを盛り上げる、絆を感じられる場所になるのでは」「港全体を巻き込んでオリンピックムードを盛り上げたい」の4つを挙げた。

係留を予定する山下埠頭(大さん橋のC/Dバースに停泊中のダイヤモンド・プリンセスから撮影)
横浜港を選んだ理由
横浜市が策定している「横浜ビジョン」の柱のうち、「横浜を世界に魅せる」にJTBの思いが合致したという
ホテルシップによって社会的な2つの課題解決を図る
オリンピックムードを高めるなど山下埠頭の賑わいの創出も図る
ホテルシップの4つの魅力
ホテルシップに宿泊する特別感
料金に含まれるレストランで好きなときに飲食
船のなかで一体感を持ってオリンピックを盛り上がれる
山下埠頭の「みなとの賑わい」でホテルシップならではのオリンピックムードを創出
横浜を選んだ理由の1つにも挙げられたオリンピック競技開催地へのアクセス利便性

 使用する船舶は先述のとおりサン・プリンセスで、客室数は1108室、乗船可能人数は2022名。鈴木氏は「日本にある1000室以上のホテルは10施設ほど。それがオリンピック期間中に山下埠頭に現われる」と意義を説明。

 サン・プリンセスを運航するプリンセス・クルーズは、2013年に外国船籍の大型客船としては初めて日本発クルーズを実施した会社であり、そのときに使用された船がサン・プリンセスでもある。鈴木氏はサン・プリンセスをチャーターした理由の1つに「日本人に対するサービスがレストランを含めて充実している」と説明する。

 このほか、「クルーズに初めて乗られる方に馴染みやすい料金帯で、クルーズがよいものだと分かっていただけるようなプレミアム船を選択」「2019年4月にサン・プリンセスをチャーターした98日間の世界周遊クルーズを実施する」といった点も理由として挙げた(関連記事「JTB、188万円からの98日間世界一周クルーズ、2018年1月発売 髙橋社長『誰でも手が届く世界一周旅行を実現したい』」」)。後者については「98日間のクルーズで知見を集め、もう1度、ホテルシップでどのようなサービスをしたらよいのか理解を深めながら2020年を迎えたい」と話した。

サン・プリンセス。現在はドックインして大幅な改装を実施している。写真は2011年10月22日の横浜寄港時に撮影したもの
サン・プリンセスの主な仕様と特徴
サン・プリンセスの客室
日本人のニーズに合わせたサービスを提供
プレミアム客船であることもサン・プリンセスを選択した理由に挙げた
JTBでは2019年4月に、サン・プリンセスをチャーターした98日間の世界周遊クルーズを行なう

 旅行商品の大枠は、東京オリンピック開幕前日の7月23日から、閉幕式翌日の8月10日まで、18泊19日をチャーター期間とし、旅行商品としては2泊3日をパッケージとして、9回に分けて実施。さらに、JTBはオフィシャルパートナーとして、日本国内の観戦券をセットにした商品を販売する権利を有していることから、観戦券セットの旅行商品を計画している。

 価格帯は窓なし客室で7万円から、スイート利用の60万円台までを想定。観戦券セットの扱いが日本国内に限定されることから、日本人客が中心になると想定している。ただし、外国人が日本国内で購入することに対しては問題ないとした。

 ちなみに、外航船への乗船となるが、そのまま国内へ下船することが前提となるため免税販売は行なわれない。また、日本の公海上であるため船内のカジノも利用できない。そのほかのサービスに関しては、船内エンタテイメントや料金に含まれるレストラン、有料レストランなど、「航海中の船と同じサービスを受けられる」としている。

スイート客室の紹介
ジュニア・スイート客室の紹介
海側バルコニー付き客室の紹介
海側窓付き客室の紹介
内側窓なし客室の紹介
ツアー行程のイメージ。1日目はチェックインをして、夜に船内のエンタテイメントなどを楽しむ
ツアー行程2日は船内で楽しむのものよいが、基本的にはオリンピック観戦を中心に据えるという
販売は2泊3日をパッケージにして、7月23日~8月10日に9回実施する

ホテルシップは「東京オリンピック・パラリンピックの有益なレガシーに」

会見は横浜港大さん橋国際客船ターミナルに停泊するダイヤモンド・プリンセス船内で行なわれた
株式会社JTB 代表取締役社長 髙橋広行氏

 会見であいさつしたJTB 代表取締役社長 髙橋広行氏は「チャーターするサン・プリンセスは7万7000トン、総客室は1011室、1泊あたり2022名が宿泊可能。ホテルシップは、かねてより懸念されていた東京オリンピック期間中の宿泊施設不足解消に資するもの」とし、「全国各地域において、大規模なMICEや世界規模のスポーツイベントの際でも宿泊施設の確保は課題となっていた。ホテルシップはエンタテイメント付きのユニークベニューとしてさまざまな活用が期待でき、こうした課題を解決するコンテンツそのものにもなり得ると確信している」と事業の将来性の高さにも言及。

