ダニー・ローズ、うつ病と明かす サッカーW杯イングランド代表

画像提供, Getty Images

画像説明, Danny Rose joined Spurs from Leeds in 2007

サッカー・イングランド代表ディフェンダーのダニー・ローズ(27)が6日、うつ病を明かした。けがと家族に降りかかった悲劇が重なり、症状を引き起こしたという。

イングランド・プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーに所属するローズは、複数の英紙とのインタビューで、率直にうつ病を告白した。

ローズは、「今シーズン、トッテナムで試練の時を過ごしたのは秘密でもなんでもない」と話した。

「このため私は精神科を受診することになった。そしてうつ病との診断を受けた。このことは誰も知らない」

「母親にも父親にも言っていない。両親はたぶん、これを読んですごく怒るだろう。でも、今まで隠していたんだ」

「イングランド代表が救いだった」

ローズによると、2017年1月に負った膝のけがの治療が、自身の混乱の時期の始まりだったという。ローズはこのけがで、8カ月間欠場した。

「リハビリの最中、おじが自ら命を絶った。そのこともうつ病の引き金となった」。7日に行われるサッカーのワールドカップ(W杯)を見据えたコスタリカとの親善試合にも出場予定のローズは、そう語った。

「試合場の外でも、他の問題があった。実家に戻っていた8月、母親がドンカスターで人種差別を受けた。母は非常に怒り、動揺した。そしてその後、誰かが家にやってきて、兄弟の顔を撃とうとした。家の中で発砲されたんだ」

「イングランド代表が救いだった。監督と医療スタッフには感謝してもし切れない。スパーズ(トッテナム・ホットスパーの愛称)のチームドクターの医者や精神科医に診てもらうよう言われたのは、問題に対処するのに大きく役立った」

画像提供, Getty Images

ローズによると、当初は必要ないと言われていた、けがをした膝の手術を受けなければならなかったことも、落ち込む要因になったという。

「すごく簡単に、激しく怒るようになった」とローズは話した。「サッカーもしたくなかったし、リハビリにも行きたくなかった」。

「全ては、けがが原因だった。手術は必要ないと言われていたんだ。トッテナムに復帰するためにいくつの薬を試せばいいのかも、いくつの注射を試せばいいのかも分からない。所属クラブに戻るため、コルチゾンや血小板を豊富に含んだ血漿(けっしょう)注射も試した」

「4カ月がたったころ、手術を受けなければならなかった。チームの調子も良く、上手くプレーできていたころのサッカーが恋しくなっていた頃だ。チームはすごくいい調子だった」

「他の誰かより悪い治療を受けたと言いたいんじゃない。でも、難しい治療だったし、それがきっかけだった」

けがで欠場している間、自分とチームメイトは低賃金だとの発言が新聞に載り、ローズは議論を引き起こした。

ローズは、契約している選手が少なすぎで、「グーグルで検索しなくても分かるような」有名な選手がチームには必要だと、スパーズも批判した。

ローズはその後謝罪し、スパーズのマウリシオ・ポチェティーノ監督は謝罪を受け入れた。

「いろいろなことが言われたし、いろいろなことが所属するクラブの舞台裏で起こった。詳細に触れようとは思わない、そんなことしたらまた罰金だから」とローズは今週話した。

「もしロシアで人種差別的な攻撃を受けたら、何も変わらない」

夕刊紙イブニング・スタンダードに掲載されたインタビューで、ローズは人種差別への感覚が「まひ」してしまったほか、サッカー界の当局者が差別に対抗してくれるという「信頼感がない」と述べた。

画像提供, Getty Images

画像説明, ローズ(左)は2012年にセルビアで行われた21歳以下イングランド代表の試合で、人種差別的攻撃を受けた

ローズはまた、人種差別の恐れから、家族にロシアでのワールドカップに来ないよう話したとも明かした。

ロシアサッカー連盟は最近、3月に行われたロシア代表とフランス代表の親善試合で人種差別的な掛け声をかけたファンに2万2000ポンド(約325万円)の罰金を科した。

「もしロシアで人種差別的攻撃を受けたら、何も変わらない」とローズは言う。「そうあるべきではないが、実際そうなっている」。

自身初となるワールドカップへの準備で、「家族の安全を気にしたくない」とローズは付け加えた。

「家族に、来て欲しくないと伝えた。人種差別やあらゆることが起こるかもしれないからだ」とローズは話した。

「父は本当に怒った。直接そう言われた。ワールドカップに行って、息子の姿を見る機会なんて二度とないかもしれないのに、と」

「それを聞いて感情的になった。本当に悲しかった。ありのままを言っただけなんだ。ともかくロシアはワールドカップを開催することになり、我々はそれに向けて行動しなければならなかった」

画像提供, Getty Images

「サッカーはプレッシャーのかかる環境」――英プロサッカー選手会 選手福利厚生担当、マイケル・ベネット氏(BBCラジオ5ライブ

選手たちが自らの状況を告白し、経験を共有すればするほど、他の選手も同じようにしやすくなる。だから、ダニーが自らの悪戦苦闘を伝えたのはそれ自体が素晴らしいし、サッカーのためにも、沈黙の中で苦しむ選手たちにも素晴らしいことだ。

サッカーの世界には、プレッシャーも、高い要求もある。万全の状態を保ち、試合に勝ち続け、圧力のかかる環境にい続けることは、絶え間ない戦いだ。1週間の間ずっと感情の起伏が激しければ、健康状態に影響するだろう。

誰かに助けを求めたいときは

日本では、厚生労働省所管の自殺総合対策センターが、「いのち支える相談窓口一覧」として、都道府県・政令指定都市別の相談窓口に関する情報を提供している。

NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンクも、生きる支援の総合検索サイト「いのちと暮らしの相談ナビ」を開設し、様々な問題を抱える人たちがニーズに合わせて支援策を探し出すサポートを行っている。

一般社団法人 日本いのちの電話連盟は、インターネット相談のほか、ナビダイヤル(0570-783-556、午前10時から午後10時まで)、自殺を考えている人向けの相談電話(0120-783-556、無料、毎月10日の午前8時から翌日午前8時まで)で相談を受け付けている。

米国には、米国自殺防止ライフライン(1-800-273-8255)があるほか、支援が必要な若者向けに「キッズヘルプフォン」(1-800-668-6868)がある。

英国では「ザ・サマリタンズ」が自殺防止のための電話相談を受け付けている(116123)。