英外相、海外市民旅券の香港人に「市民権も」 国家安全法めぐり

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画像説明, 香港では国家安全法をめぐる抗議デモが勃発している(5月27日)

イギリスのドミニク・ラーブ外相は28日、中国が反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の導入を停止しない場合、英国海外市民旅券を保有する香港人に対し、英市民権を獲得する道を開く可能性があると述べた。

英国海外市民旅券(BNO)とは、香港がイギリスの植民地だった時代に香港人に対して発行されたもので、イギリス人が保有する旅券とは異なる。

現在、約30万人の香港人がBNOを保有している。BNO保有者は、イギリスにビザなしで最長6カ月間滞在できる。

イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダの4カ国は28日、同日に中国で採択された国家安全法を批判する共同声明を発表。これに続くかたちで、ラーブ英外相の声明が発表された。

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国家安全法とは反逆や扇動、破壊行為などを禁止することを目的としたもので、中国が独自の治安機関を香港に設置できるとの規定も盛り込まれている。

英米など4カ国は、国家安全法の導入によって、1997年の香港返還前に英中が合意した「一国二制度」の枠組みを損なうと主張した。「一国二制度」は、2047年までは香港に高度な自治を認めるほか、中国大陸にはない権利や自由を与えるというもの。

中国側はこうした国外からの批判を一蹴している。

ビザなし滞在を延長、将来的な市民権獲得も

ラーブ英外相は、英国海外市民旅券(BNO)をめぐる方針を変更する可能性を明らかにした。

「中国が国家安全法導入という道を進み続け、実際に施行するのであれば、我々はBNO保有者に認めているビザなしでの英国滞在期間を6カ月から12カ月に延長し、就労や就学を申請するために英国へ渡航できるようにするだろう。また、滞在期間はさらなる延長が可能で、それ自体が将来的な英国市民権を獲得する手段を与えることになるだろう」

BBCのジェームズ・ランデール外交担当特派員によると、中国政府は脅威が拡大していると捉え、強固な対応につながる可能性が高いという。また、中国は一部の民主化活動家がイギリスへ逃れても気にしないかもしれないが、才能ある裕福なクリエイターたちがいなくなることは懸念材料だろうと指摘する。

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画像説明, ラーブ英外相は、BNO保有者に認めているビザなしでの英国滞在期間の制限を廃止する可能性を示唆した

市民権の自動的付与を求める声も

一部の下院議員からは、自動的に市民権を付与する方法を求める声が上がっている。下院外交委員会のトム・トゥゲンハート委員長(保守党)は、BNO保有者には自動的にイギリスに居住し就労する権利が与えられるべきだと述べた。

英政府はこれまで、香港のBNO保有者に対し完全な市民権を与えるよう求める声を一蹴してきた。

昨年、香港で10万人以上が完全な市民権を求める請願書に署名した。英政府はこれに対し、英国市民と一部の英連邦市民のみがイギリス居住権を持っているとし、BNO保有者への完全な市民権の付与は、香港返還時の中国との合意違反になると説明していた。

しかし1972年には、ウガンダの当時の大統領、イディ・アミン氏が国内のインド系やパキスタン系などのアジア人約6万人を国外追放した際、イギリスはBNOを保有する約3万人の亡命受け入れを申し出た。この時一部の英下院議員からは、インドが難民の責任を負うべきだとの声が上がったが、当時のエドワード・ヒース英首相は同国には難民を受け入れる義務があると述べた。

中国に対し強固な対応を

最大野党・労働党のリサ・ナンディー影の外相は先に、イギリスは中国政府に対してもっと強固な対応をしなければならないと述べていた。

ナンディー氏はBBCに対し、国家安全法は「我々が香港を中国に返還し、香港の特別な地位を保護した時に中国と署名した、連合声明を損なおうとし始めている中国による一連の試みの中の、直近の動きだ」と述べた。

「我々は、英政府が対応を本当に強化するところを見たい」

ジェレミー・ハント前外相は、香港で悲劇が起きるのを避けるために、各国と連携すべきだと述べた。

ハント氏はBBCに対し、「英中の合意の観点から見ると、間違いなくこれまでで最も危険な時期だ」と述べた。

「独特な法的状況を持つイギリスには、国際的に連携し、香港の人々を守るために自分たちにできることをする義務がある」

ボリス・ジョンソン英首相の報道官は28日、「我々は香港の安全保障に関連する中国の法律を深く懸念している」、「我々はこれまで、国家安全法が一国二制度の原則を損なう恐れがあると、非常に明確に示してきた」と述べた。

「この件について、国際的パートナーたちと緊密に連絡をとっている。また、ラーブ外相は昨夜、アメリカのポンペオ国務長官と話した」

さらに、「中国政府による措置は、英中の共同宣言を直接的な危険にさらし、香港の高度な自治を損なっている」と付け加えた。

この優遇特権が取り消されれば、香港は今後アメリカから、貿易やそのほかの目的において中国と同じ扱いを受ける可能性がある。そうなれば、貿易の中心としての香港の地位に大きな影響を与える恐れがある。