 さらに、「実施期間中は、係留する山下埠頭周辺をオリンピックを感じられる場所にしていきたいと思っている。今後、横浜市と連携し、上船するお客さまだけでなく、横浜市民や観光で横浜を訪れる人にもオリンピックの雰囲気や熱気、ハーバーリゾート横浜を体験いただける場を創出して、観光新興や地域活性化にも貢献したい」とオリンピックの盛り上げや横浜市への貢献を目指すとともに、「そしてホテルシップを東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のレガシーの一つとして、後世に残したい」との意欲も示した。

 一方、会見後の囲み取材では、山下埠頭について「(鉄道の)駅まで交通確保」を課題に挙げる。その対策として「港から駅に接続する地点までをループバスで巡回させるなど、利便性を確保する必要がある」との認識を示し、横浜市と検討を進めるとした。

横浜市長 林文子氏

 受け入れ先となる横浜市長 林文子氏は「数ある港のなかから横浜港をお選びいただいたことを光栄に思っている。これまでにない、ユニークな、そして魅力的な宿泊施設として多くの方々にホテルシップを楽しんでいただけるように、しっかりと横浜市は皆さまと手を携えて取り組んでいく」とあいさつ。サン・プリンセスは2013年4月に初の日本発クルーズに出発する際のセレモニーで乗船した思い出があるなど、プリンセス・クルーズとJTBを「またとない横浜市のパートナー」と話した。

 オリンピックに向けては、「横浜を訪れる方々に、競技はもちろん、街の魅力も楽しんでもらえるように、またホテルシップを通じて客船の魅力に触れていただけるように努力していく。スポーツの機運醸成や文化プログラムの開催、街の環境整備に加えて、客船受け入れは大さん橋に加えて新港埠頭や大黒ふ頭で新たな施設整備が進んでいる。万全の体制でお迎えする予定。ホテルシップが実施される山下埠頭では、ハーバーリゾートの形成に向けて再開発を推進している。併せて街中での観光やグルメ、エンタテイメントをもっとお楽しみいただけるように、待ちの魅力作りやツアーの開発にも取り組んでいく」と、さまざまな取り組みを行なう方針。

 さらに、全国クルーズ活性化会議の会長も務める立場から、「全国の港、クルーズの振興に力を尽くしているが、今回のホテルシップは年々拡大するクルーズ人気の裾野を広げる絶好の機会。多くの方にホテルシップを利用していただき、客船の魅力を直に感じていただきたい」とも話した。

握手を交わす株式会社JTB 代表取締役社長 髙橋広行氏と横浜市長 林文子氏
国土交通省 港湾局長 菊地身智雄氏

 続いて登壇した国土交通省 港湾局長 菊地身智雄氏は、2017年の客船寄港が前年比37%増の2764回、客船による訪日客数が同27%増の253万人と過去最高になったことや、港湾局が事務局となって客船をホテルとして活用するための方策について検討を進めてきたことを紹介し、「JTBが事業主体となり、横浜港におけるホテルシップ実施を決定したことは、政府としてもうれしい、大きな出来事だと思っている」と評価。

 使用するサン・プリンセスについても、「2013年に外国船として先駆けて、大型客船による日本発着クルーズを、横浜港でスタートしていただいたプリンセス・クルーズのサン・プリンセスだとうかがった。我が国の近年のクルーズ活性化を象徴するような決定」との感想を述べた。

 国交省では、このホテルシップの取り組みについて、「我が国で開催されるさまざまなイベント開催時も活用可能な制度として、今回作らせていただいた。まさに東京オリンピック・パラリンピックの大きなレガシーになるもの」とし、「その意味でも、横浜港でホテルシップが決定したこと、成功を祈念したい」と話した。

プリンセス・クルーズ アジア太平洋地区 コマーシャル・オペレーション担当 シニア・ヴァイス・プレジデント スチュアート・アリソン氏

 最後に、サン・プリンセスを運航するプリンセス・クルーズ アジア太平洋地区 コマーシャル・オペレーション担当 シニア・ヴァイス・プレジデントのスチュアート・アリソン氏が登壇。プリンセス・クルーズが日本向けサービスを充実させていることや、日本における6年間のクルーズツアー実施によって欧米豪の旅客もクルーズ旅を目当てに日本を訪れているなど、日本への貢献を語った。

 併せて、JTBが2019年4月に実施する、プリンセス・クルーズにとっても初めてのアジア発世界周遊クルーズとなるサン・プリンセスによるツアーに続いてのJTBのパートナーシップ締結であり、「これらのプロジェクトが、世界で最も重要な販売パートナーの1社であるJTBとの関係を、より強固にするものと思っている」とコメント。

 さらに、横浜市に対しても「日本における初のホテルシップが横浜に停泊できることをうれしく思う。横浜は6年前にプリンセス・クルーズが初の日本発のクルーズを開始したところであり、ホームポートだと思っている」と愛着を見せた。