プラモデルが売れている。新型コロナウイルスによる「巣ごもり需要」とみられ、関連商品の売り上げも伸びたという。あの人気アニメもプラモ化され、模型ファンの拡大が期待される。ただ、各メーカーのトップらに聞くと、必ずしも順風満帆でもないようだ。

 「前年比で30%以上増えた。生産が間に合わず、世界的に商品が足りない」と語るのは、模型大手タミヤ(静岡市駿河区)の田宮俊作会長だ。プラモデルに携わって半世紀以上だが、「僕が30~40代で設計した船の模型も売れている。こんなことは初めて」と驚きを隠さない。

 タミヤによると、プラモデルやラジコン、ミニ四駆だけでなく、工具のニッパーや塗料、接着剤などが全体的に売れており、一部で品薄が続いているという。担当者は「外出が減り、家でプラモを作り始めた人が多いのでは」と推測する。コロナで海外工場の稼働が制限されたため、国内では新たな従業員も募集したという。

 自動車模型で有名な青島文化教材社(静岡市葵区)では、塗装や接着剤が不要の初心者向けプラモが前年比で約5倍の売れ行きだという。トヨタ2000GTやジムニーといった商品で、青嶋大輔社長は「子どもや初心者が手を延ばしたのでは」とみる。

 模型ファンは40代以上が多く、高齢化が業界の悩みの種だった。コロナで新製品を発表するホビーショーや子ども向けの模型教室などが相次いで中止となり、若いファンを増やす機会が減ったことにも危機感が広がっていた。そんな中で到来したブームに、青嶋社長は「模型店が減り、プラモがどこで買えるか知らない子も多かった。手にする機会があれば楽しんでもらえる」と期待を見せる。

 予期せぬ人気により、品薄も続いている。

 航空機の模型が得意なハセガワ(静岡県焼津市)の長谷川勝人社長のもとには、取引先の模型店から「ここ10年で一番売れた。店を閉めなくてよかった」「みんな困っているのに、明るい話で申し訳ない」といった声が届く。しかし「受注量の6割しか出荷できていない」とも言う。

■「プラモがあってもデカールがない」、店に商品が回らず

 特に足りないのは、模型の塗装やマークを表現するデカール(転写シール)だ。メーカーが数社しかなく、長谷川社長は「プラモがあってもデカールの生産が追いつかず、箱詰めができない」と明かす。

 静岡市駿河区で模型店カワイモデルズを経営する川合太郎さん(42)は、5月から店内に「ガンプラは同一商品、お一人様各1個まで」と掲示した。「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモ(ガンプラ)は接着剤や塗料が不要で初心者にも作りやすいが、品薄になるのも早く、高額なネット転売も増えた。表示は「転売防止策」だ。

 店は親子連れや女性客が1割ほど増えたといい、売り上げも前年を上回った。しかし川合さんは「メーカーほど好調ではなく、取りこぼしている感がある」。問屋でも品薄で店にはほとんど入荷せず、「客が来ても買いたいものがない」。別の模型店経営者も「巣ごもりで売れたのは最初だけで、最近は商品がないので売り上げにならない」とぼやく。

 業界で注目の新商品は、劇場版が記録的な興行成績をあげたアニメ「鬼滅の刃」の主人公・竈門(かまど)炭治郎のプラモだ。幅広い年代に受ける作品で、川合さんは「模型ファンの裾野が広がるのでは」と期待するが、「せっかくのクリスマス商戦なのに、ほとんど入荷できなかった」。

 川合さんは「がっかりして帰る客もいた。コロナ禍が終わっても、新しいファンにとどまってもらうことを意識して出荷してほしい」と期待している。(矢吹孝文)