田辺三菱製薬(大阪市)は30日、タバコ属の植物を使った新型コロナウイルスワクチンについて、10月から国内で臨床試験(治験)を始めると発表した。ヒト向けの植物由来のワクチンは世界初。低コストで大量生産が可能だという。来年3月にも国に承認申請し、2023年3月までの実用化を目指す。

 ワクチンは、同社のカナダの子会社「メディカゴ」が開発している。すでに北米や英国などでは約2万4千人を対象に最終段階の治験をしており、まずはカナダで年内の実用化を目指している。これまでの治験では、感染から回復した患者の10倍以上の中和抗体が確認されており、重篤な副反応は出ていないという。

 ウイルスの構造を模倣した「VLP(ウイルス様粒子)」という物質をワクチンとして使う仕組み。タバコ属の植物の葉にウイルスの遺伝子を組み込み、葉の細胞でVLPを生成。4~6日後に収穫して抽出、精製する。

 タバコ属の植物は成長が早く、VLPを短期間で増やせる利点がある。それによってワクチンの生産に必要な期間が5~6週間ですみ、変異株にもすばやく対応できるという。また、既存のコロナワクチンは基本的に冷凍保存が必要だが、メディカゴ製は冷蔵で保管できるため輸送工程のコストも減らせる。

 日本では145人を対象に治験を実施し、日本人に対する安全性と有効性を確認する。海外の大規模治験のデータと合わせて承認申請する予定だ。

 現在は米国で年8千万回分を生産する能力がある。24年にはカナダの新工場を稼働させ、さらに年10億回分を生産できるようにする。日本で承認されれば、当面は輸入で対応し、将来的には国内での生産も検討するという。

 コロナワクチンは現在、国内では米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカの製品が承認されている。国内メーカーでは、塩野義製薬、第一三共、アンジェス、KMバイオロジクスが治験を進めている。(田中奏子)