「アリババとのビジネスは本当に面白い」フルグラで中国攻めるカルビー松本会長

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2016年11月11日、中国最大手オンラインモール「T-Mall」の売り上げは秒速、爆速で推移した。結局、この日1日でT-Mallは1兆9000億円を売り上げた。 中国の「独身の日」11月11日、T-Mallは2009年から毎年、熱狂的な消費現象を引き起こしてきた。

13億人市場の中国では、広大な国土の隅々まで商品を行き渡らせる必要から、Eコマースが急激に発達。 カルビーは2017年2月、 T-Mallを運営するアリババとの直接契約を発表した。中国にいながら日本製品を購入できる越境ECに中国市場開拓の命運を賭ける。

カルビーがアリババと組んで半年。今、中国市場や越境ECをどう捉えているのか、松本晃会長兼CEOに話を聞いた。


カルビー松本会長

2011年にはわずか37億円だったフルグラの売り上げは、7年で8倍になった。

松本晃(以下、松本):中国でものを売ろうとしたら、Eコマースは無視できません。アリババの売り上げは60兆円。 比較して、日本のGDPは523兆円。我々からすれば信じられないことですが、このまま成長すれば、アリババの売り上げは近いうちに日本の個人消費135兆円の半分にもなろうという数字です。

Business Insider(以下、BI):カルビーはこれまで中国では康師傅(注:インスタントラーメンを中心に中国大陸で展開する台湾系大手食品企業)とパートナー契約を結んでいましたが、2015年末に一旦解消しました。アリババとの提携によって中国市場への再挑戦を決めたきっかけは何ですか。

アリババもテンセントもスケールが違う。だから面白い

松本:日本国内のスーパーで複数の日本人がフルグラを大量に買い占め、一般のお客様から手に入りづらいとクレームがくるという現象から始まりました。その後、いくつかの卸が中国に輸出しているようだと。それだけで60億円分ぐらいになりそうだと。

フルグラ全体の売り上げが292億円ですから、2割が中国で消費されていたんです。それでフルグラが中国人に人気があることが分かり、我々も中国で本気で売っていくことにしました。

カルビー松本会長

BI :アリババとの提携にあたって「この会社はめちゃめちゃ面白い」とおっしゃっています。実際に組んで半年経って、どうですか。

松本:アリババもそうだし、テンセントも、まだ全体がよく分からない。だから面白い。日本でも楽天とかアマゾンはありますが、スケールが違う。これからどう変わっていくのか、想像を超えるものがある感じがします。

BI:スケール感とは具体的にはどのような?

松本:まず、アリババのEコマースの取扱高は、中国を除いた世界中のEコマースを全部足したものより多いそうです。アリババの中国国内のビジネスが、アマゾンの世界中での売り上げより大きいということです。

それくらい大きなスケールでやってるアリババが何をどう動かしていて、次は何を考えているのか、それを少しでも知ることができたら、それはめちゃめちゃ面白い。

彼らの考え方を学べば日本市場にも活かせる

BI:実際にはアリババと組むとどんないいことがあるんですか?

松本:フルグラを買ったお客さんについて、「次はこういうものを買う」といった嗜好や消費をデータに基づいて解析するんですが、そこに従来のマーケティングとは全く違う考え方やセンスが必要だということが彼らと付き合っているとよく分かります

アリババとビジネスをすることで、我々はアリババの考え方を学べ、それを中国市場を攻める際だけでなく、日本国内のEコマース市場開拓にも活用したいと考えています。

つまり、彼らとのビジネスによって、我々は「カルビーがEコマースで売っていくべきものは何か」を考えるヒントをたくさん得られるということです。

BI:国内ではフルグラの定期便サービスが始まっていますね。

松本:あれはまだまだ小さい。もっと大胆に根本的にEコマースを開拓していかないといけません。とにかく、国内ECにも参考になることがたくさんあるんですよ。

BI:中国向け越境ECは、ひとまずフルグラで行くわけですが、ずばり売り上げ目標は?

