【解説】 「三種の神器」、皇室が持つ謎の宝物

アナ・ジョーンズ、BBCニュース

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画像説明, 岩戸神楽ノ起顕(枝年昌)

日本では4月30日、天皇が退位され、5月1日に皇太子徳仁親王が新たな天皇に即位される。

天皇の退位と即位は、どちらも神道の象徴的な儀式に彩られる。その中心となるのが「三種の神器」と呼ばれる、皇位を象徴する宝物だ。

三種の神器の起源や所在は謎に包まれているが、それらにまつわる神話は日本の歴史から現代のポップカルチャーまで広く浸透している。

なぜ三種の神器は重要なのか

日本の宗教のひとつ、神道は、儀式を非常に重視している。過去や、人間の命に関わる魂とつながるための儀式だ。

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画像説明, 三種の神器は即位の礼で大きな役割を担うが、実物を見たことのある人はいない

三種の神器も、こうした神道の一部だ。神々から、直系の子孫とされる皇室に代々伝えられていると言われている。日本の天皇は王冠を被らない代わりに、三種の神器が皇位を表す。

しかし、神聖なこれらの宝物は、人々の目から隠されている。

名古屋大学の河西秀哉教授はBBCの取材に対し、「いつ作られたのか分からないし、見たことがありません」と説明した。

「天皇ですら見たことがないのです」

皇室の即位式である「即位の礼」においてさえ、形代(かたしろ、レプリカ)を使う。なお、このレプリカもまだ披露されていない。

オリジナルは、もし本当にそこにあるとすれば、日本各地の神社にとどまることになる。

八咫鏡(やたのかがみ)

1000年以上も前に造られたとされる八咫鏡は、三重県の伊勢神宮に納められていると信じられている。

倫理学の研究機関「モラロジー研究所」の竹中信介博士によると、三種の神器の中でも八咫鏡が最も神聖とされている。

1989年に天皇が即位された際、八咫鏡だけは「剣璽等承継の儀(けんじとうしょうけいのぎ)」で継承されず、皇居の賢所(かしこどころ)で個別に祭儀が行われた。

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日本の民話では、鏡は神の力を持ち、真実を映すとされる。皇室の儀式では、八咫鏡は天皇の知恵を象徴する。

日本の古代神話を記した古事記によると、八咫鏡は伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)という神によって造られた。

太陽神である天照大神(あまてらすおおみかみ)が、きょうだいの建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)との不和を理由に天岩戸(あまのいわと)に隠れてしまい、世界は闇に包まれた。

困った神々は宴を開いて天照大神を誘い出そうとした。天照大神は、八咫鏡に映った自分の写し身に誘われて外に出て、世界に光が戻ったとされる。

八咫鏡を含む三種の神器はその後、天照大神の孫に当たる邇邇芸命(ににぎのみこと)に受け継がれた。

竹中博士によると、天照大神は邇邇芸命に「この鏡こそは、ひたすら私の魂として、私自身を祭るように心身を清浄にしてお仕えせよ」と命じたという。

邇邇芸命は、紀元前660年に日本で最初の天皇となった神武天皇の曽祖父とされている。

草薙剣(くさなぎのつるぎ)

草薙剣は、愛知県の熱田神宮に祭られているといわれている。

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伝説によると、草薙剣は8つの頭を持つヘビ「八岐大蛇(やまたのおろち)」の尾から生まれた。

八岐大蛇に娘を食べられてしまった老夫婦が、最後に残った娘との結婚を条件に須佐之男命に助けを求めた。

須佐之男命は八岐大蛇に酒を飲ませて退治し、その尾から草薙剣を見つけた。

草薙剣はその後、天照大神に捧げられた。

剣は天皇の勇敢さを示している。しかし、その由来や所在はほとんど分かっておらず、実在を疑問視する声もある。

ただ、その存在が秘匿されているのは事実だ。江戸時代、1人の神主がこの剣を見たと触れ回ったが、その後、神主は流刑にされたという。

一方、12世紀の壇ノ浦の戦いで失われたという説もある。しかし竹中博士は、この失われた草薙剣もレプリカだった可能性があり、現在は別のレプリカが皇居に安置され、即位の礼に使われると説明する。

1989年の平成の即位の礼では、天皇は草薙剣を継承したとされているが、剣を納めた箱が開けられることはなかった。

八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

勾玉とは、紀元前1000年ごろから日本で作られ始めたコの字型に曲がったビーズの一種。もともとは装身具だったが、後に象徴的な価値を持つようになった。

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璽(じ)とも呼ばれる八尺瓊勾玉は、天照大神の岩戸隠れの際に、玉祖命(たまのおやのみこと)が作って飾ったとされる。

三種の神器の中では唯一「オリジナル」が残っているとされているものだ。

現在は皇居に保管されており、天皇の慈悲を象徴している。

日本人は三種の神器を信じている?

日本の皇室はその祖先を天照大神としているが、現在の天皇は神を称してはいない。第2次世界大戦に負けた後、昭和天皇は自らは人間であるという旨の詔書を出した。

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画像説明, 1912年、京都御所で行われた大正天皇の即位の礼の図画

河西教授は、三種の神器には神の力が宿っていると信じている日本人も多くいるが、「他の国で王族が持つ王冠のような、装飾品としてみているでしょう」と説明した。

その上で、三種の神器の重要性は「天皇の神秘さを表し」、「皇室というシステムが長く続いている象徴」になっていることにあると述べた。

竹中博士は、三種の神器が先住の大和民族や出雲民族と帰化系民族の融合を表していると分析する専門家もいると指摘した。

この説を採れば、三種の神器は「この三つの民族を差別することなく統治する天皇」を表していることになるという。

一方で、20世紀にはテレビと冷蔵庫、洗濯機が「三種の神器」と呼ばれたように、現代の日本人にとって、この単語はより実用的な意味合いが強くなっていると話した。

追加取材:大井真理子