豪快なプレーやユニークなパフォーマンスでプロ野球を沸かせてくれる外国人選手たち。ただ、異国の地で活躍するには球団通訳の存在が欠かせない。ロッテのスペイン語通訳を務める阿久津英之さん(25)は、少年時代のある「出会い」をきっかけに通訳になる夢を抱き、それから約15年後に実現させた。

 阿久津さんが初めてプロ野球を見に行ったのは2004年夏、少年野球チームに入っていた9歳のころだった。自宅のある栃木県日光市から、家族4人で車に乗って東京の神宮球場へ向かった。

 球場に入ると、目の前には想像以上に大きなグラウンドが広がっていて、鳥肌が立った。家族で一塁側のベンチ上の席に座り、テレビで見ていた選手たちが歩く姿をフェンス越しに眺めていた。その中で、ある選手を見つけた。

 当時ヤクルトに所属していたアレックス・ラミレス選手。ベネズエラ出身で豪快なスイングが持ち味だ。本塁打を放つと、お笑いタレントの志村けんさん(3月29日死去)のギャグ「アイーン」を披露するなど陽気な姿も好きだった。興奮を抑えきれなかった阿久津さんは、フェンスをつかんで叫んだ。

 「ラミレス、グラブちょうだい!」

 ラミレス選手は、その声に気づいた。そして阿久津さんを見つけると、そばにいた球団通訳に何かつぶやいた。通訳は阿久津さんに向かって「ラミレスが『スペイン語で言えるようになったらあげるね』と言っているよ」と訳してくれた。