南アで新たな変異株を検出 「これまでで最も激しい変異」

ジェイムズ・ギャラガー、保健・科学担当編集委員

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画像提供, Getty Images

南アフリカで、新型コロナウイルスの新たな変異株が検出されたと、専門家らが25日に発表した。ヒトの免疫反応を回避する特性を持つ恐れがあるとして、懸念が高まっている。

今回発見された新型ウイルスの変異株は、これまでで最も激しい変異がみられるため、「恐ろしい」と言う科学者もいる。また、別の科学者は私に、「これまでに見た中で最悪の変異株」だと述べた。

新たな変異株への感染は初期段階にあり、症例のほとんどは南アフリカの1つの州に集中している。ただ、感染が広がっている可能性も示唆されている。

この変異株がどれくらいの速さで拡散するのか、ワクチン接種で獲得した防御機能の一部を回避する能力がどれくらいあるのか、そして我々は何をどうすべきなのか――などの疑問が浮上している。

多くの憶測が飛び交っているが、明確な答えはほとんどない。

分かっていること

南アフリカで検出された変異株は「B.1.1.529」と呼ばれる。世界保健機関(WHO)は26日にも、ギリシャ文字を使用した名称を付ける。WHOはこれまでにも、イギリスで最初に特定された「B.1.1.7」系統を「アルファ」、インドの「B.1.617.2」系統を「デルタ」などと名付けている。

変異株「B.1.1.529」には、実のたくさんの変異がみられる。南アフリカの感染症流行対応・イノベーション・センターの局長、トゥーリオ・デオリヴェイラ教授は、「特異な変異の集合」があるとして、これまでに流行したほかの変異株とは「非常に異なる」と述べた。

「この変異株に我々は驚かされた。予想以上に一気に進化していて、はるかに多くの変異が起きている」

デオリヴェイラ教授は記者団への説明で、全体で50の変異があり、そのうち30以上の変異がスパイクたんぱく質にみられたと説明した。ウイルスの表面にあるスパイクたんぱく質には、ウイルスが人体の細胞に侵入するためのカギとなっている。現在開発されているほとんどの新型ウイルスワクチンは、このスパイクたんぱく質を標的としている。

さらに、受容体結合ドメイン(RBD、スパイクたんぱく質の中で、人体の細胞の表面に最初に触れる部分)を見てみると、世界中に広まったデルタ株では2つしかなかった変異が10も確認された。

Omicron

これだけの変異があるということは、ウイルスを撃退できなかった1人の感染者の中で発生した可能性が高い。

変異の数が多いからといって、必ずしも悪い状況だというわけではない。数々の変異が実際にどう作用しているのかを知るのが大事だ。

ただし、この変異株が中国・武漢で発生した最初の新型ウイルスとは根本的に異なる。その点は、気がかりだ。つまり、従来株を使って開発された新型ウイルスワクチンは、新しい変異株にはそれほど効かない可能性があるのだ。

一方で、これまでの変異株で確認された変異も含まれているので、その作用の仕方は類推できる。

例えば、N501Yと呼ばれる変異によって、新型ウイルスは伝播(でんぱ)しやすくなったとみられる。ほかにも、抗体がウイルスをなかなか認識できず、そのせいでワクチンが効きにくくなる可能性のある変異や、全く新しい変異もある。

南アフリカのクワズール・ナタール大学のリチャード・レッセルズ教授は、「このウイルスは感染力が強まり、ヒトからヒトへ感染を広める能力が高まっているだけでなく、免疫システムの一部を回避できるのではないかと懸念している」と述べた。

これまでにも、恐ろしいとされた変異株が、実際にはそうでもなかったという例は数多くある。今年の初めには、免疫システムを回避できるベータ株が最も懸念されていた。しかし最終的に世界を席巻したのは、より速いスピードで拡散するデルタ株だった。

英ケンブリッジ大学のラヴィ・グプタ教授は、「ベータ株には免疫系を回避する能力しかなかった。デルタ株の場合は感染力と、若干の免疫回避能力があった。今回見つかった変異株はその両方の特性を、高いレベルで備えている可能性がある」と述べた。

どこまで広がっているのか

実験室での科学研究はより明確な情報を与えてくれるが、現実世界での新型ウイルスの状況をモニタリングすることで、より早く答えを得られることになる。

はっきりと結論を出すには時期尚早だが、すでに不安を引き起こしている兆候は複数ある。

南アフリカで検出された変異株への感染は、同国ハウテン州では77件、ボツワナでは4件、香港では1件確認されている。香港のケースは南アフリカからの旅行者から検出されたという。

この変異株がさらに広範囲に広がっていることを示すサインもある。

この変異株は、標準的な検査では特異な結果(「S遺伝子のドロップアウト」と呼ばれる)が出るとみられることから、標準検査を使えば完全な遺伝子解析を行わなくても変異株の追跡が可能だ。

ハウテン州の症例の90%が新たな変異株の感染者だという可能性があり、南アフリカの「ほとんどの州にすでに存在している可能性がある」とみられる。

しかしこれだけでは、デルタ株よりも早いスピードで広がるのか、より重症化の恐れがあるのか、予防接種で獲得した免疫をどの程度回避するのかといったことは分からない。

南アフリカではワクチン接種を完了した人が24%にとどまっている。この変異株が、接種率がはるかに高い国でどれくらい広がるのかも分からない。

我々は十分な知識がない中、大きな懸念を抱かせる変異株に直面している。この変異株を注視し、いつどう対応すべきか問い続ける必要がある。全ての答えが出るまで何もせず待機すればいいとは限らない。それが、このパンデミックで得た教訓だ。