新型ウイルス、黒人やアジア人の致死リスク高い=英政府報告

NHS doctors

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イギリスのイングランド公衆衛生庁(PHE)が1日に発表した国内の新型コロナウイルスによる死者についての調査で、人種的マイノリティーの致死リスクが高かったことが明らかになった。

新型ウイルスについて最も大きなリスク要因は年齢で、その次に男性であることだという。

その上で、COVID-19の影響はアジア人やカリブ海出身者、黒人に対して「過度に大きかった」。しかし、その理由は明らかになっていない。

医師労組はこの調査について、人種的マイノリティーの医療従事者を守る「活動」を実行する「好機を逸した」ものと批判した。

一方、マット・ハンコック保健相は、この「心配な」報告は、「世界中で人種にまつわる不正義に人々が怒っている」中で発表されたため、「時宜にかなった」ものだとしている。

政府の最新発表によると、イギリスではこれまでに3万9369人が新型ウイルスによって亡くなっている。1日には324人が亡くなったほか、あらたに1613人の感染が確認された。

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報告書をめぐっては、アメリカで黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に首を圧迫されて死亡した事件を受けて世界各地で抗議が行われている中、この報告書がイギリスで社会不安を引き起こすとの懸念から発表が遅れているという指摘が出ていた。保健省は1日に、この指摘を否定している。

ハンコック保健相は下院で、市民が「不正義に怒りを覚えるのは当然だ」と発言。「パンデミックにより、イギリスの保健制度に大きな偏りがあることが浮き彫りになったことについて深く責任を感じている」と述べた。

「黒人の命は大切だし、健康調査結果が最も悪かった最貧困地域の住民の命も大切だ。こうした要素をすべて考慮に入れ、イギリス全土の健康水準を底上げする取り組みを確実に行う必要がある」

また、首相官邸での定例会見では、「この偏りの原因」を理解するために「もっと多くの調査」が必要だと話した。

「徹底的に調べつくし、ギャップを埋めることを固く決意している」

BBCのリアナ・クロックスフォード記者が人種的マイノリティーの人が取るべき行動はあるかと質問すると、ハンコック氏は報告書にある「個別のリスクカテゴリーに属する人は」全員、「非常に厳格に」他者と距離を取る施策を守るべきだと答えた。

調査の内容とは?

PHEは何千件もの健康記録やほかのウイルスの感染データなどを元に、どういった属性の人がより新型ウイルスにかかりやすいのかを調べた。

今回対象となった属性は以下の通り。

  • 年齢と性別
  • 居住地域
  • 貧困度
  • 人種
  • 基礎疾患や共存疾患の有無

データはそれぞれ異なった方法で採取されているため、すべての属性データを合わせて個人のリスクを判断することは不可能だ。しかしデータからは、明らかな不平等が浮き彫りになった。

ただ、人種とリスクについての分析では、対象者の職種や肥満の有無などは考慮されていない。どちらも、COVID-19で重症となるリスクに関わっていることが知られている要素だ。

このほか報告書では、以下のようなことが明らかになった。

  • 年齢と性別を除くと、バングラデシュをルーツとする人々の致死リスクが白人イギリス人より2倍高い
  • 80歳以上の人は、40歳未満の人より新型ウイルスで亡くなる可能性が70倍高い
  • COVID-19と診断された就業可能年齢に達している男性と女性では、男性の方が死亡する可能性が2倍高い
  • イギリスでは、貧困地域に住む人ほど、新型ウイルスでの致死率が高い
  • 警備員、タクシーやバスの運転手、建設作業員、介護スタッフなどが、特に致死リスクが高い
  • 白人イギリス人と比べた場合、黒人とアジア人の致死率が最も高かった
  • 中国系、インド系、パキスタン系、その他のアジア系、カリブ海出身者、黒人は、白人イギリス人と比べて致死リスクが10~50%高かった

ミシェル・ロバーツ健康担当編集長は、この調査には重要な欠陥があると指摘している。

職種や基礎疾患といった重要なリスクを考慮できていないほか、どのようにより多くの命を救うか、対策が書かれていないという。

「必ずしも人種が原因とは限らない」

検査の調整役を務めているジョン・ニュートン教授は、イギリスでは新型ウイルスの影響が最も大きいのは黒人や人種的マイノリティーの人々だが、職種などが関わっている可能性もあり、「必ずしも人種が原因とは限らない」と説明した。

また、調査結果は「何をすべきかを明確に決める前に広く議論されるべきだ」と述べた。

「この報告書は少なくとも、我々が見ている(新型コロナウイルス流行の)複雑さを強調している。人々には、結論に飛びつかず、データに基づかない対策を行わないよう求める」

ロンドンのサディク・カーン市長は、なぜ新型ウイルスが黒人や人種的マイノリティーに偏って影響を与えているのかや、これを食い止めるために政府がどのような取り組みをしていたのかを明らかにすることに、「人命がかかっている」と強調した。

「明確なガイダンスと支援」が必要

最大野党・労働党のキア・スターマー党首は、この報告書はリスクグループへのアドバイスを示していないと批判。「新型ウイルスが不平等を助長させ、不平等が怠慢を助長させている」と述べた。

王立産婦人科協会のジル・ウォルトン会長は、調査結果は「有用だが(中略)人々を守ることに寄与していない」と指摘した。

また、国民保健サービス(NHS)が従業員のリスクに立ち向かうためには政府からの「明確なガイダンスと支援」が必要だと話した。

王立看護協会も、医療従事者を守るためには「迅速かつ包括的な取り組み」が必要だと訴えている。

英医師会(BMA)のチャアンド・ナグポール会長は、「BMAや医師コミュニティーが必要としているのは、この問題に対する明確なアクションプランであり、すでに分かっていることの再確認ではない。実務的なガイダンスが必要だ」と強調した。

平等・人権委員会のレベッカ・ヒルセンラース委員長は、「市民は統計以上のもので、あらゆる地域にまん延する人種の不平等の文脈を無視することはできない。包括的な人種平等戦略だけが、こうした問題を解決できる」と話した。