フルグラ

「中国向けは『北海道』をもっと目立たせないと」と松本氏。

松本:まずは200億円をめざします。そのために、北海道と京都に中国向け専用にフルグラの工場をつくりました。北海道はすでに稼動していて、年間40億円分が製造可能です。それは完売見込みです。「北海道」は中国では今もブランドとして人気が根強いので、新しくできた工場から出荷するフルグラは「北海道産」が目立つようにパッケージをデザインしました。

京都工場は2018年夏に竣工します。2つの工場では中国向けに生産するわけですから、2019年度には目標売上高150億円に到達するでしょう。そうでないと困ります。

BI:フルグラは、中国人の味覚や食習慣にどのように合うんですか。

松本:牛乳をかけて食べるというよりは、そのままポリポリと食べるのを好む人が多いようです。購入者は男女半々。概ね若い人がお客様です。800グラム入りの大きな袋を70元、およそ1000円で販売してます。

ビールや水を常温で飲む習慣がある中国では、冷たすぎる飲み物は受け入れられにくいので、今後は温かくして食べる、あるいはスープ感覚で食べられるような甘くないフルグラなど、新しい商品の開発も進めていきます。

BI:フルグラが中国人に受け入れられたのはなぜですか?

松本:それは圧倒的なおいしさです。フルグラは、競合商品がさまざまあるシリアルの中でも圧倒的においしい。それに尽きます。

BI:中国市場全体で将来的な売り上げ目標を500億円に設定しましたね。

松本:そうです。僕、1000億円は行けると思ってるんですよ。まあ、これはいつものホラですけどね。でもホラから始まるんです。13億人の胃袋がある、そのうち1%の人たちが毎朝50グラムのフルグラを食べてくだされば、あながち遠い話でもない。

カルビー松本会長

BI:提携時にアリババから「独身の日(11/11)」まではT-Mallとの独占契約を求められていますが、独占契約をしたんですか?

松本:いや、独占契約はしていません。ほかのモールとも少々の取引はしています。

BI:先方が気に入らなければ、「うちでは売りません」と一方的に切られることも考えられますよね?

松本:それはもちろんあるでしょう。でも、アリババをはじめ、プラットフォームビジネスの運営会社には大きな弱みがある。彼らは、自分では商品を作っていません。もちろん売る人も強いんですが、しかし、モノをつくっている人ほど強いんですよ。

アリババは優秀なメーカーを囲いたがっている

BI:だから「独占」に対しても屈するという姿勢ではないと?

松本:彼らも「売ってやる」という感じではありません。我々も、アリババとだけやると言っているわけではありません。現在急成長中のJD.COM(注:BtoCに特化したECサイトの市場でシェア2位)をはじめ、どこと組むかは実はこっちが決められるんですよ

確かに、アリババはいま、カルビーよりずっと力がありますよ。その半面、売る商品を持っていない。だから、できる限り優秀なメーカーを自分たちのモールに囲い込みたいという気持ちはありますよね。

うちは2015年に上海につくった越境EC専門の会社が、実際にアリババとの交渉を行っています。

BI:海外事業展開の苦戦が続いていましたが、アリババとの提携で、中国市場開拓のとっかかりをつくるのに成功できそうでしょうか。

松本:実は、2017年3月にCCTV(中国中央電視台)が「日本の東京を含めた1都9県でつくられた食品が輸入禁止なのにネットで売られているのはけしからん」というニュースを報道した影響で、売り上げが一旦ゼロになり、いま挽回中です。今は試練なんです。

カルビー松本会長

ジャガイモ不作によるポテトチップス売上減もあり、今年はカルビー8年目にして初めての試練。「だから面白いんですよ」と言う。

BI:今年のダブルイレブン(11月11日)への期待を聞かせてください。

松本:いま、予約申し込みの受付の最中なんです。今予約すれば3割くらいお得。「独身の日」が終わったら一時的に売り上げは下がりますから、予約だけで完売になるくらいの勢いでないと、ダメなんです。中国でも、成功の秘訣は「圧倒的なおいしさ」と「安さ」です。

それにしても中国人とのビジネスは面白い。だって彼らは目的がはっきりしている。日本人みたいにへ理屈を言わない。とにかく「儲けたい」。それは僕にはほんとに面白い。年内、あと2回は中国に行きますよ。

(構成・三宅玲子、写真・竹井俊晴)

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