日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は9日の記者会見で、温室効果ガス削減などの政府の温暖化対策目標は「日本の実情を踏まえておらず、欧州の流れに沿ったやり方だ」と批判。日本の自動車産業は「550万人の大半の雇用を失う可能性がある」として、産業維持に向けた課題を10月に示す考えを示した。

 1千万台の国内生産の維持と雇用確保に向けて、産業として必要なエネルギー量や二酸化炭素の排出量、投資や研究開発などの課題を整理した上で、国内事業が成り立たなくなる場合に必要な国の支援策や財源も検討するという。

 再生可能エネルギー比率の引き上げなどを掲げた政府のエネルギー基本計画案についても、自工会は、2030年の目標実現には再生エネルギー関連だけで25兆円以上の追加投資が必要で、電力の安定供給にも毎年1兆円以上かかる可能性があるとの試算を示した。豊田氏は「コストの議論は見えてこない。全て実行するのは民間で、と言っているように聞こえる」と苦言を呈した。

 各国は脱炭素に向け、排ガスを出さない電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)に切り替える政策を進めている。欧州連合は、2035年にガソリン車の新車販売を事実上禁止する。バイデン米大統領は、2030年に新車販売の半分を「排ガスゼロ車」にする大統領令に署名した。日本も2035年までに、乗用車の国内新車販売を全て電動車にする目標を掲げる。

 日本は現在、国内生産1千万台の約半分を輸出しているが、自工会の試算では、EVとFCVの生産台数は2030年時点で200万台に満たない。豊田氏は「800万台以上の生産台数が失われる」と強調。「輸出で成り立っている日本にとって、カーボンニュートラルは雇用問題であるということは忘れてはいけない」とした。

 豊田氏は自民党総裁選にも触れ、「一部の政治家からは、全てEVにすればよいんだとか、製造業は時代遅れだ、という声を聞くことがあるが、違うと思う」と牽制(けんせい)した。(福田直之)