新型ウイルス、アフリカ系アメリカ人の感染が深刻 「驚かない」と公衆衛生長官

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画像説明, アメリアでアフリカ系やヒスパニックの感染被害が特に大きいことについて、アダムス公衆衛生長官は自分もぜんそく発作を恐れて40年間、吸入器を持ち歩いていたと記者団に示した(10日、ホワイトハウス)

新型コロナウイルスの健康への影響が、アメリカでは特に黒人に偏って多いことが統計から明らかになった。ウイルスのパンデミック(世界的流行)によって、人種間の経済格差が浮き彫りになっているという指摘が相次いでいる。米政府の公衆医療政策のトップにあたる公衆衛生長官は10日、「まったく驚かない」結果だと話した。

米中西部イリノイ州シカゴでは、人口に占める黒人の割合は約30%だが、新型ウイルスによる死者では70%超にもなっている。

黒人住民の比率が高いデトロイトやミルウォーキー、ニューオーリンズ、ニューヨークなどの他州の主要都市でも、新型ウイルスの急激な感染拡大が発生している。

ジェローム・アダムス公衆衛生局長官は10日のホワイトハウス会見でこれについて、「非常に心配だが、有色人種の人の方が慢性的な疾患による影響を大きく受けているのは、まったく驚かない」と述べ、「自分はいつか致命的なぜんそく発作に襲われるかもしれないと、もう40年間、吸入器をポケットに持ち歩いている」と持ち上げて見せた。

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米ジョンズ・ホプキンス大学の集計(日本時間10日午前10時現在)では、アメリカの感染者は46万5000人を超えて世界最多。死者は1万6000人以上に達している。

全世界の感染者は160万人を超え、9万5000人以上が亡くなっている。一方で、回復者は35万5000人を超えた。

死者の72%が黒人

シカゴ当局によると、同市の4月5日時点のCOVID-19(新型ウイルスの感染症)患者は4680人で、うち1824人が黒人だった。

一方、白人は847人、ヒスパニックは478人、アジア系は126人だった。

同日までの死者は98人で、その72%が黒人だった。

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こうした不均衡はイリノイ州全域でみられる。同州の黒人の比率は14%だが、COVID-19の死者では41%を占めている。

シカゴ市公衆衛生局長のアリソン・アーワディ博士は記者団に、同市の黒人住民の平均寿命は以前から、白人住民より8.8歳ほど短いと説明した。

また、仮に全市民が医師にかかれたとしても、「食品砂漠(生鮮食品の購入が困難な状況)や歩きやすい道路の少なさから、健康面の大きい格差はまだ残るはずだ」と述べた。

ローリ・ライトフット市長は、黒人コミュニティーでは糖尿病や心臓疾患、呼吸器疾患が「とても広くみられる」と指摘。

新型ウイルスが「黒人の街シカゴを壊滅させている」とし、市当局が商店などを見回り、社会的距離が保たれているかをチェックすると述べた。

他の地域でも偏り

新型ウイルスは「平等に」感染が拡大すると指摘されているが、統計からは、住む場所によって感染する確率に違いがあることがうかがえる。

黒人の人口比が14%のミシガン州では、6日時点で、新型ウイルスの感染者の33%、死者の41%が黒人となっている。

これに対し、白人は感染者の23%、死者の28%と、黒人より低い。

住民の約80%が黒人の同州デトロイトと近郊には、州内の感染者の約80%が集中している。

動画説明, アメリカと中国、イタリア、韓国……それぞれの新型ウイルス致死率

同様の偏りは、ウィスコンシン州ミルウォーキーでもみられる。

非営利の調査報道団体プロパブリカによると、ミルウォーキー郡では黒人の人口比は26%だが、3日時点で約1000人に上っていた感染者のほぼ半数が黒人だった。また、死者27人の81%が黒人だった。

新型ウイルスの影響が深刻なルイジアナ州では、COVID-19による死者の黒人の割合は70%を超えている。同州のアフリカ系アメリカ人の人口比は32%だ。

同州内の死者の約40%は、住民の多数を黒人が占めるニューオーリンズ地域で確認されている。

ニューオーリンズ市当局は、肥満、糖尿病、高血圧の住民の割合が全国平均より高いことが、COVID-19に対する同市のぜい弱さにつながっているとしている。

新型ウイルスで断層がくっきり

ヴァージニア州から連邦下院に立候補しているアフリカ系アメリカ人医師のキャメロン・ウェブ博士は、新型ウイルスの世界的流行(パンデミック)によって、人種間の経済格差が強調されているとBBCニュースに話した。

「本当に社会の断層が浮き彫りになっている」

シカゴ市議会の黒人議員団トップ、ジェイソン・アーヴィン氏は、「市内の一部で外出禁止命令に従わない人の割合が高い」ことも、比率の違いの一員となっている可能性があると、地元紙シカゴ・トリビューンに述べた。

ウイルスを浴びる機会も多い

アダムス長官は記者会見で、「アフリカ系アメリカ人とアメリカ先住民は、ほかよりずっと若くして高血圧になる。プエルトリコ人はぜんそくになる割合が多いし、黒人の男の子がぜんそくで死亡する確率は白人の男の子の3倍だ」と話した。

「実のところ、私も致命的なぜんそく発作を恐れてもう40年間、吸入器をポケットに入れて持ち歩いてきた。この吸入器を皆さんにお見せすることで、国中にいるぜんそくの子どもが、いつか公衆衛生長官になると知ってもらいたい」

アダムス長官はさらに、アメリカの有色人種は新型コロナウイルスを浴びる機会も白人より多く、COVID-19の症状が悪化するおそれも高いと指摘。

「手を洗うよう呼びかけても、(先住民の)ナヴァホ・ネーションにある世帯の3割に、上下水道が供給されていない」と述べ、「感染拡大を抑止するためのガイドラインを徹底するのは、特に有色人のコミュニティーで大事だ」と強調した。

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