ベラルーシ、旅客機を緊急着陸させ「ジャーナリスト拘束」 野党や欧米諸国が反発

Police officers detain a journalist Roman Protasevich attempting to cover a rally in Minsk, Belarus, 26 March 2017

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画像説明, 搭乗していた旅客機がミンスクに緊急着陸した後、拘束されたロマン・プロタセヴィッチ氏(中央、2017年撮影)

ギリシャからリトアニアに向かっていた欧州格安航空会社ライアンエアーの旅客機が23日、ベラルーシに緊急着陸させられた。搭乗していた反体制派ジャーナリストの拘束が目的だったと、活動家らは主張。欧米諸国はベラルーシ政府を激しく非難している。

ベラルーシのメディアなどによると、ライアンエアーのFR4987便はギリシャ・アテネからリトアニアの首都ヴィリニュスへと航行中だったが、リトアニアの空域に入る直前に、ミグ-29戦闘機によってミンスクへと誘導された。ギリシャとリトアニアの当局によると、同便には乗客171人が乗っていた。

緊急着陸後、ベラルーシのメディア「ネフタ」グループで元編集長を務めていたロマン・プロタセヴィッチ氏(26)が拘束された。ネフタは、同便の機内と乗客に対して捜索が実施され、同氏が連行されたといち早く報じた。

一方、ベラルーシの国営報道機関「ベルタ」は、機内に爆弾があるかもしれないと警告を受け、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領(66)自らが、同便のミンスク着陸を命じ、戦闘機の出動を認めたと伝えた。

ライアンエアーの声明によると、同便の乗員は「ベラルーシ(の航空管制当局)から機内に保安上の危険性があると告げられ、最も近いミンスクの空港に着陸するよう指示された」という。

ミンスクの空港では機内で点検が行われたが、危険物は見つからなかったという。ウェブサイト「フライトレーダー24」の飛行経路記録によると、同便が行き先を変えた場所は、ミンスクよりヴィリニュスに近かったとみられる。

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画像説明, ギリシャのアテネ(Athens)からリトアニアのヴィリニュス(Vilnius)に向けて飛行中だった旅客機は、ベラルーシ上空で行き先を変更し(Plane diverted)ミンスクの空港(Minsk airport)に着陸した(出典:フライトレーダー24)

同便は午後8時50分に航行を再開。当初の予定より7時間以上遅い同日午後9時25分に、目的地ヴィリニュスに到着した。

降り立った乗客らは、ミンスクへの緊急着陸の理由は知らされなかったと話した。乗客の1人はプロタセヴィッチ氏の様子について、「とても怖がっていた。彼と目が合ったが、すごく悲しそうだった」と話した。

別の乗客はAFP通信に、「彼は周りの人たちに向かって、自分は死刑になると言った」と話した。

ライアンエアーは「影響を受けた乗客全員に、今回の残念な遅延について心からおわびする。ライアンエアーは遅延を制御することはできなかった」と述べた。プロタセヴィッチ氏については言及しなかった。

Supporters of Roman Protasevich wait for his arrival at Vilnius airport

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画像説明, ロマン・プロタセヴィッチ氏の支持者らはリトアニア・ヴィリニュスの空港で彼の到着を待った

欧米などが非難

欧州各国はこの出来事をベラルーシによる「国家的テロリズム」だとし、激しく非難した。欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)による介入を求める声も出ている。

イギリスのドミニク・ラーブ外相は、今回の「途方もない行為」が「深刻な結果」を招くだろうと警告した。

ベラルーシの野党勢力指導者スベトラーナ・チハノフスカヤ氏も、プロタセヴィッチ氏の解放を求めた。チハノフスカヤ氏は、不正があったと広く非難されている昨年8月のベラルーシ大統領選で、ルカシェンコ大統領に破れた。

ルカシェンコ氏は1994年から大統領を務めている。昨年の大統領選以降は、政府に批判的な意見に圧力をかけている。多くの反体制派の人々が拘束されており、チハノフスカヤ氏のように国外に逃れている人もいる。

アメリカのジュリー・フィッシャー駐ベラルーシ大使は、ルカシェンコ氏が爆弾の危険をでっち上げ、ジャーナリストを拘束するために戦闘機を出動させたとし、「おぞましい」ことだとツイートした

欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は、EU各国の指導者らが24日に「この前代未聞の出来事」について協議すると明らかにした。また、ベラルーシは何らかの責任を問われることになるだろうと述べた。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「深刻で危険な出来事」と表現した。

リトアニアと隣国ラトヴィアは共に、ベラルーシ上空は危険だと指摘。ラトヴィアのエドガルス・リンケヴィッチ外相は、すべての国際便の飛行を禁じるべきだとツイートした

国連の国際民間航空機関(ICAO)は、今回の「強制と思われる着陸」が、航行のルールや安全について定めた「シカゴ条約に違反する恐れ」があると指摘した。

ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は、「民間機のハイジャックは前代未聞の国家的テロ行為であり、罰せられなくてはならない」と述べた。

プロタセヴィッチ氏の人物像

ベラルーシのメディア「ネフタ」は、「テレグラム」というアプリを使い、ツイッターやユーチューブで視聴できる番組を運営している。

昨年の大統領選では、野党勢力にとって重要な役割を果たした。選挙後に政府が報道規制を実施する中、その重要性はいっそう増している。

チハノフスカヤ氏によると、プロタセヴィッチ氏は2019年にベラルーシを出国。昨年の大統領選について、ネフタで報じていた。その後、ベラルーシで起訴された。

プロタセヴィッチ氏はベラルーシではテロリストに認定されており、死刑の対象だという。

欧米各国の首脳は、昨年の大統領選で勝利を宣言し、その後にリトアニアに逃れたチハノフスカヤ氏を支援している。同氏はもともと大統領選に出る予定はなかったが、立候補するはずだった夫が収監されたことから、代わりに候補者となった。

ベラルーシでは昨年、ルカシェンコ氏が大統領選の勝利を宣言すると、首都ミンスクなどで何カ月にもわたって抗議デモが続き、数万人が参加した。警察の暴力事案が多数発生しているほか、今年に入って約2700人が訴追されている。

BBCのジェイムズ・ランデイル外交問題担当編集委員は、すでに欧米の多くの国から正統性が疑われているベラルーシ政府に対して、これまで以上の制裁を求める声が出ていると伝えた。