サウジ皇太子は狂っていると米上院議員 カショジ記者殺害でCIA報告受け

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画像説明, 今年10月にサウジアラビア総領事館で殺害されたジャマル・カショジ記者(今年5月撮影)

今年10月にサウジアラビア総領事館で殺害されたジャマル・カショジ記者について、米中央情報局(CIA)は4日、上院外交委員会で非公開の報告会を開いた。これを受けて与党・共和党の重鎮議員は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が関与していたはずだと今まで以上に確信したと発言した。

ジーナ・ハスペルCIA長官による説明後、共和党重鎮のリンジー・グレアム上院議員(サウスカロライナ州選出)は、ムハンマド皇太子がカショジ記者殺害に関与していると「強く確信した」と報道陣に話した。さらに、皇太子を解体用の巨大な鉄球になぞらえ、「狂っている」、「危険だ」などと述べた。

グレアム議員はさらに、犯行の証拠の比喩となる「煙の出ている銃」ではなく、「煙の出ているのこぎりだ」と発言。トルコ政府によると、カショジ記者はイスタンブールのサウジ総領事館でサウジ政府の工作員によって殺害され、遺体を外科用のこぎりで解体された。

上院議員は、ムハンマド皇太子が権力を持ち続ける限り、サウジのイエメン内戦介入や、米国からサウジ政府への武器売却は支持できないと述べた。

野党・民主党のボブ・メネンデス上院議員(ニュージャージー州選出)も同意見で、「あのような行動は国際舞台では容認できないという明確で断固たるメッセージ」を米国は発しなくてはならないと述べた。

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共和党のボブ・コーカー上院議員(テネシー州選出)は、ムハンマド皇太子が殺害を命令したと「確信している」と記者団に述べ、ドナルド・トランプ米大統領は皇太子を非難しないことで記者殺害を容認してしまったと批判した。

同じく共和党のリチャード・シェルビー上院議員(アラバマ州選出)は、「今後の問題は、サウジの皇太子とその取り巻きと、あの国全体をどう切り分けて扱うかだ」と述べた。

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上院では共和・民主両党の超党派議員グループが、イエメン内戦に介入するサウジ主導連合の爆撃について、米国の支援を中止するよう求める決議案を提出。近く議決が予定されている。

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カショジ記者殺害についてサウジアラビア政府はこれまでに11人を起訴したが、皇太子の関与は否定している。

皇太子が「おそらく命令」

CIAはカショジ記者殺害について、ムハンマド皇太子が「おそらく命令した」ものだと結論した。殺害計画を主導したとされる皇太子上級顧問のサウド・アル・カータニ氏(すでに解任)と、皇太子がメッセージをやりとりしていた証拠を得ているという。

ハスペル長官は記者が殺される際の音声を聞いたとされているが、11月末に政権幹部が上院全体に非公開で状況説明をした際には欠席した。このためホワイトハウスが、ハスペル長官に欠席するよう命じたのではないかと議会は批判したが、ホワイトハウスはこれを否定している。

11月28日にはマイク・ポンペオ国務長官やジェイムズ・マティス国防長官が上院に、皇太子を記者殺害に結びつける直接証拠は得られていないと報告していた。

トランプ大統領はCIAの結論は決定的なものではないと、あいまいな態度を続けている。11月20日には、「この悲劇について皇太子が知っていた可能性もあり得る。知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない」と述べた。

<解説> 上院がホワイトハウスに圧力――バーバラ・プレット・アッシャー記者(ワシントン)

上院議員たちはホワイトハウスに、サウジアラビアの皇太子を非難させようとしている。それが無理でも、国際社会の規範をこのようにあからさまな形で侵害するなど米国は容認しないと、上院独自でメッセージを発しようとしている。

上院にできることと言えば、武器売却の阻止や延期、追加制裁の発動などだ。トランプ政権を公然と批判する形で、上院はすでにサウジ主導のイエメン内戦介入から米軍の支援を引き上げる決議案を本会議で議決する。

しかし、実際に決議案を成立させるのは簡単ではない。少なくとも現行の形のままでは。確かにカショジ記者殺害については大勢が怒っているが、どういう対応が最適かで合意が形成されていないからだ。そして上院が何を可決しようと、共和党が多数を占める下院がほぼ確実に否決する。

そのため、11月の中間選挙で下院支配を奪還した民主党議員が来年になって就任するのを待って、一からやり直す可能性もある。しかし、米議会手続きには法的な関門がいくつもあり、ホワイトハウスは皇太子を全面支援している。それだけに、ムハンマド皇太子はあまり心配する必要がない。少なくとも今のところは。

しかし、米連邦上院の怒りをいつまでも浴び続けるのは、サウジアラビア政府にとっては心外だろう。自国イメージ改善のためこれまでワシントンで巨額のPR費用を費やしてきたのだから。