【新潟】社員による不正入室、安全対策工事の未完了といった一連の問題を受け、東京電力は26日、柏崎刈羽原発7号機の検査日程を「未定」と変更した。当初の予定では、今春に原子炉を起動、6月にも営業運転ができる工程が示されていたが、再稼働への道筋は事実上、白紙に戻ることになった。

 「残念なことだが、驚きはない」。柏崎市の桜井雅浩市長は26日夕、再稼働の日程が「未定」となったことを受け、市長室で取材に対し語った。「条件付き再稼働容認」の立場の桜井市長は25日、市議会での施政方針演説で、再稼働への日程を「見込みもつなかいような状況」と述べたばかりだった。桜井市長は「正確な事実確認と、責任の所在の明確化が必要。誰もが納得するような形で示さなければならない」と述べた。

 市民団体「原発を再稼働させない柏崎刈羽の会」の一員としてこの日、東電に「保安規定の認可の返上」を申し入れた星野幸彦・柏崎市議は「未定になったのは当然だ。これまで不祥事のたびに謝罪や対応策の発表が繰り返されてきたが、思い切ったことをしなければ市民の信頼は得られない。その一番は再稼働の断念だ」と語った。

 東電が昨年11月に原子力規制委員会に提出した使用前確認申請書の工程表では、①2月末までに燃料装荷前の検査を終了②燃料装荷後の検査を3~4月に実施③その後、原子炉を起動して発電設備全体の健全性を確認④6月に営業運転開始、と記されていた。

 不正入室問題発覚後、東電が1月25日から2月12日まで県内5カ所で開いた地域説明会では、日程に言及する場面は少なかった。2月9日に上越市で行われた説明会では、石井武生原発所長が「(検査は)今後しっかりと工事が完了してからになると思います」と述べていた。

 東電は26日、使用前確認申請の変更申請を行ったことを公表。「一部の工事未完了を受けて、検査のスケジュールを精査したところ、現時点で当初の予定の見通しが立たなくなった」との見解を発表した。

 東電は3月10日までに不正入室問題の原因分析や再発防止策などを提出するよう規制委に求められている。東電は今後について「工程を進められる状況になったら、改めて日程を明記して変更申請を行う」とするが、時期は「未定」としている。(戸松康雄)

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 東京電力は26日、柏崎刈羽原発7号機で、新たな安全対策工事の未完了が1件判明したと発表した。重大事故時に原子炉へ注水を行う「高圧代替注水系」(HPAC)の配管が床を貫通する部分に、水漏れを防ぐための工事が施されていなかった。未完了の工事は3件となった。

 注水設備の工事は昨年9月末に完了した。貫通部分には火災防護と止水の工事が施されたはずだったが、25日夕、火災防護だけだったことがわかった。

 安全対策工事は1月13日に「12日に完了した」と発表されていたが、同27日に6・7号機が共用する中央制御室の空調施設で、空気の流出を防ぐ装置「ダンパー」が設置されていなかったことが判明。その後、東電が確認を進めたところ、原子炉建屋の通路の火災感知器5台も設置されていないこともわかった。

 東電によると、火災感知器の設置工事は19日に終了したが、ダンパーの設置工事は現在、設計段階でまだ行われていないという。(戸松康雄)

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 柏崎刈羽原発の相次ぐ問題をめぐっては、26日に開かれた県議会の代表質問でも東電や国への厳しい意見が与野党から相次いだ。

 自民党県連の小野峯生幹事長は不正入室や安全対策工事の未完了など問題が頻発していることを挙げて「地元の信頼が失墜している」と批判。原発を動かす企業の「適格性」について、原子力規制委員会に再審査を求めるべきだと知事にただした。花角英世知事は規制委による追加検査の結果をまずは確認する、としたうえで「このような事態を受けて東電の管理能力について改めて評価すべきだ」と述べた。

 立憲民主党県連の大渕健幹事長(未来にいがた)は原子力規制庁が不正入室問題を規制委にすぐに報告しなかった点に触れ、「知事は原発が存在する自治体の長として厳しい姿勢で臨むべきだ。国に従うばかりなのか」と迫った。花角知事は「県民の命と暮らしを守ることを第一に対応する」と述べるにとどまった。

 また、小野幹事長は「三つの検証」の検証総括委員会のあり方にも言及。池内了委員長(名古屋大名誉教授)が、最終報告書に再稼働に関する参考意見を付けることや、検証過程で県民から意見を募る考えを示していることから「知事が求めないことを行うのは越権行為だ。再任すべきではない」と要求した。花角知事は「検証が継続しているため再任をお願いする。検証総括委の任務はそれぞれの検証に矛盾がないかをまとめてもらうこと」との認識を示した。(長橋亮文)

■柏崎刈羽原発をめぐる問題の経緯

【2020年】

9月20日 東電社員が他人のIDカードで不正に中央制御室に入る

  21日 不正入室が発覚、東電が規制庁に報告

  23日 規制委が東電の「適格性」を認め、保安規定の基本姿勢を了承

10月14日 規制委が安全対策に関する設備の詳細設計を認可

  30日 規制委が保安規定を認可、国の審査が終了

 11月6日 東電が使用前確認申請書を規制委に提出

【2021年】

1月13日 安全対策工事が12日に完了と東電が発表

  19日 規制庁が不正入室問題を規制委員長に報告

  23日 報道で不正入室問題が明らかに

  27日 6・7号機共用の中央制御室の空調施設で工事の一部未完了が判明

2月15日 7号機原子炉建屋の火災感知器設置工事の未完了を東電が発表

  26日 7号機原子炉建屋の配管周辺の止水工事の未完了を東電が発表

  26日 東電が使用前確認申請書の変更を規制委に